ヒイラギさんは甘えたい!1

えんとま

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「あ、今日はナスが安くなってる。お豆腐も買って麻婆茄子にしようかな」

「こっちのジャガイモのほうがいいかな、うーん、こっちにしよう」

スーパーの野菜売り場で野菜を選定するヒイラギさんと、それを離れたところから見つめるエイト。

(何を比べて選んでるんだ?同じにしか見えん…)

二人は放課後、制服姿のまま近くのスーパーまで来ていた。はたから見てみれば仲のいいカップルがこれから彼女の作る夕飯の食材を選びにきているように見えなくも無いが断じて違う。ましてや同棲を始めたわけでもない。

時はさかのぼること数時間前、4月の初めのころにクラスで行うレクリエーションの話を二人でしたが、結果バドミントン大会なるものが開催されることとなった。
開催に当たり二人のクラス2-Cの担任である松中先生が、なんとポケットマネーで優勝商品を買ってこいと太っ腹なことをいうものだから、二人で相談し手ごろにお菓子でもとスーパーに足を運んだ。

何でもヒイラギさんのいきつけスーパーらしく、商品を買うついでに柊家の食材も買っていこうという魂胆である。
当然エイトは食材の何が必要で何がよくてなど何も知らないわけで、早速優勝商品であるお菓子選びに向かった。

(これ、俺の好みでいいのかな。優勝者以外に何も無いのもかわいそうだし、松中センセも割りと出してくれたからなぁ)

いろいろ考えつつもいくつかお菓子を選び、金額以内に収まるよう買い物籠に詰め込んだエイト。一足先に目的を達成できたので、まだ食材を選んでいるヒイラギさんのところへ合流した。

「あ、大槻君。ごめんね、選ぶの任せちゃって」

「ううん、ぜんぜんいいよ。それよりヒイラギさん、結構買うんだね」

ヒイラギさんの買い物籠にはたくさんの食材が詰め込まれていた。
さすがに重かろうとエイトは買い物籠を持ち、そのままレジへ向かう。

「今日は安くなってるのが結構あったから、いっぱい買いだめしちゃった」

会計を済ませ商品がつめられたレジ袋は大きく膨らんでいる。本来ならここで別れる予定だったが、これは一人ではもてないだろう。

「これはもってかえるの大変だよ。俺、持つからヒイラギさんの家まで一緒にいこう」

エイトの言葉に申し訳なさそうに笑うヒイラギさん。

「ありがとう、助かるわ。張り切って買いすぎちゃったね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふぅ~着いたね」

「ありがとね、お疲れ様」

あれから15分ほど歩いただろうか。

距離にすればさほど遠くはなかっただろうが、両手に荷物を持っていると話は違う。部活もやっておらず普段から体力づくりをしていないエイトにはなかなかの重労働だ。

「玄関までは運ぶよ。そしたら俺は帰るからさ」

「あら、帰っちゃうの?折角だからあがっていってよ。ここまで持ってきてもらってすぐ帰らしたら悪いし、お茶でも飲んでいって」

(う、ヒイラギさんの家に上がるとは…女の子の家に入ったことも無いのにいきなりヒイラギさんの家はハードル高くないか…)

「いいよそんなに気にしなくって。最近運動不足だったし、いい運動になったと思えば」

「でも…」

エイトがお宅訪問を渋っていると、いきなり背後から明るい声が飛んでくる。

「あ!おねーちゃん、ただいま~!」

(おねーちゃん!?ってことはまさか!?)

エイトが後ろを振り向くと、そこにはヒイラギさんの面影を少し感じさせる女の子がたっていた。
髪を後ろで束ねたポニーテールにパッチリ開いた瞳、とても活発そうな印象でクールなヒイラギさんとはまるで反対のようだが、輪郭やら目やらでどことなく妹だとわかる。

「あれ、お客さん?こんにちわ!」

「あ、こんにちわ」

もう時間も夕方だというのにとても元気だ。その勢いにおされ気味のエイト。妹はというとエイトのほうをジーと見て…

「あっ、もしかしておねーちゃんが言ってた人?」



ふーん、となにやら含みのある笑みを浮かべると…

「ま、立ち話もあれなんであがってってください!ほら、おねーちゃんもそれ持って家に入って!!」

「え、ちょ!ちょっと!」

渋っていたエイトだったが、妹の出現により半ば無理やり家へと押し込まれてしまった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(これが…女子の家…)

初めてあがる同級生の女子の家に緊張気味のエイト。不思議といいにおいがして、所々に人形であったりレースのカーテンだったりとかわいらしさが散りばめられている。なんだか別世界に来てしまったようでまるで落ち着かない。

ヒイラギさんはというとお茶を入れてくるといって台所へといってしまった。今はリビングで妹と二人きりだ。



なにやら視線を感じるエイト。先ほどから妹がこちらをじーっと見つめている。初対面でしかも女の子相手に、顔を合わせにくかったエイトだが、さすがにこらえ切れず顔を上げる。目が合った瞬間、ニッと笑う妹。

「お兄さんがおねーちゃんの彼氏さんなんですね!!」

「ブフォオッ!」

口に何も含んでいなくてよかった。妹からの衝撃発言に思い切り噴出してしまうエイト。
反応が面白かったのか、妹はけらけら笑っている。

「流花、だから違うっていってるじゃない」

そこへヒイラギさんがお茶を持ってきてくれた。

「ごめんね大槻君。妹の流花よ」

「はじめまして大槻さん!柊 流花、中学三年生です!」

にかっとまぶしいくらいの笑顔で自己紹介をする妹の流花。

「はじめまして、大槻 永人です」

「あははっ、いいですよ敬語なんて。私のほうが年下だし、それに来年には後輩になるんですから」

「え、流花さんうちの高校に入学するの?」

さんづけもしなくていいですーとニコニコ笑う流花。まさか妹さんも暁高校にくるつもりでいるとは…エイトは来年も波乱の年になること今から覚悟する。

これだけヒイラギさんが暁高校で注目を浴びているのだから、その妹が入学するとなれば入学前からうわさになるに違いない。

(…といっても妹のほうはなんていうか、姉とは性格がまるで違うというか。失礼な言い方かもしれないけどヒイラギさんほど完璧っ!手感じじゃなくて、いまどきの女の子って感じだな)

ふーむ、と二人を見比べるエイト。

「大槻君、いま姉妹でぜんぜん似ていないなって思ったでしょ」

ふふっと微笑を浮かべるヒイラギさん。どうやら顔に出てしまっていたみたいだ。

「ですよね~、親からも二人は正反対だねって言われるんです。大槻さんも知ってると思うけどおねーちゃんって何でもできちゃうし面倒見もいいもんだから、その分私が自由にさせてもらってて。だから性格が違うのはなるべくしてなったんだと思います。私が好き放題できるのはおねーちゃんのおかげなんです!」

「流花ってばお客さんの前だとお利巧さんなこというんだから」

「むぅ、そんなことないです!」

むっと顔をしかめ怒ってみせる流花。
その様子がなんともほほえましくて、つい笑みがこぼれてしまうエイト。

「確かに性格こそ違うかもしれないけど、まったく同じ人間なんてたとえ家族でもいないわけだし。それに根っこのところじゃ二人はやっぱり姉妹だなって思うよ」

二人を見返しながら、エイトは話を続ける。

「さっきの流花ちゃんの話を聞きながら思ったけど、中学3年生であれだけしっかりした考えを持って、それを伝えることができるんだもの。性格の違いから正反対だって一見思うかもしれないけど、やっぱりお姉さんに似て流花ちゃんもとてもしっかりした子だと思う」

おー、と感心したようにエイトの顔を見つめる姉妹。

「私たち姉妹が似てるだなんて言ったの、ひょっとして大槻さんだけかも知れません…すごいですね、さすがおねーちゃんの彼氏さんです!」

「だから彼氏じゃないってば」
「だから彼氏じゃないんだって」

同じタイミングで似たような突込みを入れるヒイラギさんとエイトに、またけらけらと笑う流花。

「あっははははは、おもしろい!そんなに息ぴったりなら付き合っちゃえばいいのに!」

まったく、聞く耳持たないんだから。ため息をつくヒイラギさん。

「俺、そろそろ帰るよ。ご馳走様、お茶おいしかったよ」

「あら、もうこんな時間なのね。ちょっと待ってて、お見送りする前に湯飲みを洗ってしまうわ」

そういって全員の湯飲みをもって台所へと消えるヒイラギさん。

「ねぇ、大槻さん」

ヒイラギさんがいなくなったタイミングでこそっとエイトに話しかける流花。

「私、すごいびっくりしてるんです。知ってのとおりおねーちゃんってしっかりしてて何でも一人でこなしちゃって…その代わり人前でくだけることができないんです。だから同じ年の友達すらできなかったのに、今年に入ってなんだが人が変わったみたい」

これもきっと大槻さんのおかげだよっ、とうれしそうな顔をする流花。

「本当に彼氏になってほしいとまでは言わないけど、これからもおねーちゃんの友達でいてくれますか?」

まっすぐな、本当にまっすぐな気持ちだった。きっと姉のおかげで何でもできた自分に非を感じて、心から姉のことを想っているのだろう。やっぱり二人は似ている。妹だってこんなにしっかりした、よくできた妹じゃないか。

「流花ちゃん、友達ってのはお願いしてなるもんじゃないだろ?心配しないでも大丈夫だよ」

(変なお願いするところも姉妹で似てるのかな)

エイトの言葉に思わず笑みをこぼす流花。

「えへへ、それもそうですね!なんだか頼れるおにーちゃんができたみたいで私もうれしいです。よろしくね、大槻おにーちゃん!」

「お、おにーちゃん!?」

「あはは、だめかな?」

(なぞの距離のつめ方も姉妹で同じじゃねーか!!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
外は暗くなり始めていた。柊家を出たエイトはまっすぐ自宅への帰路に着いた。
家への道を歩きながら、一人考える。

(流花ちゃんの前ではあぁ言ったものの…俺の掲げる平穏高校生活を実現するためにはヒイラギさんとの距離を開けるしかないんだよなぁ)

もはや今更ではあるが、エイトは当初の目的を改めて思い出す。

(だけど、委員会や係りの仕事だけじゃなくお昼時も一緒にいるし…それに今の関係を悪くないって、俺は思い始めてる…。)

(おかしいよな。。また繰り返すかもしれないのに…どうしたいんだろ、俺は)

夕暮れ時のひと気のない道を一人歩く少年は思春期真っ只中、いろいろな思いを胸のうちに巡らせながら悩みをかき混ぜるのだった。

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