46 / 47
闇に染まる森
ちらつく危うい香り
しおりを挟む
一直線に続く廊下。壁も照明も清潔感のある白一色。実に殺風景である。
そんな殺風景な廊下に1人、雲仙が歩いていた。
「のぅキース、おかしいとは思わんか」
『えぇ、あまりに手薄すぎます』
アースガルドに向かった4人と別れた雲仙は、キースが突き止めたアルフェウスの拠点と思しき施設へ侵入していた。
幾らかの敵と遭遇しその都度戦闘をしていた2人だが、施設の中をあらかた回ったところで違和感を覚えていた。
「お主、施設に入ってどれほどの敵を倒してきた?」
『十数人といったところですかね。20はいっていないと思います』
「あぁ、ワシもそんなもんじゃ。この施設、広さの割に人が少なすぎる」
『大元の拠点でないにしろ流石におかしいですね…グルー、シリエに繋いでくれ』
しばらくすると、キースの手の甲からシリエの声が響く。
『よんだかしら、キース』
『今ギルドにはどれだけ冒険者が残っているかい?』
『今?私以外は誰もいないわよ?』
少し間を置くキース。なにやら思うところがあるようだ。
『そうか…もう一つ、みんな遠方に出払っているんじゃないかい?』
キースの問いにあら、と驚きの声を上げる。
『よく知ってるわね。一番近いとダンのところかしら。それでも戻ってくるのに1日はかかるわ』
『…やはりそうか。わかった』
キースは何かに気づいたようだ。
『シリエ、雲仙さん。僕らはおそらく嵌められたみたいだ』
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
アースガルドの広場には、一際目立つ影があった。街に入るための三つの門から伸びる道が一つになる、そのひらけた場所に立つ大きな鎧が、大きな剣をぶん回し、ばったばったと魔物を斬り伏せている。
「ぬぅうううううん!!」
ドイルの大剣が描く軌跡は剣術のそれとは全く違う。もはや斬っているというよりは剣で殴っているという表現の方が似合っているといってもいい。
だがこれだけ大量の魔物が波のように押し寄せる戦場では、これが最適解だといえよう。
魔物が集まっては切り飛ばされ、撃ち漏らしの半分はナタリアの矢が射止めている。そのさらに撃ち漏らしを妖精の森の冒険者が刈り取っていた。
あたりにはドロップアイテムが散らばっている。
「斬っても斬っても切りがない。ナタリア殿、まだ後続は控えているか!」
『ダメね~、あの森こんなに魔物がいたのね。このままじゃジリ貧よ』
使い魔越しにナタリアの大きなため息が聞こえてくる。
弓矢による遠距離攻撃を得意とするナタリアは、街の一番大きな大樹の上で状況把握も兼ねて陣取っていた。
『街に被害が出るかと思って控えてたけどアレ使っていいかしら?もうしのごの言っている場合じゃないし』
「ヌ!少し待て、他の冒険者を離れさせる!」
ドイルはあたりにいる戦闘中の冒険者に一時戦線を離脱するよう伝える。
その様子を見ながらナタリアの方も準備を進める。
「ᚺᛟᚾᛟᚱ ᚨᛟᚣᚨ ᛞᛟᛋᚺᚢ ᛁᚲᚢᛏᚨᚱᛟᚣᚨ」
「ᛋᛟ ᛁ’ᛗ ᛁᚹᚨᛗᛟᛏᛟ ᛏᚱᛖᚨᛞᛁᚾᚷ ᚲᚺᛁᛖᚲᛟ ᚷᚨᛋᛖ!」
ナタリアは手に一本の矢を握りしめる。
詠唱により魔力はその矢に集結する。
「ᚺᛟᛒᛟ ᚾᛟᚨᛗ’ᛋ!」
エンチャントを終えた矢はまるで炎を宿したように紅く煌めいている。
その矢を弓にかけ、ナタリアは標準を天高く空へ向ける。
「ドイル、撃つわよ」
『問題ない、かましてくれ』
ヒュン!と矢は勢いよく放たれ姿を消した。そのすぐ後、一瞬空が光を放ち雲が紅にに染まる。
次の瞬間、鋭く尖った炎の雨が魔物達がひしめくアースガルドの広間に一斉に降り注ぐ!
大きな火柱とともに熱風があたりに広がる。次第に炎は小さくなり、その場には黒焦げた大地と魔物があるばかりだった。
その様子を見ていた妖精の森の冒険者達はふるえあがる。
「猟犬の牙の冒険者は一人で一ギルドに匹敵するってアレ、冗談じゃなかったんだな」
「あぁ…絶対的にはしたくないぜ…」
「はぁ、やっちゃった。やっぱりそんじょそこらの弓じゃダメね」
ナタリアの手に持っていた弓はエンチャントに耐えきれず分解していた。
「ん~、あらかた片付いたけどちょっと残ってるわね。ドイル、正面の門から残党が…」
『ヌ、どうしたのだ?』
「やっぱいいわドイル、撤収しましょ」
ナタリアの視界には魔物を斬り伏せながら正門に向かう人影が写っていた。
「どういうわけかクラインの奴しかいないけど、まぁ話を聞こうじゃない」
そんな殺風景な廊下に1人、雲仙が歩いていた。
「のぅキース、おかしいとは思わんか」
『えぇ、あまりに手薄すぎます』
アースガルドに向かった4人と別れた雲仙は、キースが突き止めたアルフェウスの拠点と思しき施設へ侵入していた。
幾らかの敵と遭遇しその都度戦闘をしていた2人だが、施設の中をあらかた回ったところで違和感を覚えていた。
「お主、施設に入ってどれほどの敵を倒してきた?」
『十数人といったところですかね。20はいっていないと思います』
「あぁ、ワシもそんなもんじゃ。この施設、広さの割に人が少なすぎる」
『大元の拠点でないにしろ流石におかしいですね…グルー、シリエに繋いでくれ』
しばらくすると、キースの手の甲からシリエの声が響く。
『よんだかしら、キース』
『今ギルドにはどれだけ冒険者が残っているかい?』
『今?私以外は誰もいないわよ?』
少し間を置くキース。なにやら思うところがあるようだ。
『そうか…もう一つ、みんな遠方に出払っているんじゃないかい?』
キースの問いにあら、と驚きの声を上げる。
『よく知ってるわね。一番近いとダンのところかしら。それでも戻ってくるのに1日はかかるわ』
『…やはりそうか。わかった』
キースは何かに気づいたようだ。
『シリエ、雲仙さん。僕らはおそらく嵌められたみたいだ』
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
アースガルドの広場には、一際目立つ影があった。街に入るための三つの門から伸びる道が一つになる、そのひらけた場所に立つ大きな鎧が、大きな剣をぶん回し、ばったばったと魔物を斬り伏せている。
「ぬぅうううううん!!」
ドイルの大剣が描く軌跡は剣術のそれとは全く違う。もはや斬っているというよりは剣で殴っているという表現の方が似合っているといってもいい。
だがこれだけ大量の魔物が波のように押し寄せる戦場では、これが最適解だといえよう。
魔物が集まっては切り飛ばされ、撃ち漏らしの半分はナタリアの矢が射止めている。そのさらに撃ち漏らしを妖精の森の冒険者が刈り取っていた。
あたりにはドロップアイテムが散らばっている。
「斬っても斬っても切りがない。ナタリア殿、まだ後続は控えているか!」
『ダメね~、あの森こんなに魔物がいたのね。このままじゃジリ貧よ』
使い魔越しにナタリアの大きなため息が聞こえてくる。
弓矢による遠距離攻撃を得意とするナタリアは、街の一番大きな大樹の上で状況把握も兼ねて陣取っていた。
『街に被害が出るかと思って控えてたけどアレ使っていいかしら?もうしのごの言っている場合じゃないし』
「ヌ!少し待て、他の冒険者を離れさせる!」
ドイルはあたりにいる戦闘中の冒険者に一時戦線を離脱するよう伝える。
その様子を見ながらナタリアの方も準備を進める。
「ᚺᛟᚾᛟᚱ ᚨᛟᚣᚨ ᛞᛟᛋᚺᚢ ᛁᚲᚢᛏᚨᚱᛟᚣᚨ」
「ᛋᛟ ᛁ’ᛗ ᛁᚹᚨᛗᛟᛏᛟ ᛏᚱᛖᚨᛞᛁᚾᚷ ᚲᚺᛁᛖᚲᛟ ᚷᚨᛋᛖ!」
ナタリアは手に一本の矢を握りしめる。
詠唱により魔力はその矢に集結する。
「ᚺᛟᛒᛟ ᚾᛟᚨᛗ’ᛋ!」
エンチャントを終えた矢はまるで炎を宿したように紅く煌めいている。
その矢を弓にかけ、ナタリアは標準を天高く空へ向ける。
「ドイル、撃つわよ」
『問題ない、かましてくれ』
ヒュン!と矢は勢いよく放たれ姿を消した。そのすぐ後、一瞬空が光を放ち雲が紅にに染まる。
次の瞬間、鋭く尖った炎の雨が魔物達がひしめくアースガルドの広間に一斉に降り注ぐ!
大きな火柱とともに熱風があたりに広がる。次第に炎は小さくなり、その場には黒焦げた大地と魔物があるばかりだった。
その様子を見ていた妖精の森の冒険者達はふるえあがる。
「猟犬の牙の冒険者は一人で一ギルドに匹敵するってアレ、冗談じゃなかったんだな」
「あぁ…絶対的にはしたくないぜ…」
「はぁ、やっちゃった。やっぱりそんじょそこらの弓じゃダメね」
ナタリアの手に持っていた弓はエンチャントに耐えきれず分解していた。
「ん~、あらかた片付いたけどちょっと残ってるわね。ドイル、正面の門から残党が…」
『ヌ、どうしたのだ?』
「やっぱいいわドイル、撤収しましょ」
ナタリアの視界には魔物を斬り伏せながら正門に向かう人影が写っていた。
「どういうわけかクラインの奴しかいないけど、まぁ話を聞こうじゃない」
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
笑福音葉 🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる