重なる世界の物語

えんとま

文字の大きさ
上 下
44 / 47
闇に染まる森

悪しきを払う聖なる水

しおりを挟む
「そうですか…森の王が…」

妖精の森フェアリーフォレストに戻ってきたクライン、アリス、ナタリア、ドイルの4人は再びマスターであるアドルフを訪ね、事の顛末を説明した。

「はい。狂化した森の王を沈めることができれば、この件は片がつくと思います。そのために、聖職者の冒険者を紹介してもらえませんか」

アリスの説明を聞いたアドルフは、少し待っていてくださいと言うと部屋を後にした。

しばらく待っているとドアが開き、アドルフに連れられて1人の女性が入ってくるが、何やら浮かない顔だ。

「はじめまして、私はカテリーナと申します。マスターより話は伺いました。狂化した森の王を沈める奇跡が必要だと」

「うむ、その通り。カテリーナ殿は聖職者なのだな?」

「えぇ、このギルドでは一番高位ではあるのですが…私では力及ばず、闇払いの奇跡は扱えないのです」

「!?」

4人は目を丸くする。

アドルフはすかさず捕捉した。

「申し訳ない、闇払いの奇跡はそれなりに高度な奇跡ですので、扱える冒険者がいないみたいで…」

まさか闇払いの奇跡が高等な奇跡だとは予想していなかった一行。再び行き詰ってしまいうーんと声を唸らす。

「困ったわね…リーファならできるかも知んないけどたどり着くまでに時間がかかりすぎるわ」

「で、ですが!」

ナタリアの言葉を遮るカテリーナ

「手がないわけではありません。特定の材料を用いて奇跡を織り交ぜたならば、効果はあると思います」

「聖水…ですか?」

クラインが聞き返す。

「はい。悪しきを払う聖なる水、私の実力であれば時間は少しかかりますが材料があれば作ることができます。ただ、その材料を探してくる必要がありますが…」

「構わぬよ。そのための我輩たちだ、材料を探してこよう。どこに行けば見つかるのだ?」

「たしかいくつかの材料は在庫があったはず…少し待っていてください。今手元のないものを確認してきますので!」

・・・・・・・・
・・・・・
・・・



妖精の森フェアリーフォレストに一旦引き返してから数時間後、アリスとクラインはリューネの森からまた少し離れた高台を歩いていた。

「森の王は狂化したままです。まだあの街には大量の魔物が押し寄せてくる可能性がある。ナタリアとドイルは大丈夫でしょうか」

クラインは不安げな表情を見せる。一方のアリスは2人の実力を知っているためまるで心配していない顔だ。

「大丈夫ですよ。2人は竜狩りの名を冠する強力な冒険者ですから。それより、私たちは私たちの仕事をしましょう!」

「えぇ、アリスの言う通りですね。早く材料を見つけて戻りましょう」

妖精の森フェアリーフォレストで必要な材料を聞き出した一行は早速収集に動くが、未だ魔物の襲来が絶えない街をそのままにして動くことはできない。

そこでナタリアとドイルは街の防衛のためその場に残り、4人のうち比較的機動力のあるアリスとクラインが材料を求め高原へ出向いていた。

「それにしても良かったですね、収集難度の高い材料が妖精の森フェアリーフォレストに揃っていて」

アリスは安堵の声を漏らす。

「えぇ。龍の髭やマンドラゴラなんて高額な材料はすぐ揃えられませんし、ましてや現地収集なんてことになれば何週間もかかていましたね」

「…だからこそ、在庫があったとも言えますけどね…」

アリスの微妙な間が引っかかったクライン。

「?、どうしましたアリス」

はっと顔をそらすアリス。その頬は少し赤く染まっている。

「あ…あぁいえ!大したことじゃないんですが…その…」

アリスは妙に歯切れが悪い。

「えと、私たち一緒に依頼をこなすようになって暫くたちましたよね」

「?」

未だにクラインは話が見えていないと言う顔だ。

「ほら、私たち2人とも基本的に敬語で話すじゃないですか。なんだかよそよそしいと言うか…」

あぁ!とクラインはようやくアリスの言っていることがわかったようだ。

「なんだ、それを気にしていたんですね!それなら気にしないでください。僕は基本的に誰に対してもこう言う感じですから。特にアスクランの冒険者は自分よりすごい人が多いですし、たとえ同い年でも敬意を払うべきと…」

「そう言うことではないんです!」

クラインの話をアリスが遮った。

猟犬の牙ハウンドファングは私より年配の方しかいませんし、私が加入したのはまだ小さい時で、それからずっと年上の皆さんとばかり接してきました」

当時のことを思い出したのだろう。アリスは少し寂しげな表情を見せる。

「だから…嬉しかったんです。クラインさんが猟犬の牙ハウンドファングにきてくれたこと。やっと歳の近い人が入ってきてくれたのが」

「なので今までみたいに他人行儀でいたくなくって…」

アリスはクラインに向き直った。

「えーと、なので…敬語なんてやめて、私と…私と友達になってくだ…じゃなかった」

「友達になってほしい!」

恥ずかしさからだろうか。アリスは真っ赤な顔を伏せながら、クラインに手を差し出した。

そんなふうに思っていたとはつゆとも知らなかったクラインは目を丸くした。なんだか気恥ずかしいような、こそばゆい感覚につい笑いがこみ上げてくる。

「な…なんで笑ってるん、笑ってるの!」

体に染み付いた敬語が抜けないのか、頑張って直そうとしているアリスが可愛らしく、また笑ってしまうクライン。

「ゴメン、気を悪くしないでね。ただ、僕はもう友達だと思っていたからなんだか気恥ずかしくってさ」

「えっ…」

クラインはアリスの手を握り握手を交わす。

「これから、じゃない。これからも、だよアリス」

クラインはアリスをまっすぐ見据えて微笑む。ぱぁっと表情を明るくするアリス。


ルォオオオォオオオォオオ!!


突然2人の背後から雄叫びが飛び込んできた。

先ほどの緩和した空気から一変、2人はすぐさま武器を手に取り構える。

「今の声…魔物だな。ここにくる前にも聞いた声だよ」

「うん、そうみたい。あれは…オーガの声!」

眼前に現れたのは前に会ったオーガよりも一回り大きいオーガだ。ただ大きいだけじゃない。腕や足の筋肉が発達し、人から剥ぎ取ったであろう防具も身につけている。一目見て強力だとわかる。

それだけではない。体の周囲からは黒いモヤのようなオーラを発している。

「あれはボスオーガ!?それに狂化しているみたいね」

アリスは武器を強く握る。クラインも敵をまっすぐ見据えて距離を測る。

「僕らの動向にアルフェウスの連中が勘付いたのかな」

「だとしたらなおさら急いで材料を取ってこないといけないね。行くよクライン!」

ルォオオオオオ!

2人はボスオーガに向かって走りだす。
かかってこいと言わんばかりに、狂化したボスオーガは2人に咆哮を浴びせかけた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

笑福音葉 🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

処理中です...