重なる世界の物語

えんとま

文字の大きさ
上 下
38 / 47
闇に染まる森

アースガルドを襲う波

しおりを挟む
「今度の依頼はあのアースガルドの街からよ」

ここはギルド猟犬の牙ハウンドファングの一階。

依頼を持って変えてきたシリエ、雲仙に加え、用を終え戻ってきたナタリア、ドイル、アリス、クラインの4人はテーブルを囲み依頼内容を聞いていた。

「アースガルドの街ですか。あそこはアスクランほどではありませんがそこそこ大きい街ですし、立派なギルドもありましたが…猟犬の牙ハウンドファングに依頼を出してきたということは、相当困難な状況にあるということですね」

アリスはこの街のことを知っているようだ。

「えぇ、その通りよ。この依頼のランクはB +ビープラスBBダブルビー、かなり高いわね」

「マスター、うちに来る依頼でランクが高いのはいつものことだわ。いいから内容の方を教えてよ」

ナタリアがシリエを急かす。

かなりせっかちなんだな、と会ったばかりのクラインは率直な感想を心の中で呟いた。

「はいはい、今この街には大量の魔物が押し寄せてきているの。街のギルドは街を守るために冒険者を展開しているみたいだけど、あまりに連日襲われるものでかなり疲弊してしまっているみたいね。最近じゃ高ランクの魔物も混じってきて、防衛ラインも崩壊一歩手前よ。このままじゃ国の軍を動かす必要まで出てくるわ」

国の軍。王国騎士団のことだろう。基本的に国は街の安全はギルドに委託しているので、軍を動かすのは国を脅かす存在に対してのみである。だが、ギルドで手に負えずどうしようもないときは国に申請して軍を動かしてもらうケースがまれにあるのだ。

「我輩たちが最後の砦か。ここで失敗すれば軍が動く。国も出来る限り王国騎士団の出動は避けたいだろう。奴らは魔物より国を相手にする立場だからな」

ふとクラインは思ったことを口にする。

「今回の件、またしても例のアルフェウスの仕業でしょうか」

「アルフェウス?何よそれ」

ナタリアは頭にハテナを浮かべる。
そうか、ナタリアはさっきここについたばかりで知らなかった。クラインはアルパクイルの村での人狼騒動と、キースの話を二人に聞かせた。

「へー、なるほどね。ってことは私たちが倒したジャバウォックもアルフェウスの仕業だったのね。これで納得いったわ」

なにやら腑に落ちたと納得するナタリア。

「ジャバウォックというと醜い竜として知られる魔物じゃな。随分珍しい魔物に出くわしたんじゃのう」

「出くわしたというよりは向こうから襲ってきたという方が正しいぞ雲仙殿。我輩たちがいった街はその街だけ霧に覆われており、その街中をジャバウォックは徘徊しながら人を襲っておったのだ。今の話だと、アルフェウスだとかいう奴らが手引きしていたと思って間違いなかろう」

どうやら事態はそれなりに深刻なようだ。人狼の一件でアルフェウスの計画を阻止していたと思っていたが、すでに様々な地域で同時に動き始めていたらしい。

ナタリアとドイルの話を聞いて、シリエは今回の依頼に話を戻す。

「そうねぇ。今回の依頼に関してはその辺が微妙なの。アースガルドはもともと魔物が多く住まう大樹林が近くにあって、時折魔物は街を襲っていたという話よ。今回の件が果たしてアルフェウスの仕組んだことかどうかはまだ断言できないわね」

ちなみに…と雲仙が話を止める。

「ワシは今回同行できん。別の依頼で単独行動するでな。お前さんたち4人に任せたいのじゃが、構わんじゃろうか」

「えぇ、構いません。4人もいれば問題ないでしょう」

キリッとアリスが答える。

猟犬の牙ハウンドファングの半数を向かわせて解決できないなんてギルドの名折れよ。任せなさい、確実にこなすわ」

自信満々に答えるナタリア。
4人は依頼に向かう前の準備に取りかかった。

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


アスクランを出てかなり馬を走らせている。距離的にはもう少しなはずだが、思いのほかアースガルドは離れたところにあるようだ。

馬で行くとドイルが重くて一人だけ遅れてしまうため、今回も馬車を使っての移動だ。

「やだ、すごい可愛い使い魔じゃない!」

馬車の中ではナタリアにせがまれクラインがフィリィを呼び出しているところだった。

「フィリィと言います。皆さん使い魔を戦闘の中で使っていますが、僕の場合それも叶いそうになくって…」

「いいと思いますよ。こうして癒されることができるのですから、それだけで十分です」

アリスの顔もふやけている。女性というのは小動物には目がないのだろうか。

その時だった。

まだアースガルドには着いていないが馬車が急に止まってしまう。

「はて、やはり我輩が重すぎたか?」

ドイルは余計な心配をする。そういうわけではないようだ。

馬車を操っていた御者ぎょしゃが声を荒げる。

猟犬の牙ハウンドファングの皆様、魔物です!魔物が出ました!」

その声にアリス、クライン、ナタリアが素早く馬車を出る。遅れてドイルが出てきた。

確かに魔物が道を塞いでいる。

人型だか醜悪な顔をし悪臭を放ている。
一匹はかなり大柄で下顎から上に向かって無骨な牙が伸びている。

そのほかに4匹、同じような見た目だが牙はなく小柄な魔物がいる。

皆、手に棍棒のような武器を持ち腰布を巻いている。

その悪臭にアリスは顔をしかめた。

「オーガとゴブリンですね。こんなところで出くわすとは思いませんでした」

全員武器を構える。

ナタリアは距離を置いて腕に装備しているクロスボウを構えた。

「グルルゥ、グォォォオ!」

オーガの咆哮とともにゴブリンたちが飛びかかる。

クラインはグリフォンダガーで飛びかかるゴブリンたちの包囲網をすっ飛んで、オーガのもとに移動する。

ナタリアはゴブリンをクロスボウで撃ち落としカバーする。

ドイルが大剣で道を開き、アリスはそこからオーガのもとへ向かう。

「オォオォォオオ!」

オーガは一瞬で目の前に現れたクラインに驚き、反射的に棍棒を振り回す。

紙一重でそれを交わすと、巨大な棍棒に飛び乗り腕を伝って駆け上がるクライン。

そのままオーガの両目をダガーで斬りつける!

「ガァァアアァアァアア!」

激痛と暗闇に混乱するオーガのもとにアリスが到着する。

オーガの背後に回ると足の腱を斬りさばく。

たまらず倒れこむオーガ。その隙にオーガの目の前に出てきたクラインは、槍を構えると地面に突き立てた。

オーガが倒れ込んでくる。
クラインはグリフォンダガーでその場から離れる。槍の矛先にまっすぐ倒れこむオーガは、そのまま自身の体重に任せて槍に突き刺さり、そのまま絶命した。

「数がいてもそんなものか!歯ごたえがないぞ!」

一方背後ではドイルが大剣を振り回しゴブリンたちをバッタバッタなぎ倒していく。宙に飛ばされたところをナタリアが矢で射っていく。ゴブリンたちは空中で塵となり消えていった。

クラインは魔物が全滅したことを確認する。

「もういないみたいですね。先に進みましょうか」

「えぇそうね。それにしても貴方達2人息ぴったりじゃない。相当2人で一緒に依頼をこなしてるみたいね」

「うむ、お互いを信じあうだけコンビネーションはより輝く。仲が良いのはいいことだな!」

ガハハハと笑うドイル。

アリスは顔を真っ赤にしている。

「そ、それよりこんなところでオーガにゴブリンまで、これも街に魔物がなだれ込んでいるその一端でしょうか!」

無理やり話を変えるアリアス。
なんでも見た目や動作に動揺が出てしまうアリスに、ナタリアはニヤニヤが止まらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...