重なる世界の物語

えんとま

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動き出した影

ゼノン神話ー第1章 新世界ー

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そこには“無”が“有”った。どこまで行っても何もない無が有った。

“無”は気に入らなかった。“無”なのに“有”る。自分はなんて曖昧な者なんだと。

やがて堪え切れなくなった無は、自身が無なのか有なのかはっきりさせるため、自身を照らす“光”を生み出した。

やがて光は影を落とす。そこにはすでに無だの有だのは存在せず、光と影だけがあった。

そこで無であった光と影は気づく。無あっての有であり、どちらか一つだけが存在することなど不可能なのだと。

光が上を生み出せば、影は下を生み出した。

光が正を生み出せば、影は悪を生み出す。

そうして様々な対を知的探究心を原動力に生み出し続けた光と影は、次第に飽きを感じ始めていた。

自分たちは思いつくままになんでもできてしまう。想像出来るものは創造出来てしまうのだ。なんとつまらないことか!

そこで光と影は思いついた。

自分たち以外に自我を持つ、不完全なものを生み出し観察するというのはどうだろうか。

そこで光と影は“生命”を生み出し、それぞれの種族を“男”と“女”の対に分け知識を与えた。

エルフ、ドワーフ、ドラゴン、人間、獣

そして自身の原点であった有する者、持たざる者を生み出した。

光と影はなんでもできてしまう自分たちが深く関わっては面白くないと、自身を“天”、生命を“地“に分け、過剰な接触ができないようにした。

生命達に光は”創造神リリー“、影は”破壊神オーレン“と名乗り、各々好きなように生きることを命じる。

エルフは森に住み始めた。自然と調和する生き方を見つけ、自然と会話するすべを身につけた。

ドワーフは鉱山に住み始めた。鉱石を叩く音が気に入った彼らは、加工をすることで生活を豊かにするすべを身につけた。

ドラゴンは空に住み始めた。巨大な体に強力な力を秘めた彼らに地上は狭すぎたのだ。巨大な羽をその身に生やし、空で生活するすべを身につけた。

獣は地上に住み始めた。四肢を全て地につけて、野を駆け回った。その俊敏な動きを持って、地上で生活するすべを身につけた。

人間は平原に住み始めた。他の種族に力こそ劣るものの、彼らは飽くなき探究心をもってして、多くの知識を吸収し利用するすべを身につけた。

有するものはどこにでもいた。彼らは満足していた。なぜなら全てを持っていたのだ。

持たざる者はどこにもいなかった。彼らは常に飢えていた。なぜなら何も持っていなかったから。

時間が経つにつれ各種族は自身の特徴を活かし発展していく。しかし有する者と持たざる者はいつまでたっても変わることはなかった。

創造神リリーは予想できない動きを見せる生命達に満足していたが、破壊神オーレンは少しつまらなかった。生命達は悠々と発展させていくばかりで刺激がない。

そこでオーレンは、何も持つことがない哀れな生命に教えてしまったのだ。



生命が持つ”生“と対をなす”死“の存在を。



これこそが神の犯した過ちだった。

始めてなにかを得た持たざる者は、その存在を試したくなり、対である有する者を

持たざる者はこの瞬間から持たざる者ではなくなった。”死“を持ってしまったのだから。

その様を一番近くで見ていた人間は、もっとも死に近い種族となり、その寿命は他の種族に比べ短く、闇に染まりやすくなってしまう。

このままでは全ての種族が全滅してしまうことを恐れた対神だが、天と地に隔ててしまったため地に対して強く干渉することができない。仕方なく、持てる力を使って、自我を持った”死“を地の奥底に封じ込めた。

不完全な封印はいつ効力を失うかわからない。対神は自身と同じ神と呼ばれる存在をいくつも作り、彼らに役割を与えた。地の様々なものに宿り、”死“を監視する役目だ。

生命達に対しては、死に対抗すべく”繁殖“するすべを与えた。
とりわけ寿命の短い人間にはその力を多く分け与え、人間はその数をどんどん増やしていったのだ。




ゼノン神話
ー第1章 新世界ー より一部抜粋
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