重なる世界の物語

えんとま

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動き出した影

呪われた村"アルパクイル"

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「なかなかつきませんね」

馬車に揺られながら、不満を口にするリーファ。

シリエから託された依頼のため、ダン、リーファ、雲仙の三人は調査対象の"アルパクイルの村"から少し離れた町”パールアリー“を目指していた。

「リーファ嬢、お主の使い魔なら空から見えるんじゃないかの」

「あぁ、さすが雲仙ですわ!その手がありました!」

スッと手を出す。

「”オリオン“、出てきてください」

リーファの手の印が動き金色の蝶になった。そのままパタパタと馬車の窓から出ていく使い魔。

「オリオン、視界を共有してくださいな。…あら?もうそこでしたのね」

「やっとついたか。パールアリーにいい宿があればいいんだがな」

「拠点を見つけたら情報収集をせねばな。マスターによれば最初に現場を発見した商人がおるはずじゃ」

パールアリーはさすがにアスクランほどではないが、そこそこ整備のされた町だった。馬車を預け、町を歩く三人。

「私は先に宿を見つけてきますわ。そのあと情報収集と参りますね」

「そうか。俺は例の商人を探してみようと思う。ここはそこまで店の数も多くないし、多分すぐ見つかるだろう」

「なら儂は手当たり次第聞いてみようかのう。ここは分かれて仕事をしたほうが効率が良さそうじゃ」

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


これで三件目か。そろそろあたりが欲しいぜ。

リーファと雲仙と別れたダンは、パールアリーで目のつく店をひたすら回っていた。品数の少ない武器屋、八百屋と回ってきたがどうも探している人物には会えていない。

今ダンの目の前にある店はどうやら薬屋のようだ。看板にはポーションのような絵が描かれている。

「邪魔するぜ」

戸を開けて中に入る。薬草独特の香りが鼻をつく。

「いらっしゃい。回復薬でも探しているのかい?」

「いや、悪りぃな。客じゃないんだ。噂で知っているかもしれないが、アルパクイルの村について調べていてね。何か知っていることはないかと思って尋ねてきたんだ」

「アルパクイル…!?やめたほうがいいですよ!そこに関わるのは…」

見るとこの店主、足が震えているではないか。

「もしやあんた、話に聞いた現場の第一発見者か?」

「あ、あぁ。その通りだ。私はクレイグ・ローリー。ここじゃなんだ。奥で話そう」

クレイグと名乗った店主は、表の札を「close」にすると、奥へ案内してくれた。

よし!当たりだ!

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


「やはり情報が集まる場所といったらいつの時代もここじゃな」

雲仙が来たのはこの町で一番大きな酒場だった。まだ開店していないみたいだが、客がいないほうが雲仙にとっては好都合である。

雲仙は扉を叩く。

「開店前にすまんが、誰かおらんか?話を聞かせて欲しいんじゃが」

ダッダッダッと木の床の上を歩いてくる音がする。幸運にも店には人がいたようだ。

「なんだい爺さん。あんた見ない顔だね」

出てきたのは気の強そうな女性だった。少しふっくらとした、それでいてガッチリとした体型。旦那がいるならきっと尻に敷かれていることだろう。

「この町にきたのは今しがたなものでな。あなたを酒場の店主と見込んで聞きたいのだが、アルパクイルの村について何か知ってないかね?」

「アルパクイルだって!」

その名をきいた酒場の女将は、顔を青くする。

「あんた、あそこに関わるのはやめときな!つい先日うちに寄ってった冒険者もその話をしていたが、翌日には死体に変わっちまったんだ!あの村はのさ!」

「ほぉ、すまんが時間をもらえるかの。その話、詳しく聞かせてはくれまいか。儂はそう簡単に死なんから安心せぇ」

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


日が暮れ始めた。リーファから宿をとったとの連絡があったので、夜が来る前に宿に来た三人。今は雲仙の部屋に集まっている。

「ダメでしたわ。大した情報は聞けませんでした」

どうやらリーファは収穫なしのようだ。

「それじゃ、儂から報告じゃ。酒場の女将から話を聞くことができた。どうやら殺された二人の冒険者は死体に変わる前日、その酒場を訪れていたらしいんじゃ」

「さすがだな雲仙の爺さん。経験が長いだけあって情報収集はお手の物だな」

「女将はその冒険者の会話を覚えていてくれたんじゃ。なんせ皆殺し事件があったばかりだったからの」

「その会話によると、村の者は皆殺しではなかったらしい。逃げきることができたものがいたらしいんじゃ」

「逃げ切った、ですか。その冒険者さんはどうしてそう思ったのでしょう」

「それはな、死体の数を数えたらしいぞ」

「死体の数を数えた?数えただけじゃわかんないんじゃねぇのか?」

「なんでも村長の家に村人の名簿があったらしい。多分緊急時の点呼なんかに使っとったんじゃろうな。流石に顔までは分からんが性別と年齢だけはわかるんで、それを使って死体と照合していたらしいんじゃ」

「私たちが来る前に、そこそこ調べてくれていたのですね」

「それで、照合した結果どうだったんだ?」

「おそらくじゃが、生き残ったのは一人、29歳の男性みたいじゃな。冒険者はその男性から話を聞くために次の日から男性の捜索に踏み出そうとしたところで…殺されたということじゃ。話はこれで全部じゃよ」

んー、と考え込むダン。

「あら、ダンが考え込むだなんて珍しいですわ」

「何か思い当たる節でもあるのかの」

「あぁ。なんとなく相手の影が見えてきたぜ。俺の考えを聞く前に、まずは集めてきた情報について聞いてくれ。クレイグっつー薬屋の店主、そいつが例の商人だったんだが…」


・・・・・・・・
・・・・・
・・・


「嫌だな、すっかり日が落ちてしまった」

クレイグは馬を走らせる。薬草を摘むのに夢中になって時間を忘れてしまうだなんて、まるで子供だ。この後よるところもあったというのに。

クレイグはアルパクイルの村を目指して馬を急がせる。あそこで育てる薬草は野生ではまず見つけることができない上等なものだ。あの値段で取引ができるところなんてどこを探したってないだろう。

今日は月が明るい。道がよく見えるから迷う心配がないのが救いだな。

アルパクイルの村が見えてきた。

…おや?

クレイグは違和感を覚える。

なんだ、もう日が暮れるというのに

胸の内に不安がよぎる。
やけに静かだ。静かすぎる。

いつもの薬草売りの家につく。

「すいません、薬屋のクレイグです。薬草を受け取りに来ました!」

戸を叩き呼びかけるが反応がない。

ドクンと心臓が脈打つのを感じる。
何か嫌な予感がする…。

「あ…開けますよ…」

鍵は閉まってなかった。クレイグはゆっくりと扉を開ける。

ぐっとむせかえる匂いがする。
「ぐっ、なんだこの匂い…」

暗闇に目が慣れてきた。
なにかが床に転がっている。

「…ひっ!!!」

それは、見慣れた薬草売りのだった。


「あ…あぁ…」

「うあぁああぁあああぁあぁぁ!!!」

クレイグは一目散に走り出した!

まずい、まずいまずいまずい!このままここにいるのは危険だ!早く逃げなくては!

クレイグは馬に飛び乗り急いでその場を離れる。

ウオォォオオオォォォォ!

村を去る最中、背後から狼の遠吠えのような声が聞こえてきたという。

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


「クレイグはヴェロウルフの群れがあの村を襲って皆殺しにしたんだって言ってたな。確かに村一つ全滅させてるんだから群れと思うのは当然だろうよ」

「ヴェロウルフ…ですか。それだとおかしな点が二つありますわ。まず一つはヴェロウルフは単独行動の魔物。群れで行動することはありませんわ」

「もう一つは冒険者が殺されていたってところじゃろ?仮にヴェロウルフが殺したにしたって、単独のヴェロウルフを相手に冒険者が二人、怪我はしたって殺されはしないじゃろう。まぁ酒で泥酔しているならそうとも言えんじゃろうが」

「あぁ、そうだな。そんとおりだ。ヴェロウルフが犯人だっていうクレイグの話については、俺も聞いた時はいまいち納得がいっていなかった。だがいま雲仙の話を聞いて一つの可能性が浮かんできたんだ」

「冒険者の会話によると、見つからなかった一人を除いて村人は皆殺しにされている。逃げ切ったっていうそいつはよ、なんで一番近いパールアリーに来なかったんだ?」

「確かに変じゃの。いくらなんでも魔物がうろつく森の中には逃げないだろうが…酒場以外でも聞き込んだがそんな男を見たなんていう人はおらんかった」

「では、その生存者は一体どこでなにをしているのでしょうか」

「そこだよ。あくまで仮定だが、生存者なんかいない。足りない死体はなんじゃねぇか?」

「ほぉ!なるほどのぉ。それなら合点が行く。冒険者殺しは自分のことを調べている邪魔者を殺したっていうんであればなおさらな」

「でも一人で村を皆殺しにするなんてできるのかしら」

「あぁ、多分人間じゃねぇぜそいつは。クレイグの話にヒントはあった。月にに照らされた夜道、狼の遠吠え、足りない死体」

雲仙は気がついたようだ。はっと目を見開く。

「!?…まさか“ヤツ”か!」

ふー、とため息をつくダン。これからする仕事のことを思うと、実に気がすすまない。

「そうさ、こいつは人狼じんろうの仕業だよ!」
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