重なる世界の物語

えんとま

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動き出した影

"人斬り"雲仙

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リンリンと音がする。ここはギルド 猟犬の牙ハウンドファング。このギルドのメンバーであるダン・シークエンスはなんともだるそうな顔でこの扉を開けた。

「きたぜマスター。頼みがあんだろ?」

ダンが辺りを見回す。

「アリスやクラインは出掛けてんのか?」

「ええ、なんでもクライン君の特注の魔武器が完成したらしくてね。二人でジャガーノートに行ってるわ」

「全く仲がいいな、あの二人は」

もう一人、先程から席に座っている老人に目をやる。

雲仙うんぜんの爺さん、帰ってきてたんだな」

そこにいたのは刀を腰に下げた白髪の老人だった。立派なヒゲを蓄え、いかにも厳格そうな見た目だが、根は優しいことをダンは知っている。

「おぉ、今回も長い依頼だった。人の絡む依頼というのは複雑でいかんな。魔物の退治の方がよっぽどシンプルじゃ」

「クラインには会ったのか?」

「いや、どうやらすれ違いだったらしい」

"人斬り"雲仙。見た目こそ老人だが、"カタナ"という東の国の武器の達人である。

そして雲仙は不吉な二つ名の通り、依頼のスペシャリストなのだ。それ故に雲仙の依頼は他の冒険者とは特色がかなり違う。

「いつもごめんなさいね、雲仙さん。いくら相手が悪人だからといって汚れ仕事ばかりで」

「いいんじゃマスター。これまでやってきたことと何も変わらん。儂は不器用でこういうことしかできんからの」

なんだか場が湿気ってきたな。そろそろ本題に戻るか。

「マスター、頼みってのはなんなんだ?」

「あぁ、そうだったわね。いってきて欲しい依頼があるのよ」

「依頼?どっからのだ?」

「ギルドから回ってきたやつよ」

“ギルドから回ってきた依頼”、それはすなわちそんじょそこらのギルドでは手に負えない高難度の依頼だということだ。

「お!久しぶりだな。最近はディジーの婆さんとかドーガンの旦那のとこばっかだったからな。ランクはどんくらいなんだ?」

「ランクね…不明アンノウンらしいわ」

アンノウンか。まぁ珍しいことじゃねぇな。うちに回ってくるくらいだし。

「オーケー、わかった。内容を教えてくれ」

「やって欲しいのはある村の調査みたいね。なんでも一晩で誰もいなくなったらしいわ」

「誰もいなくなった?神隠しにでも会ったってか」

「いいえ、“皆殺し”よ」

!?皆殺しだと?高ランクの魔物にでも襲われたのか?いや、だが…

「殺しのあった現場を調査するだけなら他のギルドでもできる。そこで終わりじゃねぇんだな」

「その通りよ。通りがかった商人の話を聞きつけ調査に向かった冒険者は誰も帰ってきていないわ」

やっぱりか、そんなことだろうと思ったぜ。

「調査ができないから難度がアンノウンなんだな。俺一人じゃ手に余るんじゃねぇか?」

「安心せぇ、儂も同行する」

「雲仙もか?珍しいじゃねぇか」

「人による殺人の線もあるからの。仮に魔物でも儂は簡単にやられはせんぞ」

「どうかしら?ダン。雲仙さんもいるなら心強いでしょう?」

「んー、まぁそうなんだが。保険をかけてもう一人くらい欲しいな。キースはいねぇねのか?」

「キースの坊主は別の依頼に行っちまってな。今は不在じゃて」

ふーむと腕を組み考えていると、リンリンという鈴の音とともにリーファが入ってくる。

「皆さんこんにちわ。あら雲仙、お久しぶりね」

「リーファ、いいタイミングできてくれたじゃねぇか。これはきっと神様の思し召しってやつだな!」

「…なんだかすっごく嫌な予感がしますわ…」
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