重なる世界の物語

えんとま

文字の大きさ
上 下
20 / 47
初めての依頼

不穏な影

しおりを挟む
クラインは一人、拠点の近くにある湖を目指して歩いていた。頭上には一羽のカラスが飛んでいる。

キースが場所を教えてくれるけど、一人の時はどうしたらいいんだろう。

そんなことを考えつつ、歩き続ける。

・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


遡ること約1時間

「さぁ、仕事だよ“グルー”」

キースの手の印が動いて形となる。サッと飛び出た影は宙を舞った後キースの肩に落ち着いた。真っ黒なカラスがそこにはいた。

あれがキースの使い魔…。普段から黒い服ばかりだが使い魔も黒いのか。

ちなみに、使い魔の印は1週間もすれば馴染んできて、見えないように隠すこともできるらしい。もちろん呼び出す時は消したままでは呼べないので、依頼中は出しっ放しにしておくわけだ。

「クライン君の動向はグルーを使って見守ることができる。空から目的地に誘導するから、この子について動くといい」

「空を飛べる使い魔、便利ですね」

フィリィは飛べないだろうな、などと考えるクライン。

「いざとなったら転移の魔術でかけつけるから安心してね。普通の転移魔術は恐ろしく魔力を喰うけど、グルーをターゲットにした転移だったらそこまで消費しないしね」

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


見えてきた…。

目の前に湖が見えてくる。
なかなか大きい湖で、対岸は目を凝らさなくては見えないほどだ。

スッと水辺に目をやると、何やら大きいトカゲがひとまとまりに固まっているではないか。

あれがアルマンダーか。やたらトゲトゲしているが、本当に刃が通るのだろうか。

そこそこ近づいているが、まるで襲ってくる様子がない。

「眠っているのかな?日向ぼっことか?」

足元にあった石ころを投げてみる。

ぺしっ

当たったアルマンダーがこっちを見た。
その瞬間ほかのアルマンダーも一斉にこちらをみる。その光景にギョッとするクライン。

確か魔物全集では一匹襲えば全部飛びかかってくるだの書いてあったな。
これだけがっちり固まられていると、一匹だけどうこうってのは無理そうだ。

「オルタ」

地面にゲートを起動する。取り出す武器はそうだな…。

ズッと出てきたのは槍の持ち手の部分だ。それを引き出して構える。

アルマンダーはこちらを警戒しているのか、目を離さない。

このままではお互い固まったままだ。
クラインは一番近くにいたアルマンダーに向けて槍の両刃で切りつけてみる。

ギャリギャリっと擦れる音。やはり鱗は硬すぎて貫けない。
次の瞬間バラバラっと固まりが崩れて数十匹のアルマンダーが走り寄ってきた!

若干の気持ち悪さを覚えつつ、応戦するクライン。
狙うは首回りの一際大きな棘の付け根だ。

しかしこう何匹も一斉に襲われてはたまったものではない。一番近いアルマンダーに槍の先の部分を乗せると……

「うりゃあ!」

ブォンと振り回す。

あまりに間抜けな格好で空を舞うアルマンダー。その間にも次々とほかのアルマンダーが向かってくる。

「ほっ!やぁ!」

一見するとブンブン振り回しているようだが、槍の中心を持ち、柄の部分と刃の部分をアルマンダーの顎や腹にうまく当てて次々とアルマンダーをぶん投げていく。ボチャン!ボチャン!と湖の中に投げ入れられる。

ようやく数が減った…。本格的に狩っていこう。

イングで槍をしまい、オルタで次は刃渡りが長めのナイフを取り出した。

これくらいのサイズだったらナイフの方が正確に捌ける。

まずは一番近いアルマンダーをねらう。
仲間が湖に放り投げられ恐れをなしたのか、逃げようとするアルマンダー。その尻尾をクラインは足で踏みつけた。

もう一方の足で体を押さえつけ…
スンっ!

一瞬で棘の根元、鱗で覆われていない首のつなぎ目をかっ捌いた。

塵になって消えていくが、そこには何も残っていない。
くそっハズレか!

ぽんぽん投げていたアルマンダーが湖から這い出てきた。
こうなりゃ片っ端から捌いてやる!!

・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


「はぁ …はぁ…必要なのっていくつだったっけな」

いくら倒しただろうか。クラインの周りには30は超えるであろう素材が落ちている。目的の鱗以外にも色々ドロップしたようだ。

「“フィリィ”、キースに繋いでくれるかい?」

クラインは手の印に話しかける。

「キース、聞こえますか」

『うん、聞こえているし見えているよ。随分たくさん倒したね』

「はい、これだけあれば目標は達成しているでしょう。次はどこに向かえばいいでしょうか」

『次はリバイソンの生息地だね。またグルーについて行ってくれるかな』

「わかりました。そのあとは一度拠点に戻りますね」

連絡を終えるとクラインはゲートを開いて素材を入れていく。入れるたびにゲートの穴が狭くなっていく。

この魔道具は収納できる容量に応じてゲートが小さくなるようだ。
武器が4つ入るところを今回は3つにしているのでまだ入る余地はある。

さて、グルーについていこう。

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


拠点ではキースがグルーの視界を共有しつつ、様子を伺っていた。

アルマンダーくらいだったら簡単に倒せてしまうな…リバイソンだってそんなに苦労はしないだろう。ヴェロウルフは多少苦戦するかもしれないが…。

いや、本来であればCクラスの魔物だって苦労はしない筈だ。クライン君にはその実力がある。だけど彼には…がないんだ。

田舎で育った彼には魔物を退治たり、人を相手に戦った経験がない。そんなかな猟犬の牙ファウンドファングの仲間入りをしてしまって僕らと差を感じてしまっている。本当は僕らのんだけどね。学習能力の高さはその一端だろう。

今回の依頼で自信をつけてくれるといいんだけど …。

次の瞬間

キースとグルーの視界の共有が解け、一瞬視界が暗転する。

!?何が起こった!

「グルー!クライン君に繋ぐんだ!」

「クライン君!何かおかしい!」

『キース?どうしたんですか!?』

「グルーとの共有が解けたんだ、おそらく何かにグルーはやられてしまった!周りを確認して見てくれな
『キュオォオオォォォオ!』」

!?

なんだ今の咆哮は!?まずい、向こうで何かが起こっている!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...