重なる世界の物語

えんとま

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初めての依頼

キース先生の魔術講座 2限目

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「さて、マナを取り込むところまでは大丈夫かな」

「はい。キースは人に教えるのが上手ですね」

「おだてたって何にも出ないよ」

はははと笑うキース。実際魔術のことはかけらも知らなかったクラインが話を聞いて理解できているのだ。わかりやすい説明の賜物だろう。

「それじゃ続けるね。取り込んだマナは大気中にあるものと変わらない。これに性質変化を与えるのが“魔術回路”だよ。今日の朝食をで例えてみよう。おいしく焼いたハムを魔術だとするよ」

クラインは今日の朝食を頭の中に思い浮かべる。あのハムは美味しかった…ってそうじゃない。

「ハムを焼くためには火が必要だね。エネルギーの源、これがなければ始まらない。そして道具が必要だ。そう、フライパンだね。これを使って焼けたハムを作ることができる。」

「ここでいう火はマナのことだね。そしてフライパンは魔術回路さ。マナだけじゃただのマナだから、最終的に魔術と言う形にするためには魔術回路を使ってマナを制御するんだ。」

すごい例えだがわかりやすい。なるほど、マナに命令して形を変える、制御回路なんだな。

「でもさ、クライン君。明日も明後日も、これからずっと焼いたハムばっかりってのはどう思う?」

「えっ!?うーん、飽きますね」

「そうだよね。明日はハムじゃなくボイルしたソーセージがいいってした時に、フライパンでそれができるかい?」

「ボイルするってことは茹でるんですよね。それならフライパンというより鍋をつかいますね」

「その通り。じゃあここでさっきの例えを思い出してごらん。できた料理は放出した魔術だ。火という源は同じだが結果できる魔術が違う。そのために僕らがしたのはなんだったかな」

「そうか…ボイルしたソーセージを作るためにはフライパンでなく鍋を使った。違う魔術を使うためには魔術回路を組み替えるんだ」

ひゅう!と口笛を鳴らすキース

「みんな君のことを察しがいいって言っていたけど本当だね!教えがいがあるよ」

照れるクライン。みんなそんな風に言っていたのか。

「クライン君のいう通り、魔術回路を組み替えることでいろんな魔術を扱えるようになるんだ。これまた昔は天性のセンスがないと難し作業だったんだけどね。オルター・アルバトリオはここでも革命を起こした。“詠唱”という技術を開発したんだ」

「“詠唱”は知っています。魔術を扱う人はみんな何か呪文のようなものを唱えているイメージですね」

「そうだね、魔術師でもなきゃ何を言っているかわからないあの言葉のことさ。オルターは“言霊”という言葉からその技術を発見したんだよ」

「言霊とは、発する言葉には力が宿るとされるあれですか」

「その通り。発する言葉で相手の気持ちを変化させてしまう。オルターはこれを、マナによる作用でないかと考えたんだ。実際調べてみたらその通りでね。言葉に体内のマナは反応していることがわかった。特に体内にある魔術回路に作用しているとわかってからは早かったよ。研究はどんどん進み、やがて魔術回路に作用する“言霊”と、“言霊”を使って魔術回路を構成する“詠唱”の技術を発明したんだ。」

「あの詠唱は体内の魔術回路を組み替えていたんですね」

知りもしなかった…。こうして教えてもらうと、本当に知識の外にあった世界なんだなと思い知らされる。そして今、その世界をようやく覗き見れるようになったんだ。

「そうしていよいよ、魔術は身近なものになっていた。詠唱に使う言葉を魔術言語と呼ぶんだけど、魔術言語と、魔術言語が魔術回路に与える変化の法則性を覚えることで魔術を使用できるようになるんだ」

おぉ、なんだか自分もできそうな気がしてきたぞ!

「そして魔術を使う上で一番気をつけなきゃいけないのが魔力切れという症状だよ。さっきも言ったけど生命はみんな体内にマナを溜めている。それは生きる上でマナが必要だからなんだ。魔術を使用するということは体内のマナを消費するということ。当然使い過ぎれば悪影響を及ぼす。それが“魔力切れ”さ」

「まさか、マナを使い切ると死んでしまうのですか…」

いや、それはない。とキースは訂正する。

「生命を維持するために必要な最低限の魔力まで使い切ってしまうと起こるのが“魔力切れ”なんだ。体に力が入らなくなり、強烈な頭痛やめまいを引き起こすんだよ。これ以上使ったら死んでしまうよっていうリミッターみたいなものだよ」

「魔術を使っていれば体内のマナが減っていくのが感覚でわかるんだ。基本的に魔力切れを起こす前にまずいってわかるから、本当に無茶しない限りは大丈夫だよ」

ここまでは大丈夫かな?とキースは一度確認する。

紙にはメモ書きがびっしりだ。いよいよ裏面に突入した。

「紙一枚でなんとか収まりそうだね」

どうやらキースの講義はまだまだ続くようだ。
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