重なる世界の物語

えんとま

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冒険者になるということ

猟犬の牙の冒険者たるもの

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食事の最後に、ギルドマスターのシリエが締めくくる。

「さてクライン君。本日はれて私たちギルドの仲間入りをしたわけだけど…」

猟犬の牙ハウンドファングの冒険者になるにあたり、話しておくべきルールがあるわ」

さっきアリスが言っていたことだな。
クラインは帰り道で聞いたアリスの話を思い出す。

「えぇ、伺っています。自分の愛用する武器の使用を禁止すると」

あら、話してくれたのね とシリエはダンとアリスを見る。

「えぇそうよ。私たちギルドの冒険者は自分の専属武器を使用するのを禁止しているの。厳密には使使ってはいけないことにしているのよ」

「禁止されているということは聞いたのですが…何故禁止しているんですか?」


「それはね、本気の武装で私たちが戦うのは、周りに与える影響が大きいからよ」

「影響が…大きい?」

「他の人を巻き込んじまったり、地形を変えちまうってことさ」

面を食らっているクラインに、ダンは平気な顔で付け加える。

いやいや、地形を変えるって常識的に考えておかしいでしょ!

「クライン君は今日アリスと対峙してわかったと思うけど、私たちは武器によらずその戦闘能力はかなり高いわ。それなのに魔力が込められた防具や伝説級の武器を扱ったりしたら、状況次第じゃ山を削るくらいはしてしまうかもね」

「…それじゃあ、猟犬の牙ハウンドファングの皆さんは、伝説級の武器や防具を…」

「えぇ、扱えるし所持しているわ」

…伝説級の…武器。僕以外の7人はみんな持っているというのか…!

「あの手の武器は使う側が選ぶんじゃなく、防具や武器の方が使用者を選ぶからね。そういうのを扱えるってことはそれだけでその道の達人なんだよ」

そう話すキースも、魔術の達人ということか。

だんだん感覚が麻痺してきたクライン。
生ける伝説、聖女リーファがここにいることが、なんだか普通に思えてきた。

「ギルドに加入する条件の中には、そういう所もじつは加味しているんだけど、クライン君の場合は例外ね。継承する魂マスターソウルそのものが伝説ですもの」

「クラインさんは先ほど、愛用している武器はないと言っていましたね。きっとこれから先、武器の方からクラインさんを選んでくれることがあるかもしれません。そのときにはこのルールに則って使用を禁止することになるかと思います」

えっ、とアリスの言葉に困った顔をするクライン。せっかく自分の初めて経験する武器を手にしても、魂にその経験を刻むことができないではないか。

落胆しているクラインに、キースはフォローする。

「大丈夫だよクライン君。何もすぐ禁止するわけじゃない。継承する魂マスターソウルに刻まれていない伝説級の武器だってあるだろうし、その時は鍛錬しないことにはその真価を発揮できない。真価を発揮できて初めて影響を考慮する必要があるね」

「そうね。流石にそれでは本末転倒だもの。私もそこまで鬼ではないわ」

ふわぁあと可愛らしいあくびが聞こえる。どうやらリーファのようだ。

「ルールの話もすみましたし、そろそろお開きにいたしませんか?わたくし早朝から教会に出向いていたので眠たくって仕方ありません」

「あら、ごめんなさいね。それじゃあクライン君、これからあなたの部屋の用意をするから、あとで案内するわね。あ、その前に後片付けをしないとね」

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


シリエとアリスは奥で片付けをしている。
リーファは眠いからと帰ってしまい、ダンはいつの間にか消えていた。クラインも手伝おうとしたが、今夜の主役が片付けなどしなくていいと跳ね除けられてしまった。

今はキースと二人で席に腰を下ろしている。

「そういえばクライン君。さっきから気になっていたんだが…」

「はい、なんでしょうか」

「君、3人で出かけてから

「え?」

思わず聞き返してしまった。何かあったか・・・あったか?

「いや、というのもね。最初に君を見た時より明らかになっているんだよ」

「魔力?ですか」

「そう、魔力だ。身に覚えはないかい?魔術を目の当たりにして魔術回路が活性化されたのかな。あるいは魔道具マジックアイテムを誰かにもらったとか」

「あっ!」

思い出した!蛇の尻尾スネークテイルでもらったものがあったはずだ。

クラインは懐からディジーにもらった石を取り出す。

「これが原因かもしれません。蛇の尻尾スネークテイルに行ったときにディジーさんからいただいたんです」

目の前の石に思わず声をあげるキース

「へぇ、これはまた…あそこのおばあさんもよくこんなものを持っていたね。なるほど、クライン君が継承する魂マスターソウルの宿主だから選んでくれたのか」

一向に話が見えないクライン。ほったらかしにしていることに気づき、慌ててキースは言葉を付け加える。

「あぁ、ごめんねクライン君。なかなか珍しいものを見せてもらった。これは収納の性質を持った魔道具マジックアイテムだ。まさに、君にお誂あつらえ向きのね」

そんなに貴重なものをもらっていたのか!
今更ながらクラインは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「収納の魔道具マジックアイテムってなんですか?」

「これはね、この石が持っている異次元空間に物を入れたり、取り出したりできる道具なんだ。周りの魔力マナを取り込んで効果を発揮する永続魔道具だから、収納できる容量に多少使用者の魔術センスが影響するけれど、専門知識なしに魔術が使えるって代物さ」

なにやら聞き慣れない言葉が乱立して、混乱しているクライン。しかし、要点はなんとなく理解した。

「異次元に収納できる道具…それってつまり!」

「うん。ディジーはいろんな種類の武器が使える君のためにこれを渡したんだと思うよ。この中に武器を収納していれば、戦闘の中でもいろんな武器に持ち替えることが容易にできるって訳だね」

すごい…!
クラインの頭の中はすでにいろんな戦略が駆け巡っている。
この道具一つで僕の戦い方はいかようにも変化することができる!

「ときにクライン君。君は魔術についてどれくらい知っているかな」

「え?魔術ですか?」

期待でいっぱいのクラインは、キースに問いかけられてふと我に帰る。

「魔術については全くです。先ほどのキースの話でさえ、よくわかっていません」

なるほどねと何かを考えるキース

「本来魔道具とは魔術の知識がなくても魔術が扱えるとても便利な道具なんだけど、知識がないが故に誤った使い方をして危険にさらされることもあるんだ。」

「収納の魔道具だから危険なんてないかもしれないけど、どうだい?少し僕と魔術の勉強をしてみないかい?」

魔術か…
実はクラインは魔術に少なからず興味があった。武器のことならともかく、魔術は全くの専門外。それに習得したところで“技”の継承する魂マスターソウルに刻まれることはないのだが…

「是非お願いします!」

武器しか知らないクラインは魔術に持っていた憧れと好奇心には勝てなかった。

「うん、僕も魔術に興味を持ってくれて嬉しいよ。」

キースは本当に嬉しそうだ。

「その石を今夜僕に預けてはくれないかい?本来魔道具はアクセサリーに加工して身につけて使うものなんだ。僕は自身の魔道具は基本的に自分で作っているから、腕は間違い無いと思うよ」

「そういうことでしたら、是非持って行ってください」

キースはクラインから石を受け取る。

「ありがとう。今日はもう遅いし疲れただろう。魔術の話は明日するとしようか」

「えぇ、よろしくお願いします!」

期待に胸を膨らませるクライン。
今夜はすぐ眠れるだろうか、変な心配を心の内でするのであった。
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