重なる世界の物語

えんとま

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ギルド"猟犬の牙"

受け流しの境地

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「素晴らしい試合だったよ。試験であること忘れてしまうくらいに」

「あぁ。2人とも凄かったぜ」

試験を終えた2人に、ダンとキースは健闘を讃える。クラインはアリスに手を差し出した。

「今回は僕が勝ちましたが、本当にギリギリでした。きっと本気になったアリスには敵わないでしょう。いい戦いでした」

「ありがとうございます、クラインさん。私もまだまだのようです。それに気づけたのもあなたのおかげです。私にとってもいい戦いでした」

2人は握手を交わす。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

アリスは先程からずっと気になっていたことをクラインん問いかける。

「最後の攻防で、私の木刀は確かに当たっていた。。あれはどういうことなんでしょうか」

「そうか、正面から対峙していたアリスはわからなかったんだね」

「私たちは横から見ていたからネタはわかってしまっているけど…」

「まぁわかっているからって出来る芸当じゃねぇよな」

何やら観戦していた3人はわかっているようだ。クラインは少し照れた顔だ。

「やっていたことはそんなに大したネタではないんです。木刀が触れた瞬間に僕はアリスの木刀の力の向きに合わせて、それだけです」

「しゃが…んだ…?」

・・・・・・・・
・・・・・
・・・



そうか!

クラインはアリスと対峙するなかで、彼女の秘密にたどり着いていた。

あれは ”視る力“によるものだ。反射神経では一歩遅れる。目で見て予想し動いているに違いない。だとすると相当な動体視力の持ち主だな。流石は猟犬の牙ハウンドファング、只者ではない。

彼女が視覚を頼りに動いていると言うなら、それを利用して突くしかない。目を騙すんだ!

クラインはジリジリと距離を詰める。まだアリスは仕掛けては来ない。

やはり、アリスはこちらが仕掛けてくるものだと思っている。普通はそうするだろうしね。きっとアリスの狙いはカウンターからのとどめの一撃。僕もそこで勝負に出よう、きっと一瞬で決まる。大丈夫だ、覚悟は決めた!

クラインは木刀を振り上げながら最後の攻防に出る。アリスめがけて木刀を振り下ろす。

カァンと音が響く。その瞬間、アリスは前方へ宙返りをした。流石に予想外の動きに焦るクライン。

おぉ!嘘だろ!?”アレ“で対処できるか!?

迷っている暇などない。アリスの木刀はすでにクラインの真上だ。

なんとか防御の構えを取る。
さぁここからだ!


意識を集中させる。

アリスの木刀が自身の木刀に乗る感覚、少し重みを感じる。

この重さの分だけ僕は

彼女の木刀と一体になるんだ。

力の赴くまま、その方向に沈ませていく…。

一瞬にして永遠のような、感覚の研ぎ澄まされた静寂の世界。確かに触れているのに、まるで空を切るように100%受け流された力は行き場を失い、やがてそれは本人へと伝播する。

アリスはバランスを崩して地に投げ出された。

ここだ!

すかさずクラインはとどめの一撃をかます。

ブワッと汗が吹き出るのを感じる。本当にギリギリだった…!

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


「なるほど、あの影でも切るような感触はそう言う理由でしたか」

「理屈はわかるけど実戦でやろうとしてもできない芸当だね。まさに受け流しの境地だよ」

アリスもキースも、感嘆の声をあげる。

「文句なしの合格ね。もともと最初から加入は許可するつもりだったから、実は負けてもうちに来てもらうつもりだったけど、想像以上だったわ。嬉しい誤算ね!」

なんだ、試験とは名ばかりでマスターが実力をその目で見て確かめたかったって言うだけだったのか。

がっくしと肩を落とすクラインに気づき、慌ててフォローするシリエ。

「あぁ!ごめんねクライン君!騙すとかそう言うつもりじゃなくって!ただ、ほら!ギルドマスターとしては冒険者の能力を把握しておく義務があるって言うか…「そういやクライン、まだこの街を案内していなかったな!」

フォローに苦しむシリエを見かねてか、ダンが話に割って入る。

「あとのことはマスターに任せてよ、俺らはこの辺を回ろうぜ!好きなだけ案内してやるからよ!」

「ほんとですか!ありがとうございます!」

一瞬で顔を明るくさせるクライン。
シリエはほっと胸をなでおろす。

「それでしたら私も同行します。この辺りはお店も多くて、見て回るだけでも楽しいですよ!」

アリスはすっかり打ち解けたようだ。剣で語り合うというのはこういうことなのだろうか。一度の対峙ですっかり心を許したようだ。

「それなら3人で行っておいで。僕はシリエとクライン君の加入の手続きをしておくよ」

「お、悪りぃな。任せたぜキース」

3人はギルドを後にする。
ここにはシリエとキースの2人だけになった。

継承する魂の宿主マスターソウルホルダー、まさかうちのギルドに来てくれるなんてね」

「うん、驚いたよ。”技“の継承する魂マスターソウルが持ち主を離れてからだいぶ経っていたはずだ。まさか田舎町で新たな継承者が生まれていたなんてね」

「そしてその子が今日、このギルドの戸を叩いた。この世に数人といない継承する魂の宿主マスターソウルホルダー、が。偶然というより奇跡みたいね」

「奇跡でも偶然でもないんじゃないかな。きっと必然だったんだ。こうなる運命だった、僕にはそう思えて仕方がないよ」

「この出会いを機に何かが動き出したような、始まりの予感がするんだ」

「あら、キースの予感は良くも悪くも当たった試しがないじゃない。ほら、そろそろ手続きの準備を始めましょう」

「…うん、そうだね」

キースが感じた予感が的中していたことを知るのは、だいぶ先のことである。この時は誰も、キース本人ですら、全ての始まりだったことを知る由はなかった。
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