重なる世界の物語

えんとま

文字の大きさ
上 下
4 / 47
全ての始まり

大都市アスクランを目指して3

しおりを挟む
丘を越え、目の前には大草原が広がっている。真っ直ぐ通った道の上を、その場しのぎで修復された荷馬車が進んでいく。まるで何もなかったかのように穏やかだ。

「まさか…いやまさかだよ。通りかかった少年があの継承する魂マスターソウルの持ち主とはな。たまたま棒術使いが助けてくれる偶然なんかよりよっぽど奇跡だぜ。明日槍が降ってきておっ死んでも文句は言えねぇな!」

豪快に笑う男の横で、クラインはコウラベアの焼いた肉にがっついている。

「そういやまだ名乗っちゃいなかったな。俺はダン、ダン・シークエンスだ」

そう名乗るとダンは、クラインに手を差し出した。

「僕はクライン・アスコートです。よろしく」

クラインは差し出された手を握り握手を交わすと続けた。

「ダンさんはなぜコウラベアに襲われていたんです?見たところ鍛えられていますし、ただの運び屋には見えないのですが」

「ダンさんはやめてくれ、ダンでいい。襲われた理由だがおそらく積み荷のせいだろうな」

そう言ってダンは積み荷を指差す。

「あれはゴールドハニー、ロイヤルビーが巣に蓄える最高級の蜂蜜だ。やつらはこれが好物らしくてな」

「あぁ、それと俺が運び屋に見えないって話だな。ご明察だ、俺の本職は運び屋じゃなくさ」

「冒険者…?」

「…田舎ってのはえらい閉鎖的なとこなんだな」

「返す言葉もありませんよ。職と呼べるものは狩人くらいです。どこの田舎もそうなのかは知りませんがね」

ダンの軽口にクラインは苦笑いで応える。

「冒険者ってのは依頼をこなして金を稼ぐ職業の総称さ。ギルドと呼ばれる組織に属していて、ギルドが仲介して依頼を取ってくるんで冒険者はそれをこなし、依頼料を受け取るって仕組みさ。もちろん俺もギルドに所属している」

なるほど、と頷くクラインを横目にダンは続ける。

「冒険者と一括りに言ってもいろんなものを得意とするやつがいてな。また細かく職がわかれているんだ。剣を扱う剣士セイバーや弓を扱う弓兵アーチャー、盾と剣をバランスよく扱う騎士ナイトとかな。俺は銃を得意とする銃使いガンナーだ」

ふと思い出したようにクラインは口を開いた。

「そういえばダンはなぜ武器を持っていなかったのですか?ガンナーなら銃を持っているんでしょう?」

それを聞いたダンは懐から銃を取り出すと空に向けて引き金を引く。しかし銃弾は出てこない。

「弾切れだよ、情けない話さ。補充すんのを忘れたのに気付いた時には拠点を離れちまってたからな。まさかあんなだだっ広い丘で魔物に出くわすなんて思いもしなかったから引き返さなかったんだが…痛い勉強料だよ全く」

「あぁ、状況は掴めてきましたよ。ダンは高級な嗜好品を確実に運送するための依頼を受けた冒険者で、使える武器も持たずに長距離を運びきろうとした結果、魔物に襲われ危うく依頼を失敗しかけた愚か者といったところでしょうか」

「なんだよ、言葉に棘があるな。田舎者呼ばわりされて拗ねてんのか?悪かったよ」

「…否定はしないんですね」

「事実だしな。あまり他で言いふらすなよ?依頼が来なくなっちまう」

そこまで話したところで、今度はダンの方から問いかける。

「そういやお前さんは何でアスクランに向かってたんだ?」

頬張った肉を飲み込み、ダンの問いに答えるクライン。

「それはですね…より多種多様な武器の鍛錬を積むために、アスクランを目指していたんです。あそこはあらゆるものが流通していると聞いていますから」

「鍛錬?マスターソウルはあらゆる武器の扱い方を魂から引き出して使えるんだろ?今更鍛錬なんて必要なのか?」

「まぁ半分くらいはその認識で正しいのですが、そう都合のいい代物でもないんです」

ダンは納得がいっていないようだがそのまま話を続ける。

「アスクランに着いてからは何の計画もありませんでしたが…そうですね、話を聞いてると冒険者になるのが一番いい方法かもしれませんね。お金を稼げる上に依頼の中でいろんな武器に携われるかもしれない…」

そこまで聞いて、ダンはニッと笑った。

「それならよ、ウチに来ないか?」

「ウチ?ダンの所属するギルドのことですか?」

「あぁそうさ。アスクランにある俺のギルドだ。少し特殊なギルドだが、マスターソウル持ちとなりゃ誰も文句を言う奴はいないだろう」

こちらに向き直り、ダンは再び手を差し出した。

「招待するぜ、クライン。ギルド「猟犬の牙ハウンドファング」によ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

笑福音葉 🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

処理中です...