忘れられた手紙

空道さくら

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第49話:助け合いで掴んだ栄冠

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 冬の夜の冷たい空気が頬を刺す中、文庫愛好会の部室に明るい声が響いた。勝利の余韻を抱えながら戻ってきたメンバーたちは、机を囲んでひと息ついた。

「やったー!」河西が椅子に腰を下ろすと同時に、勢いよく両手を突き上げた。「私たち、本当に勝ったんだよ! これ、すごいことだよね!」

「うん、信じられないくらい嬉しい!」平山も頬を染めながら、何度も机を叩いて笑顔を見せる。「全力で頑張った甲斐があったね!」

 結衣はみんなの様子を見て、胸にこみ上げてくる感情を抑えられなかった。「本当に……私たち、やり遂げたんですね。最後まで諦めずにやってよかった」

 そこへ、石山が静かに微笑みながら言葉を添えた。「おめでとう。みんなの頑張りがちゃんと結果に繋がったのは、本当にすごいことだと思うよ」

「でも、どうして二人が来てくれたんですか?」河西が首をかしげながら石山と北原を見つめた。「タイミングが良すぎる気がするんだけど?」

 石山は微笑みながら、河西の質問に答えた。「実はね、平山が事前に相談してくれてたの。『結果発表のときに揉めるかもしれないから、外で待機してもらえませんか』って。だから、私たちは最初から外でスタンバイしてたの」

 河西は驚いたように平山を振り返る。「平山、そんなことしてたんだ!全然気づかなかったよ!」

 平山は少し恥ずかしそうに肩をすくめた。「揉めた時に備えておこうと思って……。せっかく先輩たちがいるんだから、頼らない手はないと思ったんだ。それで、いざという時に入ってきてもらえるようお願いしておいたの」

「なるほどねー、さすが平山!冷静な判断だね」河西が感心したように頷く。

「ほんと、よく考えてたよね」北原が柔らかい声で続けた。「呼ばれるのを待ちながら、私たちもちょっとドキドキしてたけど、ちゃんと必要なタイミングで連絡をくれたからスムーズに動けたよ」

「いやいや、それだけじゃないよ」石山が平山に向かって軽く頷いた。「あの状況で、冷静に連絡をくれたのがすごいと思う。自分たちだけで何とかしようとせずに助けを求められるのも、大事な能力だからね」

 その言葉に平山は小さく笑いながら答えた。「いえ……それができたのも、先輩たちがすぐに駆けつけてくれるって信じてたからです」

「こういうときに頼られるのが、先輩の役目でしょ?」北原が冗談めかして言うと、部室には和やかな笑い声が広がった。

「でも、本当に助かりました。お二人が来てくれなかったら、もっと険悪な雰囲気になってたかもしれないです」結衣が感謝の気持ちを込めて深く頭を下げた。

「確かにね。私たちだけだったら、収拾つかなくなってたかも」河西も力強く頷いた。

「まあまあ、私たちはあくまでお手伝いしただけだから」北原が柔らかい笑顔を浮かべながら言った。「頑張ったのはみんなだよ。それに、最後まで全力を尽くしたから、こんな結果になったんだと思う」

「それにしても、島倉くん、本当にありがとう!」結衣が振り返り、島倉に向かって微笑む。「小説制作でも、たくさんアドバイスをくれて、本当に助かったよ。島倉くんがいなかったら、完成までたどり着けなかったかもしれないよ」

 平山も頷きながら、「そうそう。物語の構成やキャラクターの描写、すごく的確なアドバイスをくれたよね。おかげで、より良い作品に仕上がったと思う」と感謝を伝えた。

 島倉は少し照れくさそうに微笑みながら言った。「いえ、それも全部小林さんの指示があったからです。先輩が『協力してあげて』って言ってくれたので、僕にできることを精一杯やらせてもらいました」

「僕自身も楽しかったんです。文庫愛好会のみんなが本当に一生懸命で、その熱意に引っ張られたんだと思います」と島倉は控えめながらも誇らしげに語った。

「それでも、その気持ちが本当に嬉しいんだよ!」河西が力強く言いながら笑顔を向ける。「小説の完成度が自信につながったのも、島倉くんのおかげなんだから!」

 その言葉に、島倉はさらに照れた様子で「ありがとうございます。でも、そう言われると、ちょっとくすぐったいですね」と笑みを浮かべた。

 その言葉に全員が頷き、文庫愛好会の部室には温かな雰囲気が漂った。

 すると、河西が勢いよく手を叩き、「そうだ!せっかくだし、週末に打ち上げをしようよ!」と提案した。

「打ち上げ?」平山が目を丸くする。

「そう!みんなで集まって、今回の勝利をお祝いしようってこと!」河西は笑顔を浮かべながら続ける。「花音ちゃんも呼んでさ、みんなで楽しくやろうよ!」

「いいですね、それ!」結衣が賛同の声を上げた。「花音もすごく頑張ってくれたし、感謝の気持ちも込めて、みんなで集まるの、楽しいと思う!」

「確かに、それはいい案ですね」平山も頷きながら微笑む。「場所とか、何か準備が必要なら協力するよ」

 その時、結衣がふと石山と北原に視線を向けた。「石山さん、北原さんもぜひ来てください!先輩たちがいてくださったから、私たちここまでやり遂げられたんです。一緒にお祝いしたいです!」

 石山は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに笑顔を浮かべた。「私たちも?いいけど、先輩がいたら気を遣うんじゃない?」

「全然そんなことないです!」河西が力強く返す。「むしろ来てくれたら盛り上がりますし、先輩たちに感謝の気持ちを伝えたいです!」

 北原も微笑みながら「それじゃあ、お邪魔させてもらおうかな。楽しそうだしね」と頷いた。

「やった!みんなで楽しい時間を過ごしましょう!」河西が嬉しそうに笑い、部室の中には勝利の余韻と次の楽しみへの期待が一層広がった。



 部室の扉が軽くノックされ、続いて生田先生がひょっこり顔を覗かせた。「お、みんな揃ってるね。結果、どうだったんだ?」

「先生!」結衣が目を輝かせながら声を上げる。「勝ちました!文庫愛好会が、ちゃんと結果を出せました!」

「そうなんだ、すごいじゃないか!」生田先生は満面の笑みを浮かべながら部室に入ってきた。「おめでとう!みんな本当によく頑張ったね!」

「ありがとうございます!」平山が深々と頭を下げる。

「でも、結構大変だったんですよ」と河西が腕を組みながら冗談めかして言った。「先生が応援に来てくれてたら、もっと楽に勝てたかも?」

「おいおい、それはさすがに買いかぶりすぎだよ」先生は苦笑しながらも続けた。「でも、こうして結果を出して、みんなで頑張ったことを証明できたんだから、それが一番だよな」

「そうですね」と結衣が微笑む。「最後まで仲間と力を合わせられたからこその勝利だと思います」

 石山がにっこり笑いながら先生に声をかけた。「先生も、せっかくだから打ち上げに参加してくださいよ。こんな時くらい、生徒と一緒に楽しむのもいいんじゃないですか?」

「えっ、私も?」生田先生は少し戸惑ったように目を丸くしながら、視線を石山と北原に向けた。「って、君たちも来てたんだ」

 石山は軽く頷きながら説明した。「そうなんです。平山から『もしかしたら揉めるかもしれない』って相談を受けて、それで北原と一緒に来ました」

「そうそう」北原が柔らかな笑顔で続けた。「引退したとはいえ、文庫愛好会は私たちにとって大事な居場所ですからね。後輩たちのためなら、ひと肌脱ぐくらいお安い御用ですよ」

「なるほど、そういうことか」先生は納得したように微笑みながら頷いた。「君たちがいたなら、心強かっただろうね」

 河西が椅子から立ち上がり、先生に向かって笑顔で言った。「先生も、ぜひ打ち上げに来てください!先生にはいつも助けてもらってるし、今回も応援してくれたおかげで頑張れたんです。感謝の気持ちを込めて、一緒にお祝いしたいです!」

「気持ちは嬉しいけど、君たちだけで楽しんできたらいいよ」先生はやや照れくさそうに言った。「私が行ったらみんな気を遣うだろうし、それに打ち上げは君たち自身が頑張った成果を祝う場だろう?」

「そんなことないですよ!」河西がすかさず反論する。「先生が来てくれたら、もっと盛り上がると思うし、むしろ安心するんじゃないかな!」

 結衣も微笑みながら続けた。「先生がいれば、きっと打ち上げがもっと楽しくなります。先生のおかげで頑張れた部分もたくさんありますから」

 先生はしばし考え込むように顎に手を当てたが、やがて困ったように笑って答えた。「うーん、みんながそこまで言うなら……少しだけ顔を出そうかな」

「やったー!先生も参加決定ですね!」河西が喜びの声を上げる。

 北原が冗談めかして、「じゃあ、その時は先生のおごりで豪華な打ち上げになりますね」と付け加えると、先生は慌てたように手を振り、「いやいや、それは考えとくよ」と苦笑した。

 部室の中には明るい笑い声が広がり、文庫愛好会のメンバーは勝利の喜びと次の楽しみへの期待で、さらに賑やかになった。



 結衣はその光景を眺めながら、胸の中に温かい思いがじんわりと広がっていくのを感じていた。この勝利は、みんなが力を合わせた結果であり、一人ひとりの努力と思いが重なって生まれたものだと実感していた。

 先輩たちが駆けつけてくれたこと、先生が温かく見守ってくれたこと、そして仲間たちとともに乗り越えた時間。その全てがかけがえのない記憶となり、結衣の心に深く刻まれていく。

 ふと窓の外を見ると、夜空には満天の星が輝いていた。どの星もお互いを引き立てるように瞬き、空いっぱいに広がる光の絵画を描いている。結衣は静かに目を閉じ、その光景を胸に刻んだ。

「次はどんな物語を紡げるだろう?」心の中で問いかけたその瞬間、また新たな挑戦への期待が湧き上がってきた。勝利の先にある未来を思い描きながら、結衣は穏やかな笑みを浮かべた。

 笑顔に包まれた仲間たちの声が響く部室。ここが、結衣にとって一番の居場所だと、改めて感じられる夜だった。
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