47 / 50
第47話:紡いだ言葉、集う想い
しおりを挟む
冬の夜風が校舎を静かに吹き抜ける中、文庫愛好会のメンバーは机の上に置かれた最後の1冊を見つめていた。何日もかけて、学校中で小説を配り続けてきた努力が、この1冊に凝縮されているようだった。
「ついに、ここまできたね」河西が冷たい手をこすりながら呟いた。
「本当に、これが最後の1冊なんだ……」平山は小さな声で言い、驚きと達成感が入り混じった表情で机を見つめていた。
「毎日頑張ったもんね」花音が笑いながら、スーツの袖を整える。初日から協力してくれていた彼女の存在が、文庫愛好会の活動をどれだけ支えてくれたか、全員が感じていた。
「花音が手伝ってくれたおかげで、ここまでこれたんだよ。本当にありがとう」結衣が心からの感謝を込めて言うと、花音は満面の笑みを浮かべながら手を差し出した。
「当然でしょ!ほら、ハイタッチ!」と軽やかに言う。
結衣も笑顔でその手に応え、二人の手がパチンと音を立てて触れ合った。その音が冬の静かな廊下に響き、温かい空気を運んでくるようだった。
「最後の1冊、誰が渡す?」花音は机を指さして尋ねた。
「ここは、全員で渡すのがいいんじゃない?」河西が提案すると、平山も「そうだね、その方がぴったりだと思う」と頷く。
「全員で……いいね!」結衣が微笑み、みんなで最後の1冊を囲むようにして手に取った。
暗くなった廊下の向こうから、一人の生徒がこちらに歩いてくる足音が聞こえた。その音に全員の視線が集まり、自然と緊張感が漂う。
「行こう!」花音が小説をみんなの手に持たせ、力強く声をかけた。
結衣、河西、平山、花音、そして島倉が並び、心を込めて声を合わせた。「文庫愛好会が心を込めて作った小説です!ぜひ読んでみてください!」
歩いてきた生徒は驚いたように足を止め、全員の真剣な表情と手渡された小説に目を向けた。しばらく見つめた後、柔らかく微笑むと、「ありがとう。読んでみるよ」と言いながら、小説を受け取った。
全員で深々と頭を下げながら、「ありがとうございます!楽しんでもらえたら嬉しいです」と揃った声で伝えた。
その瞬間、文庫愛好会の机から小説がすべてなくなった。達成感が胸に押し寄せ、結衣たちは思わず顔を見合わせた。そして――
「やったー!」河西が両手を突き上げて声を上げる。
「これで全部配り切れた……!」平山は胸に手を当て、じんわりと目元を押さえた。
「みんな、本当にお疲れ様!すごいよ!」花音は笑顔で結衣たちを見渡しながら、力強く言った。
「ここまでくるのに、本当に大変でしたね。でも、みんなで協力してやり遂げられた。感謝しかないです」島倉が控えめながらも、温かい言葉を添える。
結衣は机の上に何も残っていないことを確認しながら、優しい笑みを浮かべた。「私たち、やり遂げましたね。みんなの力が合わさったから、ここまでこれたと思います!」
冷たい冬の空気が頬を刺す夜。文庫愛好会のメンバーは達成感に包まれながら、校舎の中庭を見上げた。見渡すと、煌々と輝く星空が広がっていた。
翌日、放課後の文芸部の部室には冬の日差しが斜めに差し込み、静かな緊張感が漂っていた。文庫愛好会のメンバーが訪れると、文芸部のメンバーは整然とした姿勢で彼らを迎えた。
「そちらの配布、うまくいったみたいね」遠藤が机の前に立ち、冷静な視線で結衣たちを見渡した。
結衣は一瞬言葉を探すように間を置いた後、まっすぐ遠藤を見返した。「はい、たくさんの人たちに受け取ってもらいました」
「そう、よかったじゃない」遠藤は軽く頷くと、机越しに立つ花音をちらりと見てから、口元にわずかに笑みを浮かべた。「でも、また頼ったのね。派手な演出がお好きな文庫愛好会らしいね」
その挑発的な言葉に、河西が顔を赤らめて口を開きかけたが、花音が前に出た。
「そうですね、目立つのは得意なんです。おかげさまで、たくさんの人に興味を持ってもらえました」花音は自信たっぷりに微笑み、余裕のある声で答えた。「必要なことをしただけですよ。文庫愛好会の物語を、できるだけ多くの人に届けるためにね」
遠藤の目が一瞬だけ細まったが、表情は崩れない。「まあ、それも一つのやり方ね。でも、結果がすべて。どちらが読者の心をつかむか、楽しみにしてる」
その言葉に、河西が再び反論しかけるが、平山が軽く肩を叩いて止めた。「落ち着いて。ここで言い争っても、何も変わらないよ」
一方、小林は少し離れた場所からそのやり取りを静かに見つめていた。そして、低い声で意見を述べた。「どちらの作品にも、それぞれの良さがある。読んだ人たちがどんな風に感じるかが、一番大切だと思う」
小林の言葉は場の緊張をわずかに和らげたが、遠藤は彼に視線を向けることもなく、冷静な声で言い放った。「結果は1か月後に分かる。そのとき、どちらが本当に支持を集めたのかを、きっちり見届けましょう」
遠藤の声には自信に裏打ちされた冷ややかさが漂っていた。彼女の言葉を最後に、部室の空気が静まり返る。
結衣たちは文芸部のメンバーに軽く会釈をし、部室を後にした。廊下に出ると、冷たい冬の空気が頬を刺すようだった。足音だけが響く静かな校舎の中、文庫愛好会のメンバーは並んで歩きながら、それぞれの思いを胸に秘めていた。
やがて河西が口を開いた。「なんだか、すごいプレッシャーだったね……でも、なんとか切り抜けた感じ」
「そうだね。でも、私たちも全力でやり切ったんだから、自信を持っていいと思うよ」平山が微笑みながら答える。
結衣は静かに頷いた。「うん、みんなで力を合わせてやり切れたよね。それが一番大事だと思う」
「それにしても花音ちゃんの在感、ほんとすごかったよね」河西が笑いながら言うと、平山も「うん、島倉くんも落ち着いてて頼もしかった」と賛同する。
その言葉を聞いた島倉は少し照れたように眉を下げ、「いや、僕はただサポートしていただけですよ。花音さんや皆さんの力があったからこそです」と控えめに言葉を添えた。
「いやいや、島倉くんがいなかったら心細かったよ。しっかり支えてくれたからね」結衣が笑顔でそう言うと、島倉は少し照れくさそうに「ありがとう」と小さく頭を下げた。
結衣は足を止めてふと振り返り、廊下の奥にある文芸部の部室の扉を見つめた。「私たちの物語、ちゃんと誰かの心に届いてるといいな……」
その言葉に河西と平山も足を止め、同じように廊下の先を見つめた。島倉も静かに口を開いた。「僕は、届いていると思うよ。これだけの努力と思いを込めた作品なら、きっと誰かの心に響いているはず」
冷たい風が校舎を吹き抜ける中、結衣たちの胸には、やり遂げた達成感と新たな期待が静かに灯っていた。
「信じて待とう」結衣が小さく呟き、三人が頷くと、四人は再び歩き出した。その背中には、次の一歩を踏み出すための力強さが宿っていた。
1か月が経ち、いよいよ結果を確認する日がやってきた。放課後、文芸部の部室には文芸部と文庫愛好会のメンバーが集まっていた。冬の柔らかな日差しが窓から差し込む中、机の上にはそれぞれの作品に投票された用紙が積み上げられている。
遠藤が席に座ったまま冷静な表情で口を開く。「さて、皆さんお待ちかねの結果確認だけど、今回はお互いに投票用紙を自分たちで開票し、集計する形で進めましょうか。公平性を保つためにも、それが一番いい方法だと思います」
河西が軽く頷きながら、「わかった。自分たちで集計した方が責任を持てるし、丁寧に確認できるね」と答えた。
「そういうことね」遠藤は軽く机に目を落としながら言葉を続けた。「それぞれ、自分たちの作品の投票用紙を確認して、合計数を報告する形で進めましょう。もちろん、間違いのないように慎重にね。それじゃ、始めましょうか」
河西は勢いよく頷き、手を伸ばして投票用紙を手に取った。「よし、まずは文庫愛好会の分から!」
河西が最初の投票用紙を開くと、すぐに感想が目に飛び込んできた。「これ、私たちの小説のことが書かれてるよ!『キャラクターが本当に魅力的で、友達のことを思い出しました』だって!」
「ほんとに?」平山が声を弾ませる。「やっぱりキャラクターの部分を褒められると嬉しいよね」
「次はこれ!」平山が手に取る。「『装丁が可愛くて、表紙だけで手に取っちゃいました』って!頑張った甲斐があったな」
隣で感想を読んでいた島倉がふと顔を上げる。「こちらもすごくいい感想ですね。『手作り感があたたかくて、一生懸命さが伝わりました』……これって、文庫愛好会の魅力そのものですね」
「素敵なコメント見つけたね!」結衣がにっこり笑いながら、「ほら、まだまだ感想があるんだから、どんどん読んでいこうよ!」と声をかける。
その声に、遠藤がふと顔を上げ、冷静な口調で口を挟んだ。「感想を読むのもいいけど、まずは投票数をしっかり数えることに集中したらどうかな?それに……あなたたち、もう少し静かにできないの?」
遠藤の言葉に、結衣は一瞬動きを止めて「すみません、ちょっと盛り上がりすぎました……」と軽く頭を下げた。
しかし、その隣で河西が腕を組みながら遠藤に向き直る。「別にいいじゃない。私たち文庫愛好会は楽しんで開票してるだけなんだし、文芸部の皆さんは静かに数えてればいいでしょ?」
その言葉に、遠藤は一瞬だけ目を細め、冷たい笑みを浮かべながら答えた。「まあ、普段あまり褒められることがないと、こんなことで浮かれるのも仕方ないわよね。でも、投票数をしっかり確認できるなら、それで問題ないわ」
河西はむっとした表情を浮かべたが、結衣がそっと肩に手を置き、優しく微笑んだ。「河西さん、気にしなくて大丈夫。私たちらしく進めていきましょう。それより、もっと感想を読みましょうよ。」
河西はその言葉に肩の力を抜き、「……そうだよね。じゃあ、文庫愛好会らしく楽しくやらせてもらうよ!」と少し明るい声で返す。
その様子を見ていた島倉が穏やかに微笑み、「いいですね。それぞれ、自分たちらしいやり方で進めていけばいいと思いますよ」と、場を和らげるように優しく言った。
その言葉に、結衣たちは再び顔を見合わせ、自然と笑顔が戻った。そして、それぞれ手元の投票用紙に集中しながらも、文庫愛好会らしい賑やかさを保ちながら開票作業を進めた。
しばらくの間、部屋の中では開票作業が進められていた。文庫愛好会の机からは楽しげな声が飛び交い、感想を読み上げながら時折笑い声が響いていた。
一方、文芸部の机は静まり返っていた。遠藤を中心に投票用紙を淡々と仕分けし、感想もほとんど声に出さずに目を通している。部員たちの集中した表情からは、一切の無駄を排除した冷静さが漂っていた。
やがて、遠藤が顔を上げ、冷静な声で告げた。「みんな、終わったみたいね。それじゃ、これから投票数をカウントしましょう」
その一言で場が引き締まり、文庫愛好会と文芸部の票数がそれぞれ机の中央にまとめられた。ワイワイと盛り上がる文庫愛好会のメンバーと、静かに作業を進める文芸部のメンバー。その対照的な様子が、部屋の空気に不思議な緊張感を生んでいた。
遠藤は集計作業を終えた文庫愛好会の様子をちらりと見やり、冷たい笑みを浮かべながら口を開いた。
「ふふ、ずいぶん楽しそうにやってたみたいだけど、勝てたらいいね」余裕たっぷりの声には、皮肉めいた響きが込められていた。
河西はすぐに自信たっぷりな笑みを浮かべて答えた。「心配ないよ。私たちがやったことは、きっと結果に繋がるはず」
「そう、ならいいわ」遠藤は肩をすくめ、冷たい笑みをさらに深めた。「その調子なら、結果発表も楽しめそうね」
遠藤は河西の言葉に一切動じた様子を見せず、「では、始めましょうか。どちらが多くの支持を得たのか……じっくり確認しましょう」と静かに席に戻った。
結衣は遠藤の余裕たっぷりの態度を見つめながら、胸の奥で小さな不安が膨らむのを感じていた。自分たちが全力を尽くしたことに変わりはない。それでも、結果がどうなるのか――その思いが、静かに心をざわつかせていた。
静かに深呼吸をし、これまでの努力と仲間たちの笑顔を思い返した。不安を胸に抱えながらも、自分たちがやれることをすべてやり遂げたという思いが、かすかな自信となって心の奥で灯っている。
その小さな灯りを頼りに、結衣は目の前の机に視線を戻した。結果が何であれ、結衣の中には確かな達成感と、次へ進むための決意が静かに育ち始めていた。
「ついに、ここまできたね」河西が冷たい手をこすりながら呟いた。
「本当に、これが最後の1冊なんだ……」平山は小さな声で言い、驚きと達成感が入り混じった表情で机を見つめていた。
「毎日頑張ったもんね」花音が笑いながら、スーツの袖を整える。初日から協力してくれていた彼女の存在が、文庫愛好会の活動をどれだけ支えてくれたか、全員が感じていた。
「花音が手伝ってくれたおかげで、ここまでこれたんだよ。本当にありがとう」結衣が心からの感謝を込めて言うと、花音は満面の笑みを浮かべながら手を差し出した。
「当然でしょ!ほら、ハイタッチ!」と軽やかに言う。
結衣も笑顔でその手に応え、二人の手がパチンと音を立てて触れ合った。その音が冬の静かな廊下に響き、温かい空気を運んでくるようだった。
「最後の1冊、誰が渡す?」花音は机を指さして尋ねた。
「ここは、全員で渡すのがいいんじゃない?」河西が提案すると、平山も「そうだね、その方がぴったりだと思う」と頷く。
「全員で……いいね!」結衣が微笑み、みんなで最後の1冊を囲むようにして手に取った。
暗くなった廊下の向こうから、一人の生徒がこちらに歩いてくる足音が聞こえた。その音に全員の視線が集まり、自然と緊張感が漂う。
「行こう!」花音が小説をみんなの手に持たせ、力強く声をかけた。
結衣、河西、平山、花音、そして島倉が並び、心を込めて声を合わせた。「文庫愛好会が心を込めて作った小説です!ぜひ読んでみてください!」
歩いてきた生徒は驚いたように足を止め、全員の真剣な表情と手渡された小説に目を向けた。しばらく見つめた後、柔らかく微笑むと、「ありがとう。読んでみるよ」と言いながら、小説を受け取った。
全員で深々と頭を下げながら、「ありがとうございます!楽しんでもらえたら嬉しいです」と揃った声で伝えた。
その瞬間、文庫愛好会の机から小説がすべてなくなった。達成感が胸に押し寄せ、結衣たちは思わず顔を見合わせた。そして――
「やったー!」河西が両手を突き上げて声を上げる。
「これで全部配り切れた……!」平山は胸に手を当て、じんわりと目元を押さえた。
「みんな、本当にお疲れ様!すごいよ!」花音は笑顔で結衣たちを見渡しながら、力強く言った。
「ここまでくるのに、本当に大変でしたね。でも、みんなで協力してやり遂げられた。感謝しかないです」島倉が控えめながらも、温かい言葉を添える。
結衣は机の上に何も残っていないことを確認しながら、優しい笑みを浮かべた。「私たち、やり遂げましたね。みんなの力が合わさったから、ここまでこれたと思います!」
冷たい冬の空気が頬を刺す夜。文庫愛好会のメンバーは達成感に包まれながら、校舎の中庭を見上げた。見渡すと、煌々と輝く星空が広がっていた。
翌日、放課後の文芸部の部室には冬の日差しが斜めに差し込み、静かな緊張感が漂っていた。文庫愛好会のメンバーが訪れると、文芸部のメンバーは整然とした姿勢で彼らを迎えた。
「そちらの配布、うまくいったみたいね」遠藤が机の前に立ち、冷静な視線で結衣たちを見渡した。
結衣は一瞬言葉を探すように間を置いた後、まっすぐ遠藤を見返した。「はい、たくさんの人たちに受け取ってもらいました」
「そう、よかったじゃない」遠藤は軽く頷くと、机越しに立つ花音をちらりと見てから、口元にわずかに笑みを浮かべた。「でも、また頼ったのね。派手な演出がお好きな文庫愛好会らしいね」
その挑発的な言葉に、河西が顔を赤らめて口を開きかけたが、花音が前に出た。
「そうですね、目立つのは得意なんです。おかげさまで、たくさんの人に興味を持ってもらえました」花音は自信たっぷりに微笑み、余裕のある声で答えた。「必要なことをしただけですよ。文庫愛好会の物語を、できるだけ多くの人に届けるためにね」
遠藤の目が一瞬だけ細まったが、表情は崩れない。「まあ、それも一つのやり方ね。でも、結果がすべて。どちらが読者の心をつかむか、楽しみにしてる」
その言葉に、河西が再び反論しかけるが、平山が軽く肩を叩いて止めた。「落ち着いて。ここで言い争っても、何も変わらないよ」
一方、小林は少し離れた場所からそのやり取りを静かに見つめていた。そして、低い声で意見を述べた。「どちらの作品にも、それぞれの良さがある。読んだ人たちがどんな風に感じるかが、一番大切だと思う」
小林の言葉は場の緊張をわずかに和らげたが、遠藤は彼に視線を向けることもなく、冷静な声で言い放った。「結果は1か月後に分かる。そのとき、どちらが本当に支持を集めたのかを、きっちり見届けましょう」
遠藤の声には自信に裏打ちされた冷ややかさが漂っていた。彼女の言葉を最後に、部室の空気が静まり返る。
結衣たちは文芸部のメンバーに軽く会釈をし、部室を後にした。廊下に出ると、冷たい冬の空気が頬を刺すようだった。足音だけが響く静かな校舎の中、文庫愛好会のメンバーは並んで歩きながら、それぞれの思いを胸に秘めていた。
やがて河西が口を開いた。「なんだか、すごいプレッシャーだったね……でも、なんとか切り抜けた感じ」
「そうだね。でも、私たちも全力でやり切ったんだから、自信を持っていいと思うよ」平山が微笑みながら答える。
結衣は静かに頷いた。「うん、みんなで力を合わせてやり切れたよね。それが一番大事だと思う」
「それにしても花音ちゃんの在感、ほんとすごかったよね」河西が笑いながら言うと、平山も「うん、島倉くんも落ち着いてて頼もしかった」と賛同する。
その言葉を聞いた島倉は少し照れたように眉を下げ、「いや、僕はただサポートしていただけですよ。花音さんや皆さんの力があったからこそです」と控えめに言葉を添えた。
「いやいや、島倉くんがいなかったら心細かったよ。しっかり支えてくれたからね」結衣が笑顔でそう言うと、島倉は少し照れくさそうに「ありがとう」と小さく頭を下げた。
結衣は足を止めてふと振り返り、廊下の奥にある文芸部の部室の扉を見つめた。「私たちの物語、ちゃんと誰かの心に届いてるといいな……」
その言葉に河西と平山も足を止め、同じように廊下の先を見つめた。島倉も静かに口を開いた。「僕は、届いていると思うよ。これだけの努力と思いを込めた作品なら、きっと誰かの心に響いているはず」
冷たい風が校舎を吹き抜ける中、結衣たちの胸には、やり遂げた達成感と新たな期待が静かに灯っていた。
「信じて待とう」結衣が小さく呟き、三人が頷くと、四人は再び歩き出した。その背中には、次の一歩を踏み出すための力強さが宿っていた。
1か月が経ち、いよいよ結果を確認する日がやってきた。放課後、文芸部の部室には文芸部と文庫愛好会のメンバーが集まっていた。冬の柔らかな日差しが窓から差し込む中、机の上にはそれぞれの作品に投票された用紙が積み上げられている。
遠藤が席に座ったまま冷静な表情で口を開く。「さて、皆さんお待ちかねの結果確認だけど、今回はお互いに投票用紙を自分たちで開票し、集計する形で進めましょうか。公平性を保つためにも、それが一番いい方法だと思います」
河西が軽く頷きながら、「わかった。自分たちで集計した方が責任を持てるし、丁寧に確認できるね」と答えた。
「そういうことね」遠藤は軽く机に目を落としながら言葉を続けた。「それぞれ、自分たちの作品の投票用紙を確認して、合計数を報告する形で進めましょう。もちろん、間違いのないように慎重にね。それじゃ、始めましょうか」
河西は勢いよく頷き、手を伸ばして投票用紙を手に取った。「よし、まずは文庫愛好会の分から!」
河西が最初の投票用紙を開くと、すぐに感想が目に飛び込んできた。「これ、私たちの小説のことが書かれてるよ!『キャラクターが本当に魅力的で、友達のことを思い出しました』だって!」
「ほんとに?」平山が声を弾ませる。「やっぱりキャラクターの部分を褒められると嬉しいよね」
「次はこれ!」平山が手に取る。「『装丁が可愛くて、表紙だけで手に取っちゃいました』って!頑張った甲斐があったな」
隣で感想を読んでいた島倉がふと顔を上げる。「こちらもすごくいい感想ですね。『手作り感があたたかくて、一生懸命さが伝わりました』……これって、文庫愛好会の魅力そのものですね」
「素敵なコメント見つけたね!」結衣がにっこり笑いながら、「ほら、まだまだ感想があるんだから、どんどん読んでいこうよ!」と声をかける。
その声に、遠藤がふと顔を上げ、冷静な口調で口を挟んだ。「感想を読むのもいいけど、まずは投票数をしっかり数えることに集中したらどうかな?それに……あなたたち、もう少し静かにできないの?」
遠藤の言葉に、結衣は一瞬動きを止めて「すみません、ちょっと盛り上がりすぎました……」と軽く頭を下げた。
しかし、その隣で河西が腕を組みながら遠藤に向き直る。「別にいいじゃない。私たち文庫愛好会は楽しんで開票してるだけなんだし、文芸部の皆さんは静かに数えてればいいでしょ?」
その言葉に、遠藤は一瞬だけ目を細め、冷たい笑みを浮かべながら答えた。「まあ、普段あまり褒められることがないと、こんなことで浮かれるのも仕方ないわよね。でも、投票数をしっかり確認できるなら、それで問題ないわ」
河西はむっとした表情を浮かべたが、結衣がそっと肩に手を置き、優しく微笑んだ。「河西さん、気にしなくて大丈夫。私たちらしく進めていきましょう。それより、もっと感想を読みましょうよ。」
河西はその言葉に肩の力を抜き、「……そうだよね。じゃあ、文庫愛好会らしく楽しくやらせてもらうよ!」と少し明るい声で返す。
その様子を見ていた島倉が穏やかに微笑み、「いいですね。それぞれ、自分たちらしいやり方で進めていけばいいと思いますよ」と、場を和らげるように優しく言った。
その言葉に、結衣たちは再び顔を見合わせ、自然と笑顔が戻った。そして、それぞれ手元の投票用紙に集中しながらも、文庫愛好会らしい賑やかさを保ちながら開票作業を進めた。
しばらくの間、部屋の中では開票作業が進められていた。文庫愛好会の机からは楽しげな声が飛び交い、感想を読み上げながら時折笑い声が響いていた。
一方、文芸部の机は静まり返っていた。遠藤を中心に投票用紙を淡々と仕分けし、感想もほとんど声に出さずに目を通している。部員たちの集中した表情からは、一切の無駄を排除した冷静さが漂っていた。
やがて、遠藤が顔を上げ、冷静な声で告げた。「みんな、終わったみたいね。それじゃ、これから投票数をカウントしましょう」
その一言で場が引き締まり、文庫愛好会と文芸部の票数がそれぞれ机の中央にまとめられた。ワイワイと盛り上がる文庫愛好会のメンバーと、静かに作業を進める文芸部のメンバー。その対照的な様子が、部屋の空気に不思議な緊張感を生んでいた。
遠藤は集計作業を終えた文庫愛好会の様子をちらりと見やり、冷たい笑みを浮かべながら口を開いた。
「ふふ、ずいぶん楽しそうにやってたみたいだけど、勝てたらいいね」余裕たっぷりの声には、皮肉めいた響きが込められていた。
河西はすぐに自信たっぷりな笑みを浮かべて答えた。「心配ないよ。私たちがやったことは、きっと結果に繋がるはず」
「そう、ならいいわ」遠藤は肩をすくめ、冷たい笑みをさらに深めた。「その調子なら、結果発表も楽しめそうね」
遠藤は河西の言葉に一切動じた様子を見せず、「では、始めましょうか。どちらが多くの支持を得たのか……じっくり確認しましょう」と静かに席に戻った。
結衣は遠藤の余裕たっぷりの態度を見つめながら、胸の奥で小さな不安が膨らむのを感じていた。自分たちが全力を尽くしたことに変わりはない。それでも、結果がどうなるのか――その思いが、静かに心をざわつかせていた。
静かに深呼吸をし、これまでの努力と仲間たちの笑顔を思い返した。不安を胸に抱えながらも、自分たちがやれることをすべてやり遂げたという思いが、かすかな自信となって心の奥で灯っている。
その小さな灯りを頼りに、結衣は目の前の机に視線を戻した。結果が何であれ、結衣の中には確かな達成感と、次へ進むための決意が静かに育ち始めていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる