忘れられた手紙

第38話：新たな一面に触れて

　この日、文庫愛好会のメンバーたちは旅館を飛び出し、小説の取材を兼ねた観光をすることになっていた。歴史的な建物や美しい自然を巡り、その風景や雰囲気を物語に生かすのが目的だ。単なる散策ではなく、特別な一日になる――そんな期待が、みんなの胸に膨らんでいた。

　朝早く、結衣、河西、平山の三人は準備を整えてロビーに向かった。旅館のロビーには、すでに島倉と生田先生の姿があった。

「おはようございます！」結衣が元気よく挨拶すると、島倉も「おはよう！」と爽やかな笑顔を向け、生田先生も「おはよう、準備はいい？」と穏やかに問いかけた。

「先生、今日はどこを回るんですか？」河西が嬉しそうに尋ねると、生田先生は微笑みながら答えた。

「まずはこの地域の名所になっている歴史的な建物を見学しよう。それから周囲の自然も堪能できる場所へ行く予定だよ。きっとインスピレーションが湧くと思うよ。」

「いいですね！絶対に素敵な写真が撮れるはず！」平山が目を輝かせる。

「うん、小説の舞台になりそうな場所がたくさんありそうだよね！」結衣も同意して声を弾ませた。

　その時、島倉が窓の外を見ながら言った。「天気もいいし、絶好の観光日和だね。雪もまだ残ってるから、すごく綺麗だと思う。」

「ほんとだね、旅館の庭だけでも感動したのに！」河西が声を弾ませると、平山も笑顔で頷いた。

　結衣はふと昨日の陽斗とのやりとりを思い出し、生田先生に声をかけた。「先生、今日は陽斗君も誘ってもいいですか？ 昨日少し仲良くなれた気がして…もっと一緒に過ごせたらと思って。」

　生田先生は少し驚いた様子を見せながらも微笑み、「いい考えだね。陽斗もきっと楽しんでくれるはずだよ」と答えた。

　結衣は周りを見渡して陽斗を見つけ、軽く手を振りながら彼の元へ歩み寄った。「おはよう、陽斗君！ 今日はみんなで観光に行くんだけど、一緒に行かない？」と声をかけると、陽斗は少し驚いた表情を浮かべたが、結衣の明るい声に誘われるように微笑みを浮かべ、「うん、行きたい」と頷いた。

　その様子を見ていた河西が「陽斗君も一緒ならもっと楽しくなりそう！」と嬉しそうに言い、平山も「うん、一緒に楽しもうね！」と笑顔で声をかけた。

「じゃあ、みんな準備はいいかな？」生田先生が声をかけると、全員が「はい！」と元気よく答えた。

「出発だね！」島倉が声を上げ、一行は笑顔を浮かべながら旅館を後にした。特別な一日の始まりを告げるように、柔らかな朝の日差しが一行を包み込んでいた。



「みんな、準備はいいかい？」生田先生が声をかけると、全員が元気よく「はい！」と応じた。

「じゃあ、出発しよう！」生田先生が言うと、一行は笑顔で旅館を後にし、観光地へと向かって歩き始めた。

　朝の空気が爽やかで、清々しい風がメンバーたちの頬を優しく撫でていく。遠くには山並みが見え、鳥のさえずりが耳に心地よい。道中、結衣と陽斗が並んで歩き始めた。結衣は少し緊張しながらも、彼の横顔を見て自然に話題を切り出す。

「陽斗君、昨日話してたアニメの最新話、もう見た？」と結衣が問いかけると、陽斗は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに微笑んで答えた。

「あの回、本当に良かったよね。特に最後のあのシーン…」と陽斗が話し始めると、結衣も目を輝かせて頷く。「そうそう！私、思わず泣いちゃった！あのセリフ、すごく胸に響いて…」と共感を込めて返した。

　二人の会話が自然と盛り上がる中、後ろから島倉が驚いたような声を上げた。「え、二人もそのアニメ好きだったの？それなら早く教えてくれれば良かったのに！」と笑いながら駆け寄ってきた。

「そのアニメ、僕も大好きなんだ。特にあのキャラ、最高だと思わない？」と島倉が話を続けると、結衣は嬉しそうに「本当に！私も大好き！」と応じた。陽斗は一瞬戸惑ったように黙ったが、結衣が「陽斗君もそう思うよね？」と優しく振り向くと、少しずつ表情を柔らかくして頷いた。

　アニメの話題で盛り上がる一方で、結衣はふと陽斗が視線を落としているのに気づいた。島倉との会話に少し入りづらそうに見える彼の様子に、結衣は心の中で「どうしたら陽斗君がもっと気楽にいられるかな」と考える。

「陽斗君、今日の景色、素敵だよね！」と結衣が明るい声で話題を変えると、陽斗は周囲を見渡しながら「…うん、すごくきれいだね」と小さな声で答えた。その言葉に結衣は微笑みながら「楽しいね」と声をかけ、彼の歩調に合わせて進んだ。

　ちょうどその時、平山が「わあ、見て！あの景色、すごくきれい！」と声を上げた。みんなが振り向くと、一面に広がる自然の美しさが目に飛び込んできた。木々の緑と空の青さが鮮やかで、遠くには滝のような水音がかすかに聞こえる。

　陽斗もその景色を見て、少しずつ表情が和らいでいく。結衣は彼の様子を見て、ほっと胸を撫で下ろした。「陽斗君、きれいだね」とそっと声をかけると、陽斗は頷きながら少し照れくさそうに微笑んだ。



　結衣たちは歴史的な建物を訪れた。その壮大な建築様式に、全員が思わず足を止め、感嘆の声を上げる。建物の外観は精緻な彫刻で飾られており、入口の大きな門は時間の流れを感じさせる風格があった。

「すごい！本当に綺麗だね！」河西が声を弾ませると、平山も「わぁ、まるで映画のセットみたい」と目を輝かせた。

　結衣はその美しさに魅了され、さっそくメモ帳を取り出して感じたことを書き留め始める。石造りの柱の模様や、古びた窓のデザインなど、細かいところまでしっかり観察する。

「この模様、すごく綺麗…。昔の職人さんたちって、やっぱりすごいね」と結衣が柱の彫刻を見つめながらつぶやくと、陽斗の目が輝き、思わず口を開いた。「これ、地域の伝説を表してるんだよ。ここに描かれてるのは龍で、建物を守護するために彫られたんだって」

「本当に？そんな意味があるんだ！」結衣が驚きと感心を込めた声を上げる。

「陽斗君、すごいね！よく知ってるね」と平山が驚いたように言うと、陽斗は少し顔を赤くして、「ちょっとだけだよ。この地域の歴史に興味があって、調べたことがあるんだ」と控えめに答えた。

「他にも何か面白い話はあるの？」と河西が興味津々で尋ねると、陽斗は窓のデザインを指差しながら続けた。

「この窓のデザインは、風と水の流れを象徴してるんだ。風が建物を通り抜けることで災厄を追い払い、水が豊かさを運ぶという意味が込められてるんだよ」

「へぇ、そんな深い意味があるなんて！なんだかロマンチックだね」と平山が感心したように頷く。

　その時、生田先生が後ろから微笑みながら声をかけた。「みんな、陽斗はこういう歴史の話に詳しいんだ。ぜひ色々教えてもらうといいよ」

　陽斗は照れたように視線を落とすが、結衣が「陽斗君、本当に頼りになるね！」と微笑みながら声をかけると、彼も少しだけ笑顔を返した。

　建物の高い塔を見上げながら、島倉が感嘆の声を漏らす。「この建物、本当に壮大だよね。あの塔、すごく印象的じゃない？」

　陽斗は少し戸惑いながらも、「あの塔は昔、大名が見張り台として使っていたらしいよ」と答えた。

「そうなんだ！陽斗君、そんなことも知ってるの？」島倉が驚いたように言うと、陽斗は一瞬声を詰まらせ、少し緊張した様子を見せる。

　その様子を察した結衣が、優しく話題を広げる。「ねえ、この建物を物語の舞台にしたら素敵じゃない？どんなストーリーが展開すると思う？」と声をかけた。

　陽斗は少し考え込んだ後、「例えば、ここに隠された宝物を探す冒険とか？」と静かに提案する。

「それ、面白そう！」と河西が笑顔で応じ、「私は歴史の謎を解き明かす探偵ものとかもいいと思うな」と平山が続けた。

「みんなのアイデア、どれも素敵だね！」と結衣が嬉しそうにメモ帳に書き留めると、陽斗も少しリラックスした様子で微笑んだ。

　こうして結衣たちは歴史的な建物の魅力を堪能しながら、互いにインスピレーションを共有し合った。



　見学が終わると、河西が明るく声を上げた。「あー、お腹すいた！何か美味しいもの食べたいな！」

　平山がすぐに応じる。「ほんと、お腹ペコペコだよ！お昼、どこかいいところあるかな？」

　結衣も笑いながら、「私もです！せっかくだから、この辺の名物が食べられたらいいな」と期待を込めた声を上げた。

　その言葉に、陽斗が少し考え込むようにしながらも口を開いた。「この辺なら、地元の特産品を使った料理とか有名だよ。どのお店も美味しいって評判なんだ」

　河西が目を輝かせながら、「え、そうなの？地元だとやっぱり詳しいんだね！」と嬉しそうに言うと、陽斗は少し照れた様子で、「うん…でも、有名なことくらいしか知らないけど」と控えめに答えた。

　平山がすかさずフォローする。「それでも十分だよ！地元の人が言うなら間違いないって！」

　結衣も陽斗に目を向け、「陽斗君がそう言うなら絶対美味しいはず！」と明るく声を弾ませた。

　そこへ生田先生が微笑みながら口を開く。「それなら、この近くに私のおすすめのお店があるよ。地元の素材を活かした料理が評判で、ちょっと隠れ家的な雰囲気のお店なんだ」

「隠れ家？それ、すごく気になる！」河西が声を上げると、平山も「いいですね！大人な感じ！」と笑顔を見せた。

　結衣も目を輝かせ、「どんなお店なんだろう？早く行ってみたいです！」とワクワクを隠せない様子だ。

　陽斗は少しだけ口元を緩めながら、「そこなら間違いないかもね」と控えめに同意した。その姿を見て、結衣はほっとしたように微笑む。

「よし、それじゃあみんなでそこに行ってみようか！」生田先生が声をかけ、一行は賑やかな笑い声とともに歩き出した。

　観光地を歩いてきた道にはまだ雪が残り、朝の光に照らされてキラキラと輝いている。結衣はその景色を見渡しながら、「こんな素敵な場所で美味しいものが食べられるなんて、本当に贅沢ですね」と心からの感想を漏らした。

「ほんとだね！」平山が同意し、河西も「これだから観光はやめられない！」と笑顔で続けた。

　笑い声が響く中、陽斗がそっと結衣の横に並び、「きっと、すごく美味しいよ」と静かに言うと、結衣は思わず彼を見て微笑んだ。その様子に、河西が小声で平山に「陽斗君、ちょっと馴染んできたみたいだね」と囁き、平山も微笑みながら小さく頷いた。

　一行は期待と笑顔を胸に、おすすめの食事処へと足を進めていった。