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第32話:新たな楽しみ
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文庫愛好会のメンバーたちは、狭い部室に散らばったアイデアや草稿の山に囲まれ、静寂に包まれた空間で真剣な面持ちで作業に没頭していた。互いに言葉を交わすことは少なく、心の内に渦巻く思いを、淡々とした文字へと変えていく時間が静かに流れていた。外では冷たい風が吹き、木々がざわめく音が微かに耳に届く。
その時、久しぶりに顧問の生田先生が部室の扉を開いた。彼の微笑みは、重苦しい空気を和らげる温かな光のようだった。「おや?みんな何をしているのかな?」と、優しい声で問いかけた。
河西が顔を上げて、少し驚いた様子で言った。「先生、お久しぶりです!やっと来てくれたんですね。今、小説の共同制作をやってるんですよ!」
「小説?」生田先生がきょとんとした表情を浮かべ、部室を見回した。「それは意外だな。この部活って、みんなで静かに本を読んでるイメージだったけど、こんなふうに作業するのは初めて見たよ。いやー、すごい変化だね!」
すると河西が「先生、もしかして知らなかったんですか?文化祭の時だって私たち、小説を書いてたんですよ!」と声を上げる。
「えっ?文化祭の時にも?」生田先生は驚いた顔をして、「てっきり、文庫本のおすすめとかを書いてるんだと思ってたよ」と素直に答えた。
河西は思わず手を腰に当て、「ほらー!やっぱりそう思ってたんですね!先生、部活のこと全然見てくれてないんじゃないですか?」と少し怒ったように言う。
平山もそれに乗っかる。「そうそう!文化祭では、締め切りに追われてみんなバタバタだったのに、先生は全然顔を出してくれなくて、ちょっとがっかりしましたよ!」
「え、そうだったの?」生田先生は少し狼狽した様子で、「今まで通りの部誌の準備をしているんだと思ってたけど、小説を書いてるなんて全然気づかなかった。全く見当違いだったな。本当にごめん!」と頭を下げた。
河西はその様子にちょっと気を良くしながら、「ふふん、まあ気づいてくれたならいいですけど。これからはちゃんと顔出してくださいね!」と笑って言う。
「分かった分かった、ちゃんと来るよ!」生田先生は苦笑しつつも、「それにしても、君たちがこんなにクリエイティブなことをしてるなんて、正直驚いたよ」と目を丸くして感心していた。
結衣が控えめに手を挙げ、「先生、今もいろいろ悩みながら頑張ってるんです。なので、アドバイスとか、たまにいただけると嬉しいです」と微笑む。
「おお、もちろんだとも!」生田先生は胸を張り、「君たちの頑張りをサポートするのが私の役目だからね。それに、みんなの作品を読みたいし、きっとすごく面白いものができてるんだろうな」と言った。
平山が冗談めかして、「じゃあ先生も一緒に小説書きます?」と言うと、生田先生は慌てて手を振りながら、「それは君たちに任せるよ!でも応援は全力でするから!」と笑いながら答えた。
部室には笑い声が広がり、緊張していた空気が一気に柔らかくなった。
先生はさらに興味を持ち、「それにしても、どうして小説の共同制作を始めたんだい?何か特別な理由があるのかな?」と尋ねた。
その質問に、河西が先に反応した。「それは文化祭で私たちが小説を発表したことが、文芸部のプライドを傷つけたみたいで。結局、いろいろ揉めたんです。それで、遠藤さんが共同作業を提案してきたんですけど……」河西の口調には、どこか苛立ちが感じられた。
結衣も続けるように口を開いた。「共同作業をしようって話だったのに、実際には私たちを困らせる指示ばかりで。追加のタスクもどれも難しいものばかりで……もう正直、どうしたらいいのか分からなくて」声には、困惑と疲れがにじんでいた。
平山がため息をつきながら言った。「正直、共同制作って名ばかりで、完全に私たちの足を引っ張ろうとしてるよね」
部室に重い空気が漂い始めたその時、静かに作業をしていた島倉が顔を上げた。「遠藤さんがわざと嫌がらせをしているのは、僕も知っています。見て見ぬふりをするのはどうしてもできなくて……だから、こうして力になりたいと思ったんです」彼の声は静かだったが、その分強い意志が感じられた。
生田先生は目を細め、島倉をじっと見つめた。「君、文芸部の一年生だったよね?ここにいる理由を聞いてもいいかな?」
島倉は少し考え込むようにしてから答えた。「文化祭で文庫愛好会の皆さんが発表した小説を読んで、すごく感銘を受けたんです。それで、遠藤さんがやっていることが間違っていると感じたから、僕にできることで力になりたいと思ったんです。」言葉を紡ぐ彼の表情は真剣だった。
生田先生は感心したように頷きながら、「なるほど、それは立派な動機だね。でも、あまり無理をしないようにね」と優しい声で言った。
河西がその場を和らげるように笑いながら言った。「先生、島倉君はもう私たちの仲間だから。全力で頼らせてもらうつもりですよ!」
その言葉に、島倉も少し照れたように微笑み、「期待に応えられるように頑張ります」と力強く答えた。
生田先生はメンバーたちのやり取りをじっと見守りながら、少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべた。「みんな、頑張っているんだな……。正直、最近あまり部室に顔を出せていなかったから、少し後ろめたい気持ちがあったんだ。だから、これからはもっと君たちの活動をサポートしたいと思っているよ」
その言葉に、河西が軽く腕を組みながら「ようやく気づきました?」と軽口を叩いた。平山がクスクス笑いながら「でも、先生がサポートしてくれるなら嬉しいですね」とフォローする。
生田先生は肩をすくめて苦笑いしつつ、「それで思いついたんだけど、冬休みに合宿を企画するのはどうだろう?」と言った。
「合宿?」と河西が驚いた声を上げる。
「そう。実は、親戚が経営している温泉旅館があるんだ。最近、学生の勉強や活動を応援したいって言っていてね。そこで君たちのように頑張っている学生に特別に場所を提供してくれるらしいんだ。温泉もあるし、リフレッシュしながら創作に励むいい機会になると思うよ。費用もできるだけ負担が少なくなるように相談してみる」
部室が一瞬静まり返った後――
「温泉旅館!?」と河西が声を弾ませて身を乗り出した。「そんな所で合宿なんて最高じゃない!」
平山もすぐに続く。「違う環境で作業するのって絶対いいよね!すごくリフレッシュできそうだし、新しいアイデアも浮かぶ気がする!」
結衣も目を輝かせて、「温泉旅館なんて贅沢すぎますね!でも、みんなで行けたら絶対に楽しいです。ぜひやりたいです!」と嬉しそうに言った。
生田先生は彼女らの反応に満足そうに頷く。「それならすぐに親戚と話を進めてみるよ。場所や日程が決まったらすぐ知らせるから、それまで準備を進めておいてくれ」
「準備って、例えば何をすればいいんだろう?」と河西が首を傾げると、先生は笑いながら答えた。「合宿中に何をやるか計画を立てるといいね。創作だけじゃなく、自然の中を散策したり、夜に語り合う時間を作ったり。そういう気分転換も大事だよ」
「散策、いいですね!」と平山が提案。「自然の中を歩いたら絶対にいい刺激になりそう!」
「それに夜にみんなでお話しするのも楽しそう!」と結衣も笑顔で加わる。「温泉でリラックスした後なら、もっといろんな話ができそうです」
生田先生は、島倉が控えめに微笑んでいるのを見て、声をかけた。「そういえば、島倉君も一緒に来てくれるよね?君がいてくれると心強いんだけど。」
島倉は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに控えめに微笑みながら、「僕も……いいんですか?」と聞き返した。
「もちろん!」生田先生が力強く頷くと、結衣も笑顔で続けた。「島倉君がいてくれると、すごく助かるよ!」
他のメンバーたちも「そうだよ、せっかくなんだから一緒に行こう!」と口々に促し、部室の空気がさらに明るくなった。
島倉は少し照れくさそうに笑い、「じゃあ……ぜひ参加させてもらいます」と力強く答えた。
「よっしゃ!」河西が声を上げる。「温泉旅館で合宿なんて、絶対最高になるね!」
笑い声が部室に響き、文庫愛好会のメンバーたちは温泉旅館での合宿という新たな挑戦に胸を躍らせながら、次のステップへ進む準備を始めるのだった。
夕方、校門を出たところで、文庫愛好会のメンバーたちは道端に立ち止まり、これからの活動について話していた。
「合宿、楽しみだよね。でも……その前に片付けなきゃいけない課題がまだ山積みだよね」河西が眉をひそめながら呟く。
「ほんとそれ。遠藤さんにまた何か言われたらたまんないし」平山が腕を組みながらため息をついた。
その時、不意に後ろから声がかかった。
「遠藤の話か?」
振り返ると、文芸部の小林が立っていた。ポケットに手を入れたまま、落ち着いた様子で立っているその姿に、メンバーたちは一瞬戸惑う。
「……何か用ですか?」結衣が少し警戒しながら尋ねる。
小林は肩を軽くすくめ、「別に用ってほどのことじゃない。ただ、耳に入ったからね。遠藤が君たちに何かしてるのか?」と淡々と尋ねた。
その問いに、河西が口をへの字に曲げながら答える。「あなたには関係ないでしょ。文庫愛好会のことに首を突っ込まないでくれる?」
小林はその言葉を軽く受け流すように小さく息を吐いた。「そうだね、僕が何を言ったところで、君たちの状況が変わるわけじゃない。ただ……」一瞬だけ言葉を切る。「遠藤のやり方には、僕もいろいろ思うところがある」
結衣が眉をひそめながら聞き返す。「どういうことですか?」
「彼女は、自分のやり方にこだわりすぎるきらいがある。巻き込む相手が困るのなんて、彼女にとっては二の次だ。……そういう話」
淡々とした口調ではあったが、その言葉の裏に何か意図があるようにも聞こえた。小林の視線が一瞬だけ島倉に向けられる。しかし、言葉に出すことはなく、再び結衣たちに視線を戻した。
「君たちには関係ない話かもしれないけど……少しは自分たちを守ることも考えた方がいいよ。遠藤の思うがままにならないようにね」
河西が少しむっとしながら、「何それ。助け舟を出すつもりなら、もっと素直に言ったら?」と軽く反発する。
小林は表情を変えずに、「助け舟を出してるつもりはない。ただの忠告だ」とだけ言うと、また一瞬だけ島倉をちらりと見た。その視線を受けた島倉は、一瞬顔をこわばらせるが、すぐに視線をそらして口を閉じた。
「……余計なことだったね。それじゃ、僕はこれで」と、小林はあっさり背を向けて歩き出す。
「何なのよ、あの態度」河西が不満げに呟く。「心配してるのか、それとも嫌味を言いたいのか、全然分からないじゃない」
平山も苦笑しながら、「でも、言ってること自体は妙に納得しちゃう部分があるのが腹立つ」と付け加える。
結衣は小林の言葉を反芻しながら、どこか引っかかるものを感じていた。しかし、それが何なのかを言葉にすることはできなかった。
その場の空気がやや険しくなる中、島倉は一歩引いた位置で無言を貫いていた。手はポケットに入ったまま、軽く握られている。
「とにかく、気をつけた方がいいのは確かだね」と河西が結論を出すように言い、全員は歩き始めた。
島倉は少し遅れて歩き出し、その表情には微かに悩むような影が浮かんでいた。
その時、久しぶりに顧問の生田先生が部室の扉を開いた。彼の微笑みは、重苦しい空気を和らげる温かな光のようだった。「おや?みんな何をしているのかな?」と、優しい声で問いかけた。
河西が顔を上げて、少し驚いた様子で言った。「先生、お久しぶりです!やっと来てくれたんですね。今、小説の共同制作をやってるんですよ!」
「小説?」生田先生がきょとんとした表情を浮かべ、部室を見回した。「それは意外だな。この部活って、みんなで静かに本を読んでるイメージだったけど、こんなふうに作業するのは初めて見たよ。いやー、すごい変化だね!」
すると河西が「先生、もしかして知らなかったんですか?文化祭の時だって私たち、小説を書いてたんですよ!」と声を上げる。
「えっ?文化祭の時にも?」生田先生は驚いた顔をして、「てっきり、文庫本のおすすめとかを書いてるんだと思ってたよ」と素直に答えた。
河西は思わず手を腰に当て、「ほらー!やっぱりそう思ってたんですね!先生、部活のこと全然見てくれてないんじゃないですか?」と少し怒ったように言う。
平山もそれに乗っかる。「そうそう!文化祭では、締め切りに追われてみんなバタバタだったのに、先生は全然顔を出してくれなくて、ちょっとがっかりしましたよ!」
「え、そうだったの?」生田先生は少し狼狽した様子で、「今まで通りの部誌の準備をしているんだと思ってたけど、小説を書いてるなんて全然気づかなかった。全く見当違いだったな。本当にごめん!」と頭を下げた。
河西はその様子にちょっと気を良くしながら、「ふふん、まあ気づいてくれたならいいですけど。これからはちゃんと顔出してくださいね!」と笑って言う。
「分かった分かった、ちゃんと来るよ!」生田先生は苦笑しつつも、「それにしても、君たちがこんなにクリエイティブなことをしてるなんて、正直驚いたよ」と目を丸くして感心していた。
結衣が控えめに手を挙げ、「先生、今もいろいろ悩みながら頑張ってるんです。なので、アドバイスとか、たまにいただけると嬉しいです」と微笑む。
「おお、もちろんだとも!」生田先生は胸を張り、「君たちの頑張りをサポートするのが私の役目だからね。それに、みんなの作品を読みたいし、きっとすごく面白いものができてるんだろうな」と言った。
平山が冗談めかして、「じゃあ先生も一緒に小説書きます?」と言うと、生田先生は慌てて手を振りながら、「それは君たちに任せるよ!でも応援は全力でするから!」と笑いながら答えた。
部室には笑い声が広がり、緊張していた空気が一気に柔らかくなった。
先生はさらに興味を持ち、「それにしても、どうして小説の共同制作を始めたんだい?何か特別な理由があるのかな?」と尋ねた。
その質問に、河西が先に反応した。「それは文化祭で私たちが小説を発表したことが、文芸部のプライドを傷つけたみたいで。結局、いろいろ揉めたんです。それで、遠藤さんが共同作業を提案してきたんですけど……」河西の口調には、どこか苛立ちが感じられた。
結衣も続けるように口を開いた。「共同作業をしようって話だったのに、実際には私たちを困らせる指示ばかりで。追加のタスクもどれも難しいものばかりで……もう正直、どうしたらいいのか分からなくて」声には、困惑と疲れがにじんでいた。
平山がため息をつきながら言った。「正直、共同制作って名ばかりで、完全に私たちの足を引っ張ろうとしてるよね」
部室に重い空気が漂い始めたその時、静かに作業をしていた島倉が顔を上げた。「遠藤さんがわざと嫌がらせをしているのは、僕も知っています。見て見ぬふりをするのはどうしてもできなくて……だから、こうして力になりたいと思ったんです」彼の声は静かだったが、その分強い意志が感じられた。
生田先生は目を細め、島倉をじっと見つめた。「君、文芸部の一年生だったよね?ここにいる理由を聞いてもいいかな?」
島倉は少し考え込むようにしてから答えた。「文化祭で文庫愛好会の皆さんが発表した小説を読んで、すごく感銘を受けたんです。それで、遠藤さんがやっていることが間違っていると感じたから、僕にできることで力になりたいと思ったんです。」言葉を紡ぐ彼の表情は真剣だった。
生田先生は感心したように頷きながら、「なるほど、それは立派な動機だね。でも、あまり無理をしないようにね」と優しい声で言った。
河西がその場を和らげるように笑いながら言った。「先生、島倉君はもう私たちの仲間だから。全力で頼らせてもらうつもりですよ!」
その言葉に、島倉も少し照れたように微笑み、「期待に応えられるように頑張ります」と力強く答えた。
生田先生はメンバーたちのやり取りをじっと見守りながら、少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべた。「みんな、頑張っているんだな……。正直、最近あまり部室に顔を出せていなかったから、少し後ろめたい気持ちがあったんだ。だから、これからはもっと君たちの活動をサポートしたいと思っているよ」
その言葉に、河西が軽く腕を組みながら「ようやく気づきました?」と軽口を叩いた。平山がクスクス笑いながら「でも、先生がサポートしてくれるなら嬉しいですね」とフォローする。
生田先生は肩をすくめて苦笑いしつつ、「それで思いついたんだけど、冬休みに合宿を企画するのはどうだろう?」と言った。
「合宿?」と河西が驚いた声を上げる。
「そう。実は、親戚が経営している温泉旅館があるんだ。最近、学生の勉強や活動を応援したいって言っていてね。そこで君たちのように頑張っている学生に特別に場所を提供してくれるらしいんだ。温泉もあるし、リフレッシュしながら創作に励むいい機会になると思うよ。費用もできるだけ負担が少なくなるように相談してみる」
部室が一瞬静まり返った後――
「温泉旅館!?」と河西が声を弾ませて身を乗り出した。「そんな所で合宿なんて最高じゃない!」
平山もすぐに続く。「違う環境で作業するのって絶対いいよね!すごくリフレッシュできそうだし、新しいアイデアも浮かぶ気がする!」
結衣も目を輝かせて、「温泉旅館なんて贅沢すぎますね!でも、みんなで行けたら絶対に楽しいです。ぜひやりたいです!」と嬉しそうに言った。
生田先生は彼女らの反応に満足そうに頷く。「それならすぐに親戚と話を進めてみるよ。場所や日程が決まったらすぐ知らせるから、それまで準備を進めておいてくれ」
「準備って、例えば何をすればいいんだろう?」と河西が首を傾げると、先生は笑いながら答えた。「合宿中に何をやるか計画を立てるといいね。創作だけじゃなく、自然の中を散策したり、夜に語り合う時間を作ったり。そういう気分転換も大事だよ」
「散策、いいですね!」と平山が提案。「自然の中を歩いたら絶対にいい刺激になりそう!」
「それに夜にみんなでお話しするのも楽しそう!」と結衣も笑顔で加わる。「温泉でリラックスした後なら、もっといろんな話ができそうです」
生田先生は、島倉が控えめに微笑んでいるのを見て、声をかけた。「そういえば、島倉君も一緒に来てくれるよね?君がいてくれると心強いんだけど。」
島倉は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに控えめに微笑みながら、「僕も……いいんですか?」と聞き返した。
「もちろん!」生田先生が力強く頷くと、結衣も笑顔で続けた。「島倉君がいてくれると、すごく助かるよ!」
他のメンバーたちも「そうだよ、せっかくなんだから一緒に行こう!」と口々に促し、部室の空気がさらに明るくなった。
島倉は少し照れくさそうに笑い、「じゃあ……ぜひ参加させてもらいます」と力強く答えた。
「よっしゃ!」河西が声を上げる。「温泉旅館で合宿なんて、絶対最高になるね!」
笑い声が部室に響き、文庫愛好会のメンバーたちは温泉旅館での合宿という新たな挑戦に胸を躍らせながら、次のステップへ進む準備を始めるのだった。
夕方、校門を出たところで、文庫愛好会のメンバーたちは道端に立ち止まり、これからの活動について話していた。
「合宿、楽しみだよね。でも……その前に片付けなきゃいけない課題がまだ山積みだよね」河西が眉をひそめながら呟く。
「ほんとそれ。遠藤さんにまた何か言われたらたまんないし」平山が腕を組みながらため息をついた。
その時、不意に後ろから声がかかった。
「遠藤の話か?」
振り返ると、文芸部の小林が立っていた。ポケットに手を入れたまま、落ち着いた様子で立っているその姿に、メンバーたちは一瞬戸惑う。
「……何か用ですか?」結衣が少し警戒しながら尋ねる。
小林は肩を軽くすくめ、「別に用ってほどのことじゃない。ただ、耳に入ったからね。遠藤が君たちに何かしてるのか?」と淡々と尋ねた。
その問いに、河西が口をへの字に曲げながら答える。「あなたには関係ないでしょ。文庫愛好会のことに首を突っ込まないでくれる?」
小林はその言葉を軽く受け流すように小さく息を吐いた。「そうだね、僕が何を言ったところで、君たちの状況が変わるわけじゃない。ただ……」一瞬だけ言葉を切る。「遠藤のやり方には、僕もいろいろ思うところがある」
結衣が眉をひそめながら聞き返す。「どういうことですか?」
「彼女は、自分のやり方にこだわりすぎるきらいがある。巻き込む相手が困るのなんて、彼女にとっては二の次だ。……そういう話」
淡々とした口調ではあったが、その言葉の裏に何か意図があるようにも聞こえた。小林の視線が一瞬だけ島倉に向けられる。しかし、言葉に出すことはなく、再び結衣たちに視線を戻した。
「君たちには関係ない話かもしれないけど……少しは自分たちを守ることも考えた方がいいよ。遠藤の思うがままにならないようにね」
河西が少しむっとしながら、「何それ。助け舟を出すつもりなら、もっと素直に言ったら?」と軽く反発する。
小林は表情を変えずに、「助け舟を出してるつもりはない。ただの忠告だ」とだけ言うと、また一瞬だけ島倉をちらりと見た。その視線を受けた島倉は、一瞬顔をこわばらせるが、すぐに視線をそらして口を閉じた。
「……余計なことだったね。それじゃ、僕はこれで」と、小林はあっさり背を向けて歩き出す。
「何なのよ、あの態度」河西が不満げに呟く。「心配してるのか、それとも嫌味を言いたいのか、全然分からないじゃない」
平山も苦笑しながら、「でも、言ってること自体は妙に納得しちゃう部分があるのが腹立つ」と付け加える。
結衣は小林の言葉を反芻しながら、どこか引っかかるものを感じていた。しかし、それが何なのかを言葉にすることはできなかった。
その場の空気がやや険しくなる中、島倉は一歩引いた位置で無言を貫いていた。手はポケットに入ったまま、軽く握られている。
「とにかく、気をつけた方がいいのは確かだね」と河西が結論を出すように言い、全員は歩き始めた。
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