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第31話:策略の影
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結衣が部室に入ると、メンバーたちがそれぞれの作業に真剣に取り組んでいる姿が目に飛び込んできた。資料を広げて意見を出し合う平山、キャラクターのセリフを考え込む河西――みんなが一生懸命に役割を果たしている。その光景は、結衣にとっていつもと変わらず温かいはずだった。
しかし、前日に耳にした遠藤の冷たい言葉が、結衣の胸を締めつける。
「やっぱり、文庫愛好会なんてその程度の集まりだよね。少しタスクを増やしておけば、すぐにテンパって空回りしてるし。最後には全部こっちの手柄になるんだから、ほんと、扱いやすい」
あの言葉を思い出すたびに、目の前で努力を重ねる仲間たちの姿が胸に刺さる。みんながこれほど真剣に頑張っているのに、遠藤はその頑張りを台無しにしようとしている。それが悔しくてたまらなかった。
「絶対に、この頑張りを無駄にさせるものか」結衣はそっと唇をかみしめ、心の中で強く誓った。
「皆さんにお話があります」
結衣は覚悟を決めて声を上げた。その声にはわずかな緊張が滲んでいたが、結衣の心には、どうしても伝えなければならないという強い思いが宿っていた。
メンバーたちが顔を上げ、一斉に結衣を見つめる。部室には静かな緊張感が漂った。
「実は、遠藤さんが私たちのことをどう思っているのかを聞いてしまったんです」結衣の言葉が部室中に響く。
その一言で、メンバーたちの表情が凍りついた。驚きと戸惑いが入り混じり、部室全体の空気が一変する。
「遠藤さんは、私たち文庫愛好会をバカにしていて……私たちの努力を無駄にしようとしているんです」結衣は息を吸い込み、続けた。「『文庫愛好会を追い詰めて、予定通りに終わらないようにしてやる』って、そんなことを言っていました。それで、自分たち文芸部が上だと証明したいんだって……」
メンバーたちの間に、動揺が広がる。「本当にそんなことを言ってたの?」河西が信じられないというように声を上げる。
結衣は力強く頷いた。「信じたくなかった。でも、実際に聞いてしまったんです。あの言葉は……あまりにもひどい」
沈黙が部室を包み込む。メンバーたちはお互いに目を見合わせ、言葉を失っている。
「許せない!」河西は拳を握りしめて叫んだ。「こんなことされたら、もうボイコットでもするしかないんじゃない?」
結衣はハッとしながら、「でも、それだとプロジェクトそのものがなくなってしまう……私たちの努力を無駄にしたくないです」と答える。
河西は眉をひそめたまま、ため息をついた。「じゃあ、どうするの?」
再び沈黙が訪れる中、平山が口を開いた。「確かに遠藤さんのやり方は腹が立つ。でも、指示そのものは間違ってないよね。ただ、専門用語でややこしくしてるのは確かだけど……」
結衣はその言葉に反発しかけたが、平山の冷静な分析が妙に的を射ている気がして、言葉を飲み込んだ。
河西がふと顔を上げ、強い口調で言った。「ここまで頑張ってきたのに、無駄にするなんて絶対にいやだよ。もっと力を合わせて、最高の作品を作り上げよう」
その言葉に、他のメンバーたちも顔を上げ、次々に頷く。「そうだね、ここで諦めたら、それこそ遠藤さんの思うつぼだし……」平山が微笑みながら答える。
結衣は、みんなの言葉を聞きながら、胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。「私も……絶対に負けません。一緒に頑張りましょう!」
メンバーたちは力強く頷き合い、再び心を一つにして前を向いた。
部室が一致団結した雰囲気に包まれ始めたその時、不意に扉がノックされる音が響いた。
扉を開けると、立っていたのは文芸部の一年生と思われる男子生徒だった。見覚えはあるものの、突然の訪問にメンバーたちは驚きの表情を浮かべた。普段はあまり話す機会のない相手だったが、その真剣な表情が印象的だった。
「突然すみません。少しだけお時間をいただけますか?」
男子生徒は緊張した面持ちでそう切り出した。河西は少し戸惑いながら、無言で平山と結衣に視線を送る。その問いかけに気づいた二人が微かに頷くと、河西は「…どうぞ、中に入って」と静かに促した。その声には微かな不安が滲んでいた。
男子生徒は部室に入り、緊張を解くように一度深呼吸をした。そして、静かだがはっきりとした声で言った。「僕、文芸部の一年生の島倉といいます。突然で申し訳ないんですが……どうしてもみなさんを手伝わせてほしいんです」
その言葉に、メンバーたちは一斉に驚きの表情を浮かべた。「手伝うって、どういうこと?」河西が眉をひそめて尋ねる。
島倉は視線を部屋の中に巡らせた後、真剣な眼差しで言葉を続けた。「文庫愛好会の皆さんが、すごく忙しそうに頑張っているのを見て、少しでも力になれたらと思ったんです。僕にできることがあれば、ぜひ協力させてください」
島倉の申し出に、結衣は戸惑いながらも一歩前に出た。「私たちのことを気にかけてくれてるみたいですが……どうして?」
その質問に、島倉は少し躊躇したように視線を伏せた。しかし、意を決したように顔を上げ、真剣な声で答えた。「僕、文芸部にいて、遠藤さんのやり方を見てきました。正直、やり方が厳しいというか……周りを追い詰めることが多いんです。だから、文庫愛好会の皆さんもきっと苦しんでいるんじゃないかと思って」
部室の空気が再び張り詰めた。結衣はその言葉を聞いて一瞬考え込んだ。島倉の言葉は遠藤の発言と一致しており、疑いようがなかった。
「それで……」島倉は少し声を落としながら言葉を継いだ。「遠藤さんが追加のタスクを押し付けているのも、皆さんを困らせるためなんじゃないかって思ったんです。でも、僕にはどうすることもできなくて……それでも、ここで皆さんがどれだけ頑張っているのかを見て、何か力になれればと……」
その話し方にはどこかぎこちなさがあり、結衣の心に小さな引っかかりを生んだ。「……遠藤さんのこと、よく知ってるんですね?」結衣が思わず口にすると、島倉は微かに目を伏せた。
「まぁ……そうですね。先輩としての影響力も大きいですし、やっぱりいろいろ見えてしまうこともあるので」島倉は視線を一瞬だけ宙に泳がせた後、結衣たちに視線を戻した。その動作にはどこかためらいが感じられたが、続く言葉は真剣だった。
河西が腕を組みながらじっと島倉を見つめた。「それで、わざわざ教えに来てくれたわけね。でも、文芸部の中にいる君がそんなことして大丈夫なの?」
「正直、少し怖いです。でも、自分が見て見ぬふりをしたら、それこそ遠藤さんの思うつぼになると思って……」島倉は一瞬だけ言葉を切り、何かを考え込むような表情を浮かべた。
「だから、勇気を出してきました」
平山が驚いたように息を吐き、「そんなことを……」と呟いた。その言葉には感謝と驚きが入り混じっていた。
結衣は島倉の真剣な眼差しを見つめながら、静かに言葉を返した。「わざわざ教えに来てくれて、ありがとうございます。私たちも遠藤さんのことは気にしていました。でも、こうして直接教えてもらえて、すごく助かります」
島倉は結衣に向かって深々と頭を下げた。「いえ、僕の方こそ、こんな形でしか力になれなくて……。でも、僕にできることがあれば、遠慮なく言ってください」
結衣は改めて島倉に感謝しつつ、メンバーたちに向き直った。「遠藤さんの思惑には絶対に負けたくありません。私たちのやり方で、最高の結果を出しましょう!」
島倉が協力を申し出たことで、部室には新たな空気が流れ込んだ。しかし、文庫愛好会のメンバーたちが抱える問題は山積みで、誰もが「まずどこから頼もうか」と考えていた。
河西が腕を組みながら島倉に向き直る。「正直、今一番困ってるのは、専門用語なんだよね。遠藤さんが出してきた課題にいっぱい出てくるけど、意味が全然分からないのが多くてさ……」
結衣も頷きながら続けた。「それを元に設定を作り直さなきゃいけないんですけど、どれも難しくて」
その言葉を受け、島倉が少し躊躇しながら視線を結衣に向けた。「あの……ちょっとお願いがあるんだけど」
「えっ?何ですか?」結衣が不思議そうに首をかしげる。
島倉は少し照れたように笑いながら頬を掻いた。「敬語やめてくれないかな?一緒に作業するなら、もっと気軽に話してくれた方がいいからさ」
結衣は一瞬驚いたが、すぐに微笑みを浮かべた。「あ、それなら全然いいよ!じゃあ、私も気にせず話すね」
島倉も笑みを返し、「ありがとう。その方がずっと話しやすい」と言った。そのやり取りを見ていた河西が「何そのお願い?まあ、楽なのはいいけど」と肩をすくめ、部室の空気が少しだけ和んだ。
島倉が座ると、河西が手元の資料を彼の前に置いた。「これがそのリストなんだけど、私たちも何とか頑張ってみたんだけどね、全然意味が分からない用語が多すぎてさ」
島倉はリストに目を通し、少し考え込んだ。「うん、確かにこれ、文芸部でもちょっと特殊なテーマを扱ってる感じがしますね。でも、僕が知ってる範囲で説明しますよ。それで足りないところは、一緒に解決方法を考えましょう」
平山がすかさず、「本当?じゃあ、この『感情の視覚化プロセス』って何か分かる?」と指を差した。
島倉はしばらく資料を眺めた後、「ああ、これはキャラクターの内面を視覚的に表現するテクニックです。例えば色や形で感情を表すとか。文芸部で使っている手法の一つですね。ただ、具体例を考えるのは少し厄介です」
河西が深いため息をつきながら言った。「なるほどね。やっぱり、私たちだけじゃなくて、文芸部でも厄介なのか」
島倉は苦笑しながら頷いた。「そうなんですよ。でも、僕が使える範囲でこのリストをもっと分かりやすくするよう工夫してみます。それを整理すれば、作業が少しは進みやすくなると思います」
結衣はその言葉に感激し、「ありがとう、島倉君。すごく助かるよ!」と目を輝かせた。
「いや、君たちの頑張りがすごいからさ。僕も全力で手伝うよ」
平山が笑顔を見せ、「なら、ぜひお願いするよ!みんなで力を合わせれば、きっといい作品ができる」と言った。
こうして島倉を中心に、メンバーたちは専門用語リストの解読に取り掛かり、作業の効率が少しずつ上がっていった。これまで停滞していた部分が、島倉の助言を受けて一つ一つ解決されていく。その過程で、文庫愛好会のメンバーたちと島倉の距離が徐々に縮まり、互いに協力し合う体制が整っていくのだった。
しかし、前日に耳にした遠藤の冷たい言葉が、結衣の胸を締めつける。
「やっぱり、文庫愛好会なんてその程度の集まりだよね。少しタスクを増やしておけば、すぐにテンパって空回りしてるし。最後には全部こっちの手柄になるんだから、ほんと、扱いやすい」
あの言葉を思い出すたびに、目の前で努力を重ねる仲間たちの姿が胸に刺さる。みんながこれほど真剣に頑張っているのに、遠藤はその頑張りを台無しにしようとしている。それが悔しくてたまらなかった。
「絶対に、この頑張りを無駄にさせるものか」結衣はそっと唇をかみしめ、心の中で強く誓った。
「皆さんにお話があります」
結衣は覚悟を決めて声を上げた。その声にはわずかな緊張が滲んでいたが、結衣の心には、どうしても伝えなければならないという強い思いが宿っていた。
メンバーたちが顔を上げ、一斉に結衣を見つめる。部室には静かな緊張感が漂った。
「実は、遠藤さんが私たちのことをどう思っているのかを聞いてしまったんです」結衣の言葉が部室中に響く。
その一言で、メンバーたちの表情が凍りついた。驚きと戸惑いが入り混じり、部室全体の空気が一変する。
「遠藤さんは、私たち文庫愛好会をバカにしていて……私たちの努力を無駄にしようとしているんです」結衣は息を吸い込み、続けた。「『文庫愛好会を追い詰めて、予定通りに終わらないようにしてやる』って、そんなことを言っていました。それで、自分たち文芸部が上だと証明したいんだって……」
メンバーたちの間に、動揺が広がる。「本当にそんなことを言ってたの?」河西が信じられないというように声を上げる。
結衣は力強く頷いた。「信じたくなかった。でも、実際に聞いてしまったんです。あの言葉は……あまりにもひどい」
沈黙が部室を包み込む。メンバーたちはお互いに目を見合わせ、言葉を失っている。
「許せない!」河西は拳を握りしめて叫んだ。「こんなことされたら、もうボイコットでもするしかないんじゃない?」
結衣はハッとしながら、「でも、それだとプロジェクトそのものがなくなってしまう……私たちの努力を無駄にしたくないです」と答える。
河西は眉をひそめたまま、ため息をついた。「じゃあ、どうするの?」
再び沈黙が訪れる中、平山が口を開いた。「確かに遠藤さんのやり方は腹が立つ。でも、指示そのものは間違ってないよね。ただ、専門用語でややこしくしてるのは確かだけど……」
結衣はその言葉に反発しかけたが、平山の冷静な分析が妙に的を射ている気がして、言葉を飲み込んだ。
河西がふと顔を上げ、強い口調で言った。「ここまで頑張ってきたのに、無駄にするなんて絶対にいやだよ。もっと力を合わせて、最高の作品を作り上げよう」
その言葉に、他のメンバーたちも顔を上げ、次々に頷く。「そうだね、ここで諦めたら、それこそ遠藤さんの思うつぼだし……」平山が微笑みながら答える。
結衣は、みんなの言葉を聞きながら、胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。「私も……絶対に負けません。一緒に頑張りましょう!」
メンバーたちは力強く頷き合い、再び心を一つにして前を向いた。
部室が一致団結した雰囲気に包まれ始めたその時、不意に扉がノックされる音が響いた。
扉を開けると、立っていたのは文芸部の一年生と思われる男子生徒だった。見覚えはあるものの、突然の訪問にメンバーたちは驚きの表情を浮かべた。普段はあまり話す機会のない相手だったが、その真剣な表情が印象的だった。
「突然すみません。少しだけお時間をいただけますか?」
男子生徒は緊張した面持ちでそう切り出した。河西は少し戸惑いながら、無言で平山と結衣に視線を送る。その問いかけに気づいた二人が微かに頷くと、河西は「…どうぞ、中に入って」と静かに促した。その声には微かな不安が滲んでいた。
男子生徒は部室に入り、緊張を解くように一度深呼吸をした。そして、静かだがはっきりとした声で言った。「僕、文芸部の一年生の島倉といいます。突然で申し訳ないんですが……どうしてもみなさんを手伝わせてほしいんです」
その言葉に、メンバーたちは一斉に驚きの表情を浮かべた。「手伝うって、どういうこと?」河西が眉をひそめて尋ねる。
島倉は視線を部屋の中に巡らせた後、真剣な眼差しで言葉を続けた。「文庫愛好会の皆さんが、すごく忙しそうに頑張っているのを見て、少しでも力になれたらと思ったんです。僕にできることがあれば、ぜひ協力させてください」
島倉の申し出に、結衣は戸惑いながらも一歩前に出た。「私たちのことを気にかけてくれてるみたいですが……どうして?」
その質問に、島倉は少し躊躇したように視線を伏せた。しかし、意を決したように顔を上げ、真剣な声で答えた。「僕、文芸部にいて、遠藤さんのやり方を見てきました。正直、やり方が厳しいというか……周りを追い詰めることが多いんです。だから、文庫愛好会の皆さんもきっと苦しんでいるんじゃないかと思って」
部室の空気が再び張り詰めた。結衣はその言葉を聞いて一瞬考え込んだ。島倉の言葉は遠藤の発言と一致しており、疑いようがなかった。
「それで……」島倉は少し声を落としながら言葉を継いだ。「遠藤さんが追加のタスクを押し付けているのも、皆さんを困らせるためなんじゃないかって思ったんです。でも、僕にはどうすることもできなくて……それでも、ここで皆さんがどれだけ頑張っているのかを見て、何か力になれればと……」
その話し方にはどこかぎこちなさがあり、結衣の心に小さな引っかかりを生んだ。「……遠藤さんのこと、よく知ってるんですね?」結衣が思わず口にすると、島倉は微かに目を伏せた。
「まぁ……そうですね。先輩としての影響力も大きいですし、やっぱりいろいろ見えてしまうこともあるので」島倉は視線を一瞬だけ宙に泳がせた後、結衣たちに視線を戻した。その動作にはどこかためらいが感じられたが、続く言葉は真剣だった。
河西が腕を組みながらじっと島倉を見つめた。「それで、わざわざ教えに来てくれたわけね。でも、文芸部の中にいる君がそんなことして大丈夫なの?」
「正直、少し怖いです。でも、自分が見て見ぬふりをしたら、それこそ遠藤さんの思うつぼになると思って……」島倉は一瞬だけ言葉を切り、何かを考え込むような表情を浮かべた。
「だから、勇気を出してきました」
平山が驚いたように息を吐き、「そんなことを……」と呟いた。その言葉には感謝と驚きが入り混じっていた。
結衣は島倉の真剣な眼差しを見つめながら、静かに言葉を返した。「わざわざ教えに来てくれて、ありがとうございます。私たちも遠藤さんのことは気にしていました。でも、こうして直接教えてもらえて、すごく助かります」
島倉は結衣に向かって深々と頭を下げた。「いえ、僕の方こそ、こんな形でしか力になれなくて……。でも、僕にできることがあれば、遠慮なく言ってください」
結衣は改めて島倉に感謝しつつ、メンバーたちに向き直った。「遠藤さんの思惑には絶対に負けたくありません。私たちのやり方で、最高の結果を出しましょう!」
島倉が協力を申し出たことで、部室には新たな空気が流れ込んだ。しかし、文庫愛好会のメンバーたちが抱える問題は山積みで、誰もが「まずどこから頼もうか」と考えていた。
河西が腕を組みながら島倉に向き直る。「正直、今一番困ってるのは、専門用語なんだよね。遠藤さんが出してきた課題にいっぱい出てくるけど、意味が全然分からないのが多くてさ……」
結衣も頷きながら続けた。「それを元に設定を作り直さなきゃいけないんですけど、どれも難しくて」
その言葉を受け、島倉が少し躊躇しながら視線を結衣に向けた。「あの……ちょっとお願いがあるんだけど」
「えっ?何ですか?」結衣が不思議そうに首をかしげる。
島倉は少し照れたように笑いながら頬を掻いた。「敬語やめてくれないかな?一緒に作業するなら、もっと気軽に話してくれた方がいいからさ」
結衣は一瞬驚いたが、すぐに微笑みを浮かべた。「あ、それなら全然いいよ!じゃあ、私も気にせず話すね」
島倉も笑みを返し、「ありがとう。その方がずっと話しやすい」と言った。そのやり取りを見ていた河西が「何そのお願い?まあ、楽なのはいいけど」と肩をすくめ、部室の空気が少しだけ和んだ。
島倉が座ると、河西が手元の資料を彼の前に置いた。「これがそのリストなんだけど、私たちも何とか頑張ってみたんだけどね、全然意味が分からない用語が多すぎてさ」
島倉はリストに目を通し、少し考え込んだ。「うん、確かにこれ、文芸部でもちょっと特殊なテーマを扱ってる感じがしますね。でも、僕が知ってる範囲で説明しますよ。それで足りないところは、一緒に解決方法を考えましょう」
平山がすかさず、「本当?じゃあ、この『感情の視覚化プロセス』って何か分かる?」と指を差した。
島倉はしばらく資料を眺めた後、「ああ、これはキャラクターの内面を視覚的に表現するテクニックです。例えば色や形で感情を表すとか。文芸部で使っている手法の一つですね。ただ、具体例を考えるのは少し厄介です」
河西が深いため息をつきながら言った。「なるほどね。やっぱり、私たちだけじゃなくて、文芸部でも厄介なのか」
島倉は苦笑しながら頷いた。「そうなんですよ。でも、僕が使える範囲でこのリストをもっと分かりやすくするよう工夫してみます。それを整理すれば、作業が少しは進みやすくなると思います」
結衣はその言葉に感激し、「ありがとう、島倉君。すごく助かるよ!」と目を輝かせた。
「いや、君たちの頑張りがすごいからさ。僕も全力で手伝うよ」
平山が笑顔を見せ、「なら、ぜひお願いするよ!みんなで力を合わせれば、きっといい作品ができる」と言った。
こうして島倉を中心に、メンバーたちは専門用語リストの解読に取り掛かり、作業の効率が少しずつ上がっていった。これまで停滞していた部分が、島倉の助言を受けて一つ一つ解決されていく。その過程で、文庫愛好会のメンバーたちと島倉の距離が徐々に縮まり、互いに協力し合う体制が整っていくのだった。
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