忘れられた手紙

空道さくら

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第2話:手紙が導くもの

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 図書室で偶然見つけた古い手紙を手にしていた。内容に心を打たれ、その言葉が頭から離れない。書き手が抱えていた不安に共感を覚え、その存在が自分にとって重要な意味を持つことを実感していた。



 梅雨のしとしとと降る雨音が、図書室の静けさを一層引き立てていた。手紙を文庫本の隙間に戻そうと手を伸ばしたが、どうしてもその手を離せなかった。指先が手紙から離れようとするたび、心のどこかで引っかかる感覚があり、まるでそれが何かを訴えかけているかのように、手が動かなくなってしまう。

 深いため息をつきながら、もう一度手紙を棚に戻そうと試みる。しかし、今度はさらに強い感情が胸に迫り、手を離すことができない。その場に立ち尽くし、手紙をじっと見つめた。心の奥底では、この手紙を手放すべきではないという声が響き続けていた。

 結局、手紙を文庫本の隙間に戻すことを諦め、慎重に鞄の中にしまい込んだ。心の中で「これは大切なものだ」とつぶやいた。その一連の動作の中で、心の奥に小さな灯火がともり始めたかのように感じた。

 鞄の中の手紙を感じながら図書室を後にした。その日は手紙の内容が心に深く残り続け、教室へ向かう道すがら、頭の中でその言葉を何度も繰り返していた。まるで、その言葉が心を温め、静かに響き続けているかのようだった。



 教室に戻っても、頭の中はあの言葉たちでいっぱいだった。夢を追いかけることへの不安や、誰にも言えない本音――心の中に眠る、同じような感情が呼び起こされたように感じる。「この手紙を書いたのは、どんな人なんだろう?」と何度もその問いを繰り返した。

 夕暮れの放課後、人気のない廊下を歩きながら、窓の外から冷たい風が入り込むのを感じた。その瞬間、思わず鞄の中の手紙に手を伸ばした。手紙の存在を確かめることで、不思議と心が落ち着いた。まるで宝物を見つけたときのような感覚が胸に広がる。見つけたばかりの手紙が、冷たい風の中でほんのりと温かさをもたらしてくれる。触れることで、自分が一人ではないと感じ、不安な気持ちが少し和らいだ。

 普段から本を読んで現実から逃げることが多かった。しかし、この手紙はそれとは異なり、その内容が現実と向き合う勇気を与えてくれた。「自分と同じように、夢や進路に悩んでいた誰か。それが何年も前の人だとしても、今の自分にとっての手がかりになる気がする」と感じながらふと立ち止まり、窓の外を見つめた。手紙が導く道のりは、まだ始まったばかりだ。それでもその先に答えがあると信じていた。



 その夜、ベッドに横たわりながら手紙の内容を思い出していた。一字一句を振り返り、感情が揺れ動く。眠れぬ夜の静寂の中で、書き手に思いを馳せていた。

 読み進めるうちに、みんなも同じように悩んでいるのだと気づいた。「みんなも不安なんだ」と安心感を覚えた。手紙の内容が心と重なることで孤独感が和らぎ、長い間くすぶっていた重い雲が少しずつ晴れていく感覚があった。

 メッセージが大きな意味を持つことを理解した瞬間、気持ちが軽くなった。心の中で小さな光が灯り、不安や悩みが薄れていくのを感じながら、安心感に包まれて目を閉じた。未来に対する希望と共に、その灯火は静かに輝いていた。

 眠りに落ちる直前、期末試験の不安がよぎった。「大丈夫かな…ちゃんと勉強しなきゃ」と思いながらも、手紙の言葉が支えになっていることを感じた。「悩むことや不安を感じることは、決して悪いことではない。それは自分が成長し、進化している証拠だから」と思い出し、不安も成長の一部として受け入れられるようになった。

 やがて、穏やかな気持ちで眠りに落ちた。期末試験の不安は消え去ってはいなかったが、手紙の言葉が心に力を与え、前向きに進むための光となっていた。
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