上 下
44 / 90
間章 勇者

43

しおりを挟む
「く。」

特に答えることもせずにアーサーと呼ばれた人物は無言で謁見の間を出て行った。

「すまないな。アーサーは私の息子なのだが最近私の仕事や普段の態度が気に食わないのか喧嘩してしまっていてな。不快な思いをさせたかもしれないが許してくれ。」

「あの子もあの子で色々考えているとはいえ少しばかり他国の思想に寄っています。おそらく他国からの留学生の影響でしょうが他の貴族の子息たちにも影響がでかねません。早急に対策会議を開いて行きますわ。」

「対策会議ってアストリアは政治には関与しないんじゃなかったのか?」
「婦人会です!ルチアも来てください!!」
「わかったわ。すぐに向かうから謁見終わらせなさい。」

婦人様方に圧倒された王はなくなくこう答えたという。

「もう好きにしてくれ。」

弱っ。

と謁見の間いる人物たちは思ったそうだ。

だが同情的な感情を向けるものもいた。
陛下直属の騎士や家臣たちだ。
この騎士や家臣たちもそうだがこの国の男性の家庭内地位はとても低い。
歩くATMでは無いが、女性は基本的に貴族であっても育児は自分で行うのが普通であった。

「陛下、私たちも妻に召集されると思いますので覚悟はできています。」
「うむ。ワシらは国のトップではあるが家庭のトップには成れそうにないな。」
「今や開拓村の村長となった彼が羨ましい気もします。」

家庭のお小言が無くて羨ましいと思う反面、大変な土地に心休まる家族がいないのも耐えられそうにないと思う心情だった。

「あそこは確かに不毛の土地でこそありますが研究好きの彼のことです。絶好の実験場だとでも思っているのでしょう。それに彼はずっと独身でしたからね。」
「惚れていた人間は数知れずと居たというのに不思議な男だったよ。全く我が父もあの程度の罪で優秀な人材を開拓村に送るのだから困ったものだ。」

村長が開拓村に送られた罪状はスラ坊で実験をしていたところ侍女をスライムまみれにしてしまったことだった。

「あの侍女は陛下のお気に入りでしたし、それに開拓村に送った後は上皇后にお叱りになられておりましたしね。上皇后様はすぐにでも連れ戻そうとしましたがあの方は村長の職業を持っている者が村長をせんでどうすると言って戻りませんでしたしね。」

あの男は前国王、もとい上皇から聞く話だと根っからの研究気質というか職業気質というか、学園にいた頃は一度人語を理解できないはずのスライムに学習を施し職員室に侵入させてテストの解答を覚えさせてカンニングしていたのだ。

しかもきちんと国王に賄賂として回答を見せつつ一部の解答を流し人心を掌握していくずる賢さは辺境の村で税をなるべく取らせないようにする村長そのものだった。

さらには研究も怠ることはなく文字通りの首席として恥じない論文の数々を提出していった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サキュバスの眷属になったと思ったら世界統一する事になった。〜おっさんから夜王への転身〜

ちょび
ファンタジー
萌渕 優は高校時代柔道部にも所属し数名の友達とわりと充実した高校生活を送っていた。 しかし気付けば大人になり友達とも疎遠になっていた。 「人生何とかなるだろ」 楽観的に考える優であったが32歳現在もフリーターを続けていた。 そしてある日神の手違いで突然死んでしまった結果別の世界に転生する事に! …何故かサキュバスの眷属として……。 転生先は魔法や他種族が存在する世界だった。 名を持つものが強者とされるその世界で新たな名を授かる優。 そして任せられた使命は世界の掌握!? そんな主人公がサキュバス達と世界統一を目指すお話しです。 お気に入りや感想など励みになります! お気軽によろしくお願いいたします! 第13回ファンタジー小説大賞エントリー作品です!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【救世主】さぁ、世界を救おうじゃないか少年【プロジェクト】

一樹
ファンタジー
とある少年が、世界が滅んで家族とか全滅して、それをなんとかする話です。 なんとかしようってとこで終わってます。 肥やしにしとくのもアレなんで投下します。 気まぐれに、続きを書くかもしれないので完結設定にはしていません。 よろしくお願いします。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ
ファンタジー
 世界で唯一、魔法を使うことのできない少年レイシュア・ハーキースは故郷である『フォルテア村を豊かにする』ことを目標に幼馴染のアル、リリィと共に村を出て冒険者の道を進み始めます。  紡がれる運命に導かれ、かつて剣聖と呼ばれた男の元に弟子入りする三人。  五年間の修行を経て人並み以上の力を手にしたまでは順風満帆であったのだが、回り続ける運命の輪はゆっくりと加速して行きます。  人間に紛れて生きる獣人、社会転覆を狙い暗躍する魔族、レイシュアの元に集まる乙女達。  彼に課せられた運命とはいったい……  これは一人の少年が世界を変えゆく物語、彼の心と身体がゆっくりと成長してゆく様を見届けてあげてください。 ・転生、転移物でもなければザマァもありません。100万字超えの長編ですが、よろしければお付き合いください。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...