41 / 90
序章
40
しおりを挟む
時は遡って幼馴染と別れた勇者は馬車からの眺めを見るわけでもなくただただ泣いていた。
「ゔゔ…………。」
「もう泣いても良いのよ。」
「な˝い˝でなん˝がない˝んだから!あいづが見送りにごながっだがらっで関係ないんだがら!!」
泣いている。
自分ではどれだけ否定しようとも泣いている。
しかしそれを認めてしまっては自分が取り決めたことに対する葛藤が生まれてしまう。
許してはいけない許してしまっては彼との決別になるとそう信じていた。
「あの子はね、夢に向かってとことん突き進むタイプだからマリアンヌみたいな子とくっつくイメージは無いしそれこそ王都に行くんだから美男子揃いよ。」
「あいつ以上にカッコいい奴なんかいない!」
「お前のことを見てくれなくてもかい?」
「あいつの一番になれたら母さんはどう思うの?」
誰よりも曲げない心があるのならそれを堕とせば大層な夫になるのだろう。
しかしそれは堕とせばの話だ。
堕とせなければ自分に見向きもしない夫にしかならないのだ。
女としての幸福など得られるかもわからないような夫よりも他の男に気が移る。
「そりゃあお父さんよりもいい夫になるわね。でもねそれに見合うだけの労力と天秤にかけると私は諦めるかね。」
「私はそれでもアイツが欲しい。」
「全く意固地だわ。」
子どもの言っていることだから王都に行って新しい刺激を得ればすぐに気が変わると思い言及はしなかった。
「ちょっと風に当たってくるから中で待っているんだよ。」
「うん。」
馬車の外には父親が居る。
「アンタ、やっぱりマリアンヌはあの子にご執心なのかね。」
「そうだな、あのユウゴさんの息子だしお嫁さんもたいそう別嬪だったから美形ではあるが王都に行けば変わってくれると良いんだが。」
勇者になるとはそういうことだ。
勇者は政治利用こそさせないがその力を欲して子を儲けようとする輩がうじゃうじゃ居る。
もちろん親として娘の幸せを望むのも当たり前だが今までよりも優雅な暮らしができるのも事実、あの子が開拓村に再び行き住みたいと申し立てたとき素直に祝福できないのがマリアンヌの両親だった。
彼らは臨んで開拓村に来たがそのあまりの過酷さに逃げ出したいと常々思っていた夫婦だった。
それにいくら発展しても一度逃げ出すようなことをした身だ。
肩身を狭い思いをすることは目に見えていた。
村長はいつでも戻ってこいと言ってはいたが他の村人はそうとは限らないし増してや不毛の土地、発展したとしてもその事実は変わらない。
過去の経験は未来に至っても恐れを抱き続けさせる要因となっていた。
「まあでもこいうところお義母さんに似ていたよな。」
「ええ、村長の古い友人だからって開拓村について行って私たちも巻き込まれたけどお母さん村長のこと好きだったみたいだからね。見合いの話が無ければずっと独身だったかもしれないわね。」
「ユート君の性格は村長から、マリアンヌの性格はお義母さんからか。」
「ゔゔ…………。」
「もう泣いても良いのよ。」
「な˝い˝でなん˝がない˝んだから!あいづが見送りにごながっだがらっで関係ないんだがら!!」
泣いている。
自分ではどれだけ否定しようとも泣いている。
しかしそれを認めてしまっては自分が取り決めたことに対する葛藤が生まれてしまう。
許してはいけない許してしまっては彼との決別になるとそう信じていた。
「あの子はね、夢に向かってとことん突き進むタイプだからマリアンヌみたいな子とくっつくイメージは無いしそれこそ王都に行くんだから美男子揃いよ。」
「あいつ以上にカッコいい奴なんかいない!」
「お前のことを見てくれなくてもかい?」
「あいつの一番になれたら母さんはどう思うの?」
誰よりも曲げない心があるのならそれを堕とせば大層な夫になるのだろう。
しかしそれは堕とせばの話だ。
堕とせなければ自分に見向きもしない夫にしかならないのだ。
女としての幸福など得られるかもわからないような夫よりも他の男に気が移る。
「そりゃあお父さんよりもいい夫になるわね。でもねそれに見合うだけの労力と天秤にかけると私は諦めるかね。」
「私はそれでもアイツが欲しい。」
「全く意固地だわ。」
子どもの言っていることだから王都に行って新しい刺激を得ればすぐに気が変わると思い言及はしなかった。
「ちょっと風に当たってくるから中で待っているんだよ。」
「うん。」
馬車の外には父親が居る。
「アンタ、やっぱりマリアンヌはあの子にご執心なのかね。」
「そうだな、あのユウゴさんの息子だしお嫁さんもたいそう別嬪だったから美形ではあるが王都に行けば変わってくれると良いんだが。」
勇者になるとはそういうことだ。
勇者は政治利用こそさせないがその力を欲して子を儲けようとする輩がうじゃうじゃ居る。
もちろん親として娘の幸せを望むのも当たり前だが今までよりも優雅な暮らしができるのも事実、あの子が開拓村に再び行き住みたいと申し立てたとき素直に祝福できないのがマリアンヌの両親だった。
彼らは臨んで開拓村に来たがそのあまりの過酷さに逃げ出したいと常々思っていた夫婦だった。
それにいくら発展しても一度逃げ出すようなことをした身だ。
肩身を狭い思いをすることは目に見えていた。
村長はいつでも戻ってこいと言ってはいたが他の村人はそうとは限らないし増してや不毛の土地、発展したとしてもその事実は変わらない。
過去の経験は未来に至っても恐れを抱き続けさせる要因となっていた。
「まあでもこいうところお義母さんに似ていたよな。」
「ええ、村長の古い友人だからって開拓村について行って私たちも巻き込まれたけどお母さん村長のこと好きだったみたいだからね。見合いの話が無ければずっと独身だったかもしれないわね。」
「ユート君の性格は村長から、マリアンヌの性格はお義母さんからか。」
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転生 転生後は自由気ままに〜
猫ダイスキー
ファンタジー
ある日通勤途中に車を運転していた青野 仁志(あおの ひとし)は居眠り運転のトラックに後ろから追突されて死んでしまった。
しかし目を覚ますと自称神様やらに出会い、異世界に転生をすることになってしまう。
これは異世界転生をしたが特に特別なスキルを貰うでも無く、主人公が自由気ままに自分がしたいことをするだけの物語である。
小説家になろうで少し加筆修正などをしたものを載せています。
更新はアルファポリスより遅いです。
ご了承ください。
葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~
みくもっち
ファンタジー
文芸部に所属する佐賀野葵(さがのあおい)は留学生のシノから妙なことを頼まれる。
一冊の本に手書きで小説を書いてくれというものだ。
小説を完成させた日、学校に異世界からの侵略者、魔族(グリデモウス)が現れる。
魔族に襲われ、傷つき、倒れていく生徒たち。
そんなとき、葵の本からひとりの少女が飛び出し、魔族を倒す。少女の名は雛形結(ひながたゆい)。
葵が書いた小説、葵の戦神八姫のキャラクターだった。
葵が小説を書いた本は小説のキャラクターを具現化できる魔導書アンカルネ・イストワール。
魔族に対抗できるのはその魔導書から喚び出されたキャラクターだけだった。
魔族の軍勢から人々を守るため、アンカルネ・イストワールから戦姫を喚び出して戦う少年の物語。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる