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序章
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時は遡って幼馴染と別れた勇者は馬車からの眺めを見るわけでもなくただただ泣いていた。
「ゔゔ…………。」
「もう泣いても良いのよ。」
「な˝い˝でなん˝がない˝んだから!あいづが見送りにごながっだがらっで関係ないんだがら!!」
泣いている。
自分ではどれだけ否定しようとも泣いている。
しかしそれを認めてしまっては自分が取り決めたことに対する葛藤が生まれてしまう。
許してはいけない許してしまっては彼との決別になるとそう信じていた。
「あの子はね、夢に向かってとことん突き進むタイプだからマリアンヌみたいな子とくっつくイメージは無いしそれこそ王都に行くんだから美男子揃いよ。」
「あいつ以上にカッコいい奴なんかいない!」
「お前のことを見てくれなくてもかい?」
「あいつの一番になれたら母さんはどう思うの?」
誰よりも曲げない心があるのならそれを堕とせば大層な夫になるのだろう。
しかしそれは堕とせばの話だ。
堕とせなければ自分に見向きもしない夫にしかならないのだ。
女としての幸福など得られるかもわからないような夫よりも他の男に気が移る。
「そりゃあお父さんよりもいい夫になるわね。でもねそれに見合うだけの労力と天秤にかけると私は諦めるかね。」
「私はそれでもアイツが欲しい。」
「全く意固地だわ。」
子どもの言っていることだから王都に行って新しい刺激を得ればすぐに気が変わると思い言及はしなかった。
「ちょっと風に当たってくるから中で待っているんだよ。」
「うん。」
馬車の外には父親が居る。
「アンタ、やっぱりマリアンヌはあの子にご執心なのかね。」
「そうだな、あのユウゴさんの息子だしお嫁さんもたいそう別嬪だったから美形ではあるが王都に行けば変わってくれると良いんだが。」
勇者になるとはそういうことだ。
勇者は政治利用こそさせないがその力を欲して子を儲けようとする輩がうじゃうじゃ居る。
もちろん親として娘の幸せを望むのも当たり前だが今までよりも優雅な暮らしができるのも事実、あの子が開拓村に再び行き住みたいと申し立てたとき素直に祝福できないのがマリアンヌの両親だった。
彼らは臨んで開拓村に来たがそのあまりの過酷さに逃げ出したいと常々思っていた夫婦だった。
それにいくら発展しても一度逃げ出すようなことをした身だ。
肩身を狭い思いをすることは目に見えていた。
村長はいつでも戻ってこいと言ってはいたが他の村人はそうとは限らないし増してや不毛の土地、発展したとしてもその事実は変わらない。
過去の経験は未来に至っても恐れを抱き続けさせる要因となっていた。
「まあでもこいうところお義母さんに似ていたよな。」
「ええ、村長の古い友人だからって開拓村について行って私たちも巻き込まれたけどお母さん村長のこと好きだったみたいだからね。見合いの話が無ければずっと独身だったかもしれないわね。」
「ユート君の性格は村長から、マリアンヌの性格はお義母さんからか。」
「ゔゔ…………。」
「もう泣いても良いのよ。」
「な˝い˝でなん˝がない˝んだから!あいづが見送りにごながっだがらっで関係ないんだがら!!」
泣いている。
自分ではどれだけ否定しようとも泣いている。
しかしそれを認めてしまっては自分が取り決めたことに対する葛藤が生まれてしまう。
許してはいけない許してしまっては彼との決別になるとそう信じていた。
「あの子はね、夢に向かってとことん突き進むタイプだからマリアンヌみたいな子とくっつくイメージは無いしそれこそ王都に行くんだから美男子揃いよ。」
「あいつ以上にカッコいい奴なんかいない!」
「お前のことを見てくれなくてもかい?」
「あいつの一番になれたら母さんはどう思うの?」
誰よりも曲げない心があるのならそれを堕とせば大層な夫になるのだろう。
しかしそれは堕とせばの話だ。
堕とせなければ自分に見向きもしない夫にしかならないのだ。
女としての幸福など得られるかもわからないような夫よりも他の男に気が移る。
「そりゃあお父さんよりもいい夫になるわね。でもねそれに見合うだけの労力と天秤にかけると私は諦めるかね。」
「私はそれでもアイツが欲しい。」
「全く意固地だわ。」
子どもの言っていることだから王都に行って新しい刺激を得ればすぐに気が変わると思い言及はしなかった。
「ちょっと風に当たってくるから中で待っているんだよ。」
「うん。」
馬車の外には父親が居る。
「アンタ、やっぱりマリアンヌはあの子にご執心なのかね。」
「そうだな、あのユウゴさんの息子だしお嫁さんもたいそう別嬪だったから美形ではあるが王都に行けば変わってくれると良いんだが。」
勇者になるとはそういうことだ。
勇者は政治利用こそさせないがその力を欲して子を儲けようとする輩がうじゃうじゃ居る。
もちろん親として娘の幸せを望むのも当たり前だが今までよりも優雅な暮らしができるのも事実、あの子が開拓村に再び行き住みたいと申し立てたとき素直に祝福できないのがマリアンヌの両親だった。
彼らは臨んで開拓村に来たがそのあまりの過酷さに逃げ出したいと常々思っていた夫婦だった。
それにいくら発展しても一度逃げ出すようなことをした身だ。
肩身を狭い思いをすることは目に見えていた。
村長はいつでも戻ってこいと言ってはいたが他の村人はそうとは限らないし増してや不毛の土地、発展したとしてもその事実は変わらない。
過去の経験は未来に至っても恐れを抱き続けさせる要因となっていた。
「まあでもこいうところお義母さんに似ていたよな。」
「ええ、村長の古い友人だからって開拓村について行って私たちも巻き込まれたけどお母さん村長のこと好きだったみたいだからね。見合いの話が無ければずっと独身だったかもしれないわね。」
「ユート君の性格は村長から、マリアンヌの性格はお義母さんからか。」
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