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笹の花言葉は「ささやかな幸せ」

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病院を退院してから初の登校日

「蒼汰、お前ヒーローになったんだってよかったな」
「科夫よくねえよ。ずっと病院に居たからPX4のゲームできなかったんぜ」
「あーそっか病院居たんだもんな。モンアドの宴イベントとかも逃した感じか」

親友科夫と当たり障りのない話をしているとチラチラと視線を感じた。

「ん?視線が気になるのか?」
「まあな。とりあえずどんな感じで聞かされたのか教えてくれるか?」
「それがだな……」

科夫からの説明を聞くとこうだ。

先生からは甘夏さんが親のライバル業者からの反感を買い誘拐されその際一緒に誘拐された蒼汰がケガをしたと話し、甘夏さんたちは無事警察によって救出されたと聞かされた。
……が甘夏さんが学校に戻ってくると甘夏さんは蒼汰が誘拐犯から身を挺して護り誘拐犯を倒したと聞いたそうだ。

この世間に流した情報と当事者がもたらした情報の齟齬が噂の原因となっているらしい。

最初に聞いたときは甘夏さんのオマケとして連れてこられた蒼汰が見せしめにでもされてケガを負ったと判断したが甘夏さん本人の話を聞くと誘拐犯と戦って傷を負ったように聞こえたらしい。

「んで結局のところどうなんだ?俺の予想だとお前が屁狂絽《へきろ》さん化して襲撃犯撃退したと思うけどな」
「屁狂絽《へきろ》さん化?」
「俺が勝手に呼んでるけど、蒼汰ってさ花の手入れをしてる時とかいつもの細腕とは思えないくらい筋肉盛り上がってるんだよ」

屁狂絽《へきろ》さんとは銀太郎というアニメに出てくるネタキャラで花屋の店主にして泣く子も黙り恐怖のどん底に陥れるような顔と肉体を持つ自然に優しいキャラだ。
彼には花や虫に関することになると物理法則を無視した技を使うことからギャグマンガ最恐のネタキャラとして君臨した。

「へえ、まあ科夫の言ってる通りでだいたいあってるよ。なんか俺がキレたときにそうなったみたい」
「そうなったみたいってお前、もしかして怒ってるときに自分を見失うタイプかよ」
「うーん俺も詳しくは知らないけど周りの人が言うにはそうなってるらしい」
「一応桜の植え替えのときにサッカー部のビデオ頼まれてたから映ってるかもしれないし蒼汰が怒った時どんな状態か予想できるかもしれないから後で確認しておくわ」
「うん、お願い。でも大丈夫?確か上野動物園のコンクールが近いんでしょ」

科夫は写真部で映像なども取り扱っていることとから他の部活からよくカメラマンとして駆り出されることがある。
というのもプロには及ばないにしろ慣れた人間が撮った方が綺麗に取れるし文化祭の発表するときなどもカメラワークがしっかりしていた方が説明しやすいということもある。
そのため運動部、文化部問わず引っ張りだこなため年間で一番忙しいのは写真部だったりする。
もちろん写真部の活動も忘れずに行っているのだからブラックではないかと疑ってしまうレベルだった。

「部長が上野動物園の写真部門で優勝するとか言ってたからな。まあでも俺には最近撮ったばかりの秘蔵のコレクションがあるし大丈夫だろ」
「コレクションってなんだよ?パンダか?」
「ちっちっち、上野と聞いてパンダとは通ではないぞ蒼汰!これを見るがいい」

そこには三銃士のように4匹の象が鼻を天高く上げ集める仕草が映っていた。

「そしてこれは序の口、本命はこれだ!」

巨大な怪鳥があくびをしているシーンだった。

「これなに?」
「何とはなんだ。これはハシビロコウと言ってだな殆ど動かないことで有名な鳥なんだ。それのあくびシーンの画像はとても貴重なんだぞ!」
「ごめんニュースで見たかも」

(ほんとにニュースで取り上げられてる鳥です)

「上野動物園には他にもいろんな動物がいっぱいいる。さっき見せた象だって4頭も飼っているところは中々ないんだぞ」
「科夫、おまえ熱く語ってるけど去年までパンダだけ見とけばいいとか言ってなかったっけ?」
「ふ、俺もあの頃は若かったのさ」

一瞬朝なのに夕方に風景が切り替わり科夫が黄昏ているように見えたのは気のせいではないだろうか。
きっと退院明けで疲れていると思い周囲を見渡すとクラスメイトも目を擦るようなことをしていた。
そういえば、テストが近かった。きっとみんな勉強で目が疲れているんだろうと思った。

「あの頃は若かったって何があったんだ?」
「いやさあリンリンちゃんとかは可愛いしみんなの人気者だからさ笹とか持ってくれることあるけどずっと俺のこと見てくれるシュシュちゃんのことの方が好きになっちゃたんだよ」
「へえそんなに良いなら俺も一度行ってみようかな?」

クラスメイトたちは写真部の言葉には特に疑問を持つことなく各々読書なり勉強なりに集中しているのだが初めてその言葉を聞いた人物は黙っていなかった。

「いいぞう蒼汰も一緒に来いよかわいい子紹介してやるからよ!」
「ああ」
「随分楽しそうな話をしていますね」

教室の温度が氷点下に達したかのようにクラスの人間が震えだした。

「甘夏さん?」
「蒼汰さんに科夫さん随分楽しそうに女の子とお喋りすることの話をしていましたがお好きなんですか?」
「そうだよ甘夏さん、俺ら女子とむっちゃ楽しいことするんだ」

おい科夫、言い方考えろ!お前のせいで絶対なんか勘違いしてるだろ!!
蒼汰は玲菜がどういう意味で捉えたかを理解していた。そして奇しくも蒼汰が心の中でおもったことは科夫を除くクラスメイトたちも同じことを思っていた。
クラスの心が一つになった瞬間だった。

「そうですかそうですか」

なんで笑っていらっしゃるのかな
怖えよ!

「あ、甘夏さん」
「玲菜、蒼汰さんは玲菜とお呼びください」
「はい、玲菜さん」

あまりの怖さに屁狂絽《へきろ》さんの人格をもつ蒼汰もたじろいだ。

「れ、玲菜さん僕らが話してるのは動物園のことだよ」
「え?」
「そうだぞ俺が蒼汰と話してたのは動物園の可愛さを語っていたんだよ」
「し、失礼しました」

よかったぁ
そんな安堵からほっと胸をなでおろす蒼汰

「あ、でも蒼汰さんが私のこと玲菜って呼んでくれました!」

キャーと顔を赤くする甘夏さん改め玲菜さん

今までの地獄が嘘のようにお花畑に変貌したことによりクラスメイト達は知った。
ささやかな幸せはすぐに崩れ去りまたすぐ戻ってくるものであると

蒼汰も思い出した

パンダの主食の笹の花言葉は「ささやかな幸せ」であると
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