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ジルの話

104.置き去りのディオル達

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「「「「えっ?消えたっ!」」」」

 突然の事にディオル達は驚いた。
 何せ目の前でジルが消えたのだ。

「どういう事だ!ここに転移の魔道具も無ければ魔法陣もなかったぞ!」と兎耳の獣人ラディが呟く

「と、言う事は、の仕業?」と魔人のルーブが悔しそうに声をあげる。

「いや、しかし、あのジルという小年は、今から転移させられる事が、わかっているかのようなタイミングだったぞ?むしろ自分の意思で転移したかのような…そんな事出来る訳ないけど」と狼獣人のガウスが困惑気味に言う。

「ああ、魔道具も無しに転移なんて聞いたこともない」

 正直、隊長のディオルにも意味がわからない。

 ディオルは、考え、そして思った。

 ***

 こちら側(ジルの消えた地点)に、魔道具はない。
 どこかから、魔道具が操作され転移させられたと考えるのが普通だろうと。

 そしてその魔道具はこの国にあるとしたら、悪しき魔族の一団『黒魔団』の隠れ家である。
 隠れ家はこの魔の森のいくつかに点在しているらしく先日もそのうちのひとつを発見し女達を保護したばかりだ。
 しかし、実行犯の魔族たちは俺達が押し入ったと同時に、魔道具と共に掻き消えた。
 転移してまた別の隠れ家に逃げたのだろう。

 自分達はこれまで幾度となく”黒魔団”を追い詰め魔道具の破壊を目論むが、奴らは攫ってきた女どもを盾にして立ち回り逃げるのだ。
 これまでも被害者である女達の命を一番に考えて行動をしてきたが、それ故に肝心の魔道具や奴ら黒魔団の完璧な討伐には至っていない。

 女達を助けては、また別の女達が浚われる。
 その繰り返しだった。

 あの魔道具は、遠隔から操作できる召喚式らしいし、ある程度、転移させる前に浚う人間の選別をしているようだ。
 浚われてきた人間の女達も五名救出したが皆、若く美しい者ばかりだった。

 その目的は高位の魔族へ売りつける為だ。
 その目的は繁殖の為。
 魔族には女がいない訳ではないが希少だ。
 何十年に一度しか生まれないから。

 でも、では何故、ジルは召喚されたのか?
 あの美しさ故に魔に魅入られたのだろうか?
 あり得なくはないとも思えた。

 ***

 そう、この国の住人であるディオル達は知らなかった。
 魔道具無しで転移が可能な魔法使いがこの世に存在するなどとは。

 この国の常識では、魔族や魔人には魔力や強靭な肉体はあるが、それを魔法として使える者はごく一部だ。

 転移などの魔道具を使うのも何人もの魔人のエネルギーを必要とする。

 大体、魔法と言うのはあの血族たち以外はそうほいほいと使えるものではないのである。
 偉大なる始祖の魔法使いの血族以外には…。
 それは始まりの国ラフィリルの王家の血筋のみに伝わる…それは、遠い遠い遥か彼方にある国の伝説としか伝わっておらず、その伝説とて知るものはこの国にはいなかった。

 だから思ったのだ。
 ジルは、悪しき一味に何らかの特別な理由で浚われたのだろうと…。
 そう思わせるほどにジルは美しい子供だったから。

「とにかく、捜索だ!理由はわからんが、とにかく転移魔法を使うなら犯人はあいつらしか考えられない。天変地異(火柱と竜巻の件)の調査は後回しだ!とにかく奴らの新たな隠れ家をみつけるんだっ!魔道具の発動には大量の魔力とその注入に時間を要する。最低でも三時間はかかるはずだ。何としてもジルを取り戻すぞっ!」

「「「おうっ!」」」

 四人は、超人的に持てる超人的な力の全てを張り巡らせた。

 ディオル(豹獣人)の千里眼
 ラディ(兎獣人)の超聴覚
 ガウス(狼獣人)の超嗅覚
 ルーブ(魔人)の超音波

 彼らは、ただひたすらに魔の森を捜索する。
 それはもう必死になって。
 それも、ほんの少し前に初めて会った少年の為に…。
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