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ジルの話

89.竜を従えし者 人ならざりし者--04 竜達の不安

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 生徒たちは悲鳴を上げてティムンの後ろに下がった。

「皆、教室に戻って!フィリアは、すまないが養護教諭のシーリャ先生に伝えて治療と担架の準備を!」
「は、はい!で、でもティムン先生は?」

「取りあえず、竜舎にホワイティが戻るように促してみるから」
「そ、そんな!こんなに怒ってる竜にいくら先生でも…」
「いいから早くっ!早く避難するんだ!」ティムンが叫ぶと生徒たちは慌てて校舎に走って行った。
「フィリア!僕らがいる方が足でまといだ!早く校舎へ!」そう言ってリハルトがフィリアの手を引き校舎に走った。
「先生、全員校舎に向かいました!他の先生にも報告しますから先生も気を付けて!」
 リハルトがそう言うとティムンは嬉しそうに声をあげた。

「さすがリハルト!クレイユ先生より頼りになるな!宜しく頼むぞ」と大きな声でいいフィリアとリハルトにむかってウィンクしてみせた。

 そんなティムンにフィリアも従いリハルトと共に全力で校舎へと走った。
 そして、ティムンは白竜のホワイティと一体一で対峙した。

 そしてそっとルミアーナから授かっていた月の石に祈りを込め竜に話しかける。
 念話である。

『誇り高き白竜…ホワイティ。愚かな上司が申し訳ない事をした。申し訳ない。どうか怒りを鎮めてほしい』

 ティムンは、片手を胸にあて膝をおり、最上級の礼を竜にとり頭を下げた。

『其方は、我の言葉がわかるのね…』
 驚いた様子で白竜はティムンを振り返った。
 そしてティムンの美しい瞳をのぞき込むと不思議と荒ぶる気持ちが和いでいくのを感じ、威嚇をとどめた。

『はい、私はティムン。”月の石の主”より加護を受けておりますので』

『なるほど、月の石の…ならば納得。先ほどの者は、我ら竜を使役しえきしているかのような勘違いをしているようだ。我らが真に従うのは竜族の長のみ…。これまで長から人を慈しむように命じられていたから人間たちに目をかけていてやったのに過ぎぬ。それなのに、こちらの空気も読まずその男は…。あの人間ヒト子供ヒナたちですら我らの気が立っているのを感じ取り、遠慮していたものを』

『仰せのとおりです。あの者はまだ未熟な生徒達よりも未熟者です』

『…あのような者が上司など、其方も苦労するな。あの者は念話すら出来もしないのに我らを従わせていると思い込んでいるようだがとんだ道化じゃ』

 思わず人外の竜に同情されるとはとティムンは苦笑いするしかなかった。

『ご尤もデス…とんだご迷惑を…』

『いや、我らとて普段ならあの道化っぷりを見て面白がっているところなのじゃ。じゃが、今はそれどころではない。気がかりな事がある中、あの者の馬鹿っぷりはかんにさわったのじゃ。其方や子供らに害意はない故、安心せよ』

『有り難き仰せです。して気がかりとは?』

『何、人間ひとには関わりのない事よ…。我らが長に関わる事故…』

 ティムンは竜の長であるポッティがジルと同化したことを知っている。
 関わりがないどころか自分の甥っ子の事なのだから関係者といってもおかしくはないだろう。

『竜の長…それは、ひょっとして』
 ティムンは組んだ腕の片方をあげ口元に添えて呟いた。

『其方、何か知っておるのか?』ティムンの思いあたりが有るかのような仕草を白竜は見とがめた。

『は、はい。取りあえず、竜舎の方へお戻り頂けますか?そこで私の知る全てをお伝えいたしましょう』
『なんと!真か!では今すぐに!其方、我の背に乗るがよい!』

 そうしてティムンは白竜に鞍もつけずに騎乗し、そびえたつ白亜の竜舎へと飛び立った。

 そして、白竜の背に乗り竜舎へ飛び立つティムンの姿を見た生徒や駆け付けた教師達は感嘆の声を挙げた!
「「「すごい!あんなに怒ってた竜にのって」」」「「「ちゃんと竜舎に誘導してる!」」」
「「「ティムン先生!すごい!」」」

 多少の勘違い?も含みつつティムンはこの時から周りの認識がクレイユ主任教諭よりもはるかに優位にたったのだった。
 クレイユが次に目覚めた時にはクレイユは主任教諭から外されている事だろう。
 何といっても竜の逆鱗に触れ生徒を危険に晒したのだから。
(まぁ、もともと知識も魔力も何もかもクレイユより数段、上だったのだが)

 そしてティムンは月の石の力を借りてジルにも連絡をとった。
 どうか、誰にも知られずに竜舎にきてほしいと。
 そう、”神聖竜ギエンテイナル”として…。
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