上 下
66 / 113
リミィの恋の話

65.舞踏会当日

しおりを挟む
 舞踏会当日、タイターナ公国の大公宮殿近くにある気賓客用のホテルの一室では、朝から大騒ぎである。
 最上階にあるその一室はラフィリルからの賓客に貸しきられ、そこからはどこから現れたのか何人もの侍女たちが出入りしている。

「お母様ったら、ぬかりないですわ!ラフィリルの屋敷の扉と、この部屋のクローゼットの扉を魔法で繋げちゃうなんて!」

「うふふっ!この部屋はず~っと私専用に貸してくれるってホテルのオーナーが言ってくれたからね~」

「まぁ、素晴らしいわ!オーナーさん、ご親切ですのね?」
 無邪気に喜ぶリミィにジルが大変子供らしくない意見を言った。

「リミィってば、無邪気だなぁ?そんな訳ないよ!ホテルのオーナーだって商売人だからね!ラフィリルの公爵夫人で、かの有名な”月の石”の主の母様が、ここに泊まったっていうだけで、このホテルにって考えたんじゃない?女神とよばれる母様が、泊まってるホテルになら泊まってみたいとか皆思うじゃない?立派なだよ」

「ええ~何それ!?」

「あらあらあら!ジーンジルってば、ほんとに賢いのね~。そうよ、そんな訳で、このホテルのこの一室はず~っと貸しきれる事になったのよ~。本当は最上階全部、て頼まれたんだけど、どうせラフィリルのうちの屋敷に繋がってるんだから、そんなに部屋は要らないし、この部屋だけで十分なのよね~」

「そうだね。あっ、そうだ!母様!じゃあちょっと屋敷の方の僕の部屋に置いてきた本を取って来ていいかな?読み終わった本なんだけど最近また読みたくなっちゃって!」

「あら、いいわよ。そこのクローゼットが、屋敷の階段下の物置の扉と繋がってるから、行ってらっしゃい」

「あっ!じゃあ、私も置いてきた髪留め取ってくるっ!」

「はいはい、じゃあ、いっそ私も今晩の支度は、あっちでしようかしら?」

「そうしたら?いちいちドレスや小物を運ぶのも面倒じゃない?支度を手伝ってくれる皆もそっちの方が楽だよ!」とジルが侍女たちを気遣う言葉にルミアーナはまた意味ありげな笑みを浮かべた。

「 ジーンジルてばね~?」

(あれ?母様もしかして僕が、前世の記憶が目覚めちゃってるの気づいてる?まさか)とジルは冷や汗をかきつつ笑ってごまかした。

 そしてラフィリルの屋敷に一旦戻った三人と侍女たちは、夜の舞踏会までの時間をあれこれ話し合いながら過ごしたのである!
 残念ながら父のダルタス将軍はお仕事で家にいなかったので一家団欒とまではいかなかったが、こればっかりは仕方がないだろう。

「母様っ!私も舞踏会の様子がみたいですわっっ!」
 リミィはダメもとで言ってみた。
「あ、僕も見たいなっ!」
 ジルもダメもとで言ってみた。
 本当に気の合う双子である。

 そう言う双子達に母ルミアーナは分かっていたのかのように、待ってましたと言わんばかりの笑みで答えた。

「うふふっ!そう言うと思ってたわ~」

「「えっ?まさか!」」
「「いいのっ?」」

「うっふっふ~!よ~?その代わり、ジーンジルもリミアも、ちょ~っと大人にならないとね~?」

「あ、あ、あ!じゃあ、兄様のパートナーは、私に!?」
 リミィが期待に満ちた眼差しで母をみたが、さすがにそれは一蹴された。

「あら、それはダメよ~!そんな事したら、他の人が見たらティムンが許嫁のリミア以外の年頃の令嬢と踊った事になるのよ?あっという間に噂になって許嫁のリミアの立場がなくなってしまうわよ?」

「そうだよ、せっかくティムン兄様がリミィの為に許嫁を理由にリーチェ先生を断ってくれたのに、まるでティムン兄様がリミィ以外の人と浮気したみたいになっちゃうよ!リーチェ先生だって恥をかくことになる」

「うっ…!そ、そっか」
 そこまで考えが至らなかったリミィは項垂れた。

「その点、母様なら姉な訳だし変な噂も立ちようがないし、リミィは僕がパートナーになってあげるから我慢しな?ね?」とジルは姉のリミィの頭を撫でながら言い聞かせた。

 そんな様子を母のルミアーナは目を細めて見ている。

「本当に ジーンジルは賢いわね~?いつ頃からか考え方も大人びちゃって…今度、母様とその事でお話しましょうね~?」と母ルミアーナは笑った。

 やはり感づいているらしい。
 ジルは焦りつつも、直ぐには言及してこない母に何か底知れないものを感じた。
 さすがは””侮れないと思うのだった!

「ふふふ~、じゃあ、まずリミィからね!まず、私のドレスに着替えなさい。ぶかぶかで良いから」そう言っては母心底たのしそうにウィンクした。

 その後、ラフィリアード家の一室では銀色の魔法の光で溢れかえっていた。
 そして、その夜、準備万端の三人はタイターナ公国の大公宮殿に乗り込むのだった。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

処理中です...