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フィリアの話

027.フィリアの婚約破棄-07 リハルトの想い

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 だが、その話の途中、その様子を伺窺っていたのであろう愚かな弟の叫び声がしたのだ。

 振り返ると魔物に襲われかけた弟の姿が結界の外にあった。
 僕が慌てて助けに行こうとしたら、あの小さなフィリアにどうしてあれほどの力が出せたのかと思うほどの力で引き止められた。

 フィリアの助けを求める声に教会の中から神父様や両親、護衛の大人たちが出てきた。
 ハンスは僕が弟を助けに飛び出ていかないようにと僕を押さえつけていたし、他の大人たちは魔物の方に気を取られていた。

 魔物が弟から離れたその時、フィリアは動いた。
 多分、反射的に考えるより先に体が動いてしまったのだろう。
 僕が後先考えずに結界の外に飛び出そうとしたように…。

 僕のそれは肉親の情という奴だろう。
 しかし彼女のそれは?

 やはりダンが好きだったのかと思い知らされた。
 あんな恐ろしい魔物さえ恐れずにダンを助けようとするほどに…。
 そんなにダンの事が好きなのかと…。

 そしてフィリアは、弟を結界内におしこみ、自分も結界内に逃れる前に魔物に狙われ弟の代わりに傷を負ったのだ。
 彼女の傷は僕の心をえぐった。
 それが、まるでフィリアのダンへの愛の証のように思えた。

 やめてくれ!
 そんな傷!ああ、その傷を負うのがどうして君なんだ!
 僕は、君さえ無事なら全身傷だらけになっても構わなかったのに!

 こんな時なのにダンのことが弟なのに憎くなる。
 愛しい君の愛しい弟…。

 そして僕は身を引いた。
 大人たちもフィリアがダンを助けようとして傷を負ったと知り、まるで当然のようにダンがフィリアの婚約者となった。

 僕が幸せにしたかった。
 せめて頬に負った傷だけでも、僕が何とか治してやれないものかと特に治癒について魔法学科で研究しているのだけれども未だに確実に魔物の傷を癒すには、伝説の”月の石”でもない限り無理だという事しか分からない…。
 もしくは、はじまりの国の聖魔導士ならば…治せるかもしれないと聞くが、聖魔導士と言えばこの世界を作りし偉大なる魔法使いの血族以外にはなれないというのだ。
 そう。そのでなければならないという。
 魔力があろうとなかろうと、どんなに努力しようと魔物の毒は消し切ることはできないのだと…。

 血族…それはラフィリル王家の血筋ともいえる。
 隣国の伯爵家ごときがおいそれとお目通りできるはずもない。

 それでも何とかなりはしないかと、月の石や聖魔導士やラフィリルについて調べている。
 学園の高等部を卒業したら、ラフィリルへの留学も考えている。

 あれほど好きだと言っていたのだからよもや頬の傷ごときでダンがフィリアを蔑ろにするような事はなかろうが、世間はそうはいくまい。
 頬の傷のせいで社交界にでてから肩身の狭い思いをしてはかわいそうだとまだ四年も先の心配をしていた。

 この時、僕はまだ知らなかった。
 弟のダンが、フィリアにとっていた酷い態度のことを…。
 四年も先の心配より今のダンとフィリアの事をもっと気にかけるべきだった事に気づかされたのは、フィリア達が、このタイターナに着いてからの事だった。
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