上 下
15 / 113
フィリアの話

014.魔物の傷跡

しおりを挟む
「とりあえず、フィリアのその魔物の傷跡を取り除こうか」
 ジルが、そう言うとフィリアとリミィが、驚きの声をあげた。

「「えっ?」」

「えっ?って、何?」

「「そんな事できるの?」」
 フィリアは、ともかくリミィまで、驚いた事にジルは、驚いた。

「えっ?何言ってんの?出来ない訳ないでしょ?」とジルは自分の腕輪とリミィの腕輪を指さした。
 ジンとリンの宿る”月の石”が嵌めこまれたお護りである。

「あっ!そっか」リミィが、ぽんと手を叩いた。

「何が、あ、そっか…なの?私の傷痕は聖水でも消すことは、出来なかったのよ。どうしたって無理よ」

「聖水って教会にあるあれか、あんなんじゃ無理だよ。まぁ、せいぜい消毒液代わり程度だって」

「まぁ、なんて罰当たりな事を!」

「うん、でも、お父様もそう言ってたわ。昔、私の許嫁は、魔物に呑まれた事があって全身どす黒い痕になったって言ってたわ!その時に聖水は、ほとんど何の役にもたたなかったって」

「えっ!リミィの許嫁さんがっ?しかも全身っ?」フィリアは驚愕した。
 なんて惨い!
 自分等はまだ、ましだったのだと…。
 多少、不自然でも片方の髪を垂らしていれば頬から耳にかかる傷跡は隠れるのだから…と切なくなった。

「あ、でも今は痕なんて何も残ってないのよ?」

「えっ!そ、そんな事がありえるの?伝説の”月の石”でも存在しない限りそんなの無理よ!」

「「そうそうっ!な(ね)!」」

「何言ってるの?伝説の”月の石”なんてあくまでも伝説でしょう?迷信よ。そんな都合のよい石がある筈ないわ!魔物すら浄化してしまう奇跡の石だと聞いた事はあるけれど…」

 このフィリアの月の石への存在事態が迷信扱いに驚いた。

 隣国でありながら、何で?
 ラフィリルなら子供でも月の石の存在は認識しているというのに。

「いやいやいや、魔物はそもそも黒魔石っていう黒い穢れの影響で生まれるんだから、相対する浄化の石があるのは当たり前でしょ?」

「まあ、ありがとう。そうね、そんな石があったら素敵ね」と、フィリアは、困ったように笑った。

((あ、これ、本気にしてないな(ね)))と、ジルとリミィは、思った。

 なんだか、小さい子が絵本の中の存在をまだ信じてるのね?可愛いわ、せっかくだから夢を壊さないように否定するのはやめておきましょう…みたいな!?

「ふぅっ、仕方ないなあ。フィリア、今からの事は絶対内緒だからね?」

 ジルは、フィリアに、聞こえないように自分の腕輪に小さく話しかける。
『僕らの魔法は、今は、制限されてるんだよね?でもジンとリンの精霊の力なら簡単だよね?浄化できるよね?』

 そう囁くとジルの月の石に宿るジンは、フィリアに聞こえないようにジルの頭の中に直接返事を返した。

『当たり前です。頼まれずとも"主の子"らの友人を穢れのあるままになど、しておける筈ないでしょう。私(月の石)を穢れの部分に近づけてください』

『ありがとう』ジルは、にっこり微笑むと自分の腕輪をフィリアの髪の毛で隠された頬に近づけた。

 ジルが何をしようとしているか直ぐに気づいたリミィは、自分のポケットにいれていたコンパクトタイプの小さな鏡を取り出した。
 誕生日のプレゼントにと許嫁のティムンがくれた物である。

 ジルの腕輪にはまっている月の石が、ぽうっと白い光を放ちフィリアの頬が少し熱を持つ。

「えっ?な、何っ?」フィリアは、びっくりして声をあげ顔をそらそうとしたが、それを二人が止める。

「「動かないで!!」」

「え、えええ?」
 いきなり頬が熱くなり恐くなったフィリアは、目を閉じた。

 三秒ほどたって頬の熱が収まると、フィリアは恐る恐る目を開けた。
 するとリミィが、鏡を自分にむけてきてフィリアは一瞬、顔を背けた。

 顔に傷をおってからフィリアは鏡が大嫌いだったからだ。
 しかし、そこに映っていたのは…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...