上 下
37 / 79
はじまり

36.決戦当日--01

しおりを挟む
エルキュラート公爵家に魔法使いが現れた翌日のこと…。

イリューリアと、父カルムは王城にむかった。
イリューリアは、親善大使ご一家の案内役として、父は宰相として勤めを果たすべくである。
特にカルムは、今宵は深夜からの闇取引の検挙に向けて今から入念なる打ち合わせの再確認と、準備に忙しい。

そんな、忙しいなか、遅めの昼の食事の時間を潰してカルムは、親善大使一家と語らうイリューリアの所にやって来て話しかけた。

「ご歓談中、失礼します」

「おお、カルム宰相、どうした?今夜の準備で忙しいんじゃなかったのか?」

「ええ、ダルタス将軍(ラフィリアード公爵)、これからまた、今日の内に検挙すべき一族全ての検証に当たります。とにかく闇取引に関わったものは一人たりとも逃す気はないですからね。スピードが命ですね。ただ、今夜は家に戻れそうもないので、娘にちょっと…」

「まあ、宰相様、私たち今から城下にある流行りのカフェに行ってみようと話していたところですのよ?すれ違いにならなくて良かったですわ」と、ラフィリアード公爵婦人ルミアーナが、言うとカルムは、深々とお辞儀をした。

見れば見るほど愛娘にそっくりな…つまりは、亡き妻にも似たルミアーナに微笑まれ思わず顔を赤くするカルムだが、そこは、大人の節度を持って対応する。

(うしろで見ている旦那であるダルタス将軍の目が怖い怖い…。)

「ははは…かたじけないです。ところで、少しばかり娘と、話をさせていただいても?」

「まあ、もちろんですわ」ルミアーナがカルムをイリューリアの隣の席に手招きしてカルムは軽く会釈しイリューリアの隣にすわった。

「イリューリア、今日、わたしは帰れないと思うのだが、一人で大丈夫か?心配だ」

「まぁ、お父様、私はもう小さい子供ではありませんわ。屋敷には家令のジェームズやメイド達もいますのに」

「いや、しかし離れには…」

「まぁ、離れにいるお義母様の事を心配してらっしゃるの?お義母様が、ご心配なら本館の方に来て頂きましょうか?」

「いやいやいや!違う!そんな必要は全くかけらもないから!」

イリューリアは、呪いがとけてもなお、まさか呪っていた張本人が義母だとは夢にも思っていなかったので、この父の反応を不思議に思ったが、照れているのだろうか?と、きょとんとした。

父カルムとしては今すぐにでも真実を告げたいが、まずは義母マルガリータの父や一族を捕えマルガリータの力をそぎ、黒魔石を何とかしてから真実を告げるべきだと考えていた。

今更とはいえ、すべては愛娘の安全を確保した上で、なるべく傷つけずに真実を告げたいのである。
たとえそれが無理でも娘の安全面だけは最低限、確保したいところである。

「まぁ、宰相様、イリューリア嬢がご心配なら私達、今日は王城ではなくてイリューリア様のところへお邪魔してもよろしいかしら?もれなく魔導士のルークもついて来ましてよ?護衛にルークがいれば、魔的な防御は完璧ですし、剣や槍や肉弾戦になっても私の夫、ダルタス将軍に敵う者などおりませんことよ?」と、この国のザッツ将軍をも差しおいて、さらった自分の夫自慢する公爵夫人の言葉にカルムははからずも、めいっぱい納得してしまい大きく頷いた。

ルークは、そしらぬ顔をしながらも、ふっと小さな笑みを漏らしたが、話を聞いていないかのように双子のジーンとリミアの二人をあやしていた。

「おお!ありがたい!それは、なんと有り難いお申し出でしょう!それなら私は心から安心して今日の捕物に集中できます!」カルムは大げさなくらいに感謝の言葉を口にし、ぜひにとこの親善大使一家を招くことを約束した。
あれよあれよと使いの者をだし、屋敷にも客人の泊まり支度をするよう申し付けた。

「まぁっ、お父様!私は小さな子供ではないと言っておりますのにっ!」と少し恥ずかしそうに文句を言うイリューリアだったが、自分の家にルークや天使な子供達が来るのは内心嬉しかった。
もちろんラフィリアード公爵も夫人のルミアーナ様の事も大好きなのでイリューリアに異存がある訳もなく受け入れた。

そして、その日の夜、カルム宰相やザッツ将軍たちは今夜の捕物に向かい、ラフィリアード公爵一家とルークはエルキュラート家の屋敷に泊まり込むこととなったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket
ファンタジー
小国メンデエル王国の第2王女リンスターは、病弱な第1王女の代わりに大国ルーマデュカ王国の王太子に嫁いできた。 政略結婚でしかも歴史だけはあるものの吹けば飛ぶような小国の王女などには見向きもせず、愛人と堂々と王宮で暮らしている王太子と王太子妃のようにふるまう愛人。 まあ、別にあなたには用はないんですよわたくし。 私は私で楽しく過ごすんで、あなたもお好きにどうぞ♡ 【作者注:この物語には、主人公にベタベタベタベタ触りまくる男どもが登場します。お気になる方は閲覧をお控えくださるようお願いいたします】 恋愛要素の強いファンタジーです。 初投稿です。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

婚約破棄上等!私を愛さないあなたなんて要りません

音無砂月
ファンタジー
*幸せは婚約破棄の後にやってくるからタイトル変更 *ジャンルを変更しました。 公爵家長女エマ。15歳の時に母を亡くした。貴族は一年喪に服さないといけない。喪が明けた日、父が愛人と娘を連れてやって来た。新しい母親は平民。一緒に連れて来た子供は一歳違いの妹。名前はマリアナ。 マリアナは可愛く、素直でいい子。すぐに邸に溶け込み、誰もに愛されていた。エマの婚約者であるカールすらも。 誰からも愛され、素直ないい子であるマリアナがエマは気に入らなかった。 家族さえもマリアナを優先する。 マリアナの悪意のない言動がエマの心を深く抉る

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

処理中です...