上 下
3 / 79
初恋の終わり

02.優しいメイド達

しおりを挟む
今日も朝からメイド達が私の髪をとかしてくれる。

「お嬢様、本当に、お美しいですわ。なんて綺麗なプラチナの髪でしょう」

ほうっとため息をつきながら私の髪をすくメイドのマーサは私が生まれた頃からこの屋敷に仕えてくれている。
いわゆる身内贔屓というやつだろう。

自分達の仕えるお嬢様が一番だと思いこんでいる…いわゆる親ばかみたいなものなので、私は鵜呑みにしないように心掛けている。

「ほんとうに、それに透けるような肌で…」と若くはつらつとしたメイドのルルーが言う。

若いメイドは上手い事を言う。

若い…といっても私よりは年上の二十歳のルルーは、流行に敏感で気の利くメイドだ。

ひきこもりの青白い顔の私の肌を透けるような肌だなどと…まるで美しいみたいな言い回しで褒めたたえてくれる。

ものは、言いようだと本当に感心してしまう。

うちのメイド達は本当に優しくて…そういう点では私はとても恵まれていると思う。

「本当に、うちのお嬢様は恵まれていらしゃる。こんなに美しいプラチナの髪とアクアマリンのような美しい瞳、そしてきめ細やかな白い肌!女に生まれてこんなにも幸せなことはありませんよ」とマーサが言う。

ルルーも、うんうんと、さも本当だと言わんばかりに頷く。

はぁ…茶番ね…。

何を言っているのかしら?

プラチナとか銀の髪とかいうけれど、暗いところでみたら、まるで白髪ではないかと自分では思う。

アクアマリンだってダイヤやサファイヤ、エメラルドに比べればさほど高価な石でもない。

はっきりしない水色の瞳を綺麗そうにアクアマリンの瞳だなど言ってはくれるけれど…。
私の場合は、自分を卑下したくはないが、全体的に色素が薄いだけだと思う。

それにメイド達が言うほど自分が素晴らしければ、ローディ様に嫌われる事など無かった筈なのだ。

見え透いたおべっかなど…惨めなだけだ。

(まったく困ったものね。冷静に本当の事を言ってくれるのはお義母様だけね…。お父様は親ばかだし、メイド達は優しすぎて…)と眉をしかめるが、すぐにその考えに首を振る。

(ああ、また、私ったら!彼女たちなりに私を励ましてくれようとしてくれているのに…こんな風に思っては駄目よね…。…)

すぐに自分勝手な考えを反省して私はメイド達の優しさに答えようとにっこりと微笑む。

「「はうっ!」」
二人は、こんな貧相な私の笑顔にも本当にあり得ない程、大袈裟に喜んでくれる。
今も顔を真っ赤にして口元をおさえ、涙目まで?
って…ちょっと大袈裟ではないの?と少し焦ってしまう。

(ひょっとして私って哀れまれているのかしら?)
そんな事を考えてしまう。

それほど私を大切にしてくれるメイド達に私は感謝しているもの、出来れば、もう少しほっておいてくれてもいいのだけれど…と思う。

不出来な私が、よほど心配なのだろう。

「お嬢様、ところで、いよいよ来週でございますね?社交界デビュー!」

「そうそう、去年は体調を崩されて…旦那様がそれは落胆されて…お嬢様、くれぐれも体調管理には気を付けてくださいませね?」

「う…そ、そうね」

そうなのだ。
私が去年、仮病など使って社交界に出なかったことは私だけの事ではすまなかった。
父を落胆させ、メイド達は父から私の世話が行き届いていないと叱られ、周りに多大な迷惑をかけてしまった。

さすがに今年は観念して出席しないとまずいだろう。
私のせいで落ち込むお父様も叱られるメイド達も見たくはない。

せめて少しでもみっともなくない様に…。
目立たなくていいからとにかくきちんとした清楚な格好で…。

自分としては嫌われない程度に静かに過ごせればそれで良い訳で…。

「マーサ、ルルー、私、きちんとした格好で、できるだけ目立たないようにしつらえてほしいの」

「まぁ!何てことを!」

「そうですわ!きちんとしているだけでは駄目です!公爵家の体面というものもございます!」

二人がすごい勢いで息巻くので私は不覚にもたじろいでしまった。

「わ…わかった…わかったから…だったら、出来るだけ、そうね…派手なものより上品な装いに…」と、精いっぱいの抵抗をしてみた。

「「かしこまりました」」

二人のメイド達は何か不敵な笑みを浮かべ拳をあげたのだった。
しおりを挟む
感想 196

あなたにおすすめの小説

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯
恋愛
 侯爵令嬢シルヴィアは、ウィンデリア国で2番目に強い魔力の持ち主。  幼馴染の公爵家嫡男セドリックを幼いころから慕っている。成長につれ彼女の魔力が強くなった結果、困った副作用が生じ、魔法学園に入学することになる。  最短で学園を卒業し、再びセドリックと会えるようになったものの、二人の仲に進展は見られない。  そうこうしているうちに、幼い頃にシルヴィアが魔力で命を救った王太子リチャードから、 「あと半年でセドリックを落とせなかったら、自分の婚約者になってもらう」と告げられる。  その後、王太子の暗殺計画が予知されセドリックもシルヴィアも忙殺される中、シルヴィアは半年で想いを成就させられるのか…。  「小説家になろう」サイトで完結済みです。なろうサイトでは番外編・後日談をシリーズとして投稿しています。

【完結】婚約者にウンザリしていたら、幼馴染が婚約者を奪ってくれた

よどら文鳥
恋愛
「ライアンとは婚約解消したい。幼馴染のミーナから声がかかっているのだ」  婚約者であるオズマとご両親は、私のお父様の稼ぎを期待するようになっていた。  幼馴染でもあるミーナの家は何をやっているのかは知らないが、相当な稼ぎがある。  どうやら金銭目当てで婚約を乗り換えたいようだったので、すぐに承認した。  だが、ミーナのご両親の仕事は、不正を働かせていて現在裁判中であることをオズマ一家も娘であるミーナも知らない。  一方、私はというと、婚約解消された当日、兼ねてから縁談の話をしたかったという侯爵であるサバス様の元へ向かった。 ※設定はかなり緩いお話です。

王女殿下は家出を計画中

ゆうゆう
ファンタジー
出来損ないと言われる第3王女様は家出して、自由を謳歌するために奮闘する 家出の計画を進めようとするうちに、過去に起きた様々な事の真実があきらかになったり、距離を置いていた家族との繋がりを再確認したりするうちに、自分の気持ちの変化にも気付いていく…

処理中です...