目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿

文字の大きさ
上 下
210 / 227
番外編--噂のティムン

300.ティムンの学園生活01~ローガ・ザンガ先生視点

しおりを挟む
 俺は、ローガ・ザンガ!
 ラフィリル王立学園の騎士学科の教諭だ。

 今、最も将来が楽しみだと思える生徒!それが、公爵家嫡男、ティムン・アークフィルだ。

 彼が、学園の騎士学科に入って来たのは、三年前である。

 入学してすぐに大地震がおき、ラフィールとシムに黒魔石が関与したと思われる未曾有の大魔災害が起きた時、泣き叫び狼狽える生徒たちの中、彼だけが一人冷静だったのには驚いた。

 彼は地震の直後から慌てふためく生徒たちを根気よくなだめて落ち着かせてくれた。
 なのに、普段偉そうにしている生徒ほど役立たずだった。

 普段、とても温厚だった彼が良い意味でのにはスカッとした。

 取り乱して他の科の生徒を踏みつけて逃げ出そうとした馬鹿な生徒を一喝し、皆の頭を冷やしたのだ。

「馬鹿者めらっ!それでも誇り高き騎士学科の生徒か!自分より弱い生徒を優先しろっ!自分達は強く優秀だと威張りちらしていたではないか!優秀で強い者は最後でいいはずだろう!」

 彼はそう言い、我先に逃げようとしたクラスメート達を片っ端からしばき倒し後ろに回したのである。

「学士科の生徒の避難が先だ!騎士学科の生徒は魔法学科の生徒と協力しろ!」

「秩序を保て!普段の授業を思いだせ」

「一班から整列して要救護者がいないか確認しつつ、素早く外へっっ!」

 わずかでも誇りのある者は、その言葉に我を取り戻し、ティムンの指示に従った。
 その後、すぐにルミアーナ様による避難通知が空に映り、教師の出る幕がなかったほどに避難はスムーズだった。

 あの時の皆の驚いた顔は見ものだった。

 どんなに腹が立っても、さすがに教師が生徒に手をあげる訳にはいかない!正直助かった。
(騎士団とかに入ってしまえば別だけど)

 いやぁ~!あの時は、ほんっとにスッキリした!

 あの冷静かつ俊敏な判断!そして、その采配!惚れ惚れしたものである。
 あの時の彼の対応は教師たちの間でも後々まで語り草になったものである。
 もはや伝説レジェンドと言っても過言ではない!

 無論、ティムンが次期公爵なのも生徒たちには内緒だ。

 何を隠そう彼は、月の石の主ルミアーナ様の義弟おとうとなのである。

 しかし愚か者どもは、ティムンの腰の低さや柔和な感じから彼の身分を低いものと勝手に勘違いをしているようだ。
 聡い者ならティムンが自らの采配でいずれ人の上に立つべき人間だと感じる筈なのだが愚者の勘違いに思わず苦笑してしまう。

 特に分かっていない愚者は、我先に逃げようとした中途半端に気位の高い中位貴族のボンクラ子息たちだ。

 彼らは、伯爵家や侯爵家の次男だったり三男だったりする訳なのだが…なげかわしい限りである。

 ちなみに比較的にではあるが、跡継ぎたる長男長女らは貴族のなんたるかを諭されて育っているせいか幾分、思慮深いものが多いようだ。

 まあ、それもこれも月の石の主のルミアーナ様が身分をかさにきるような者どもをひどく嫌うので、そのお陰でか、ルミアーナ様に憧れる貴族達にも、そういった考えが浸透してきていると言えるだろう。

 賢い者は賢い者を見習うものだ。

 卒業した後、彼の身分が分かったときの馬鹿な貴族のガキんちょどもの青くなる顔を見るのが楽しみでしょうがない!

 魔法学科主任教諭のキューリエ・ハンス先生によって魔法結界で護られていた学園ではあったが、生徒を避難させた後、崩れ落ちてしまった。
 キューリエは、「あれ以上長くは結界がもたなかっただろう。生徒の避難が早くて助かった」とティムンに感謝していた。

 今は、”月の石の主”ルミアーナ様のご発案で、新たに立ち上げられた、ラフリィリル王立グリンヒル学園と併合されて、貴族も平民もなく一緒の教育を受けるようになった。

 貴族の子供達は、最初こそ戸惑いをみせたものの精霊軍を召喚し、この世界を黒魔石から救って下さったルミアーナ様のご発案に異を唱えるものはいなかった。
 現存する女神のお言葉は聖なるお告げに等しいものだったろう。

 そして、学園の中では、平民、貴族、身分の上下関係なく、姓は伏せられ共に授業を受ける。
 これは、代々、受け継がれてきた、もともとのラフィリル王立学園の頃からの校則と変わらないものだった。
 まぁ、平民の子供が、学園に入ることは、まず無かったが…。
 これはこれで才能ある人材の確保に一役買ったものの、新たな問題も無くはなかった。

 昔からあったことだが在学中は、身分は全てふしてはいるものの生徒たちの間であらかじめ予測を立てているのだ。

 付き合う相手が自分の身分とつり合うかどうか、自分よりも上か下か…。

 聡い者はそんな事は気にせず自らを律し、それぞれの学問にはげむが、愚かな者は学園の志を無視してまでも身分や地位にこだわり、周りの人間を推し量るのだ。

 そして、ティムンは公爵家の跡取り息子にも関わらず、そんな奴らに”多分低い身分の貴族”として認識されているようだ。
(もともとジャニカ皇国の皇子の小間使いをしていたこともあるらしい彼は、腰が低い。)

 話し方は穏やかでやさしく控えめだ。
 普段は余程の事がない限り声をあらげる事もない。
 それは、自分が侮られ馬鹿にされたとしてもだ。

 だが、ティムンは養子とはいえ国王にも認められた正式なラフィリアード家の跡取りなのだ。

 座学でも実技でも彼に敵うものはいない。
 それが馬鹿な貴族のボンボン達には癪にさわるのだろう。

 愚か者たちめが!

 彼、ティムンの卒業は、本当に本当に楽しみだ。
 彼の身分を知った時の馬鹿者どもの後悔と懺悔!そしてお馬鹿の烙印!
 在学中に馬鹿が治らない奴にはいいお仕置になるだろう!

 多分、俺以外の先生方もそう思っているに違いない。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 セントフェアファクス皇国徒士家、レイ家の長女ラナはどうしても持参金を用意できなかった。だから幼馴染のニコラに自分から婚約破棄を申し出た。しかし自分はともかく妹たちは幸せにしたたい。だから得意の槍術を生かして冒険者として生きていく決断をした。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...