142 / 227
ところ変われば次期公爵?
142.ティムンのこれから-1
しおりを挟む
ダルタスとルミアーナは、正式な結婚式も無事に終えて幸せいっぱいだったが、ダルタスの方は駆け落ち中に溜まりに溜まりまくった仕事を片付けなければならなくなり新婚でありながら、しばらくはまとまった休みなく仕事漬けになりそうである。
「新婚旅行にすら行けなくてすまない」とダルタスは謝ったが、ルミアーナは明るく笑い飛ばした。
「あら、ダルタス様、全然大丈夫よ!数日とはいえ、(駆け落ちした)隣の国での丸太小屋生活も楽しかったし、普通の新婚旅行よりよほど思い出に残る旅になったわ!お仕事がんばって!私は実家に行ってティムンの学校の事とか相談してくるから」
「そうか、ちょっとくらい寂しがってほしい気もするが…まぁ、お前も忙しいんなら、かえって良かったのか…」
「ふふふっ!午後の訓練の時間にはティムンと一緒に見学にいってもいいかしら?近衛騎士団ウルバ隊の方にも顔をだしたいし!」
「大歓迎だ!じゃあ、必死で仕事を片付けなきゃだな」とダルタスは笑った。
ダルタスはルミアーナと結婚してからよく笑うようになった。
昔の知り合いや部下がが見たら、さぞかし驚くことだろう。
「良かった、じゃあ、後でね?いってらっしゃい!私もお婆様に朝のご挨拶だけしたら出るわね」とダルタスのほっぺにキスして見送り、ルミアーナは実家に向かうのだった。
***
ラフィリルの学校の制度は、一般的には、富裕層や貴族に対するものだが、専攻する学科によってさまざまである。
基本的に読み書きなどは最低限十歳までに各家庭で習得してからの入学である。
家人から教わったり、余裕のある家庭では家庭教師などから学ぶことがほとんどである。
学士学科ではいわゆる歴史や地理、語学や化学といったようなお勉強をする。
日本でいうところの普通科のような感じである。
魔法学科などは特殊で、もともとの素養が必須である。
許容値以上の素養が早く見つかった子供はその時点で神殿預かりとなり、入学までの何年かをすごすことになる。
その場合、七~八才からの早期入学の制度がとられる事が多い。
魔法力の強い子供はその力を制御できるようになるまでは実家に帰ることすら出来ず神殿から通う事になる。
これは、王族ですら従わなければならない決まり事である。
それ故に生まれつき豊富な魔法力の素養が見られたルーク王子も幼児期から神殿預かりとなり、王城で暮らすようになったのは学校を卒業した十五歳の春頃からだった。
これは、身に余る魔力が暴走したり邪気に取り付かれ利用されるのを防ぐための措置である。
そして騎士学科では剣技、弓技、馬術、体技等を鍛え、兵法を学ぶ。
どの学科も一番最初の一年間は基礎学習から始まるが、専攻授業がありそれぞれの特性を生かしていくことを目指す。
「さて、大体、学校の説明は、こんな感じだ。どれにする?」と、父となったアークフィル公爵が、ティムンに聞いた。
「あら?お父様、お父様の跡継ぎならば騎士学科に行くのでは?」とルミアーナが、疑問におもって聞いた。
「いや?公爵家さえ継いでくれるのなら別に騎士でなくてもよかろう。本人の希望が一番だしな。ただ血筋は残さなければならないので、できれば私の親族の娘たちの誰かと婚約してほしいと言うのはあるがな…」
「えええっ?もう婚約者?ティムンはまだ十歳よ?」
「いやいや、お前だって小さい頃から王太子の妃候補だったし、珍しい事じゃないぞ?お前、本当に記憶がいろんなところで抜けたままなんだな?可哀想に…」と父が眉をひそめる。
「いえ、お父様、大丈夫です。今、とっても幸せですから…でもティムンはそれでいいの?」と改めてティムンに向き合う。
「あ、え~と…貴族間の結婚のほとんどが親が決めたものになることは、僕もわかってはいますが…僕はむしろ、僕なんかと婚約させられるご令嬢が、お気の毒です。そもそも僕に公爵家の跡継ぎなんて…召使として置いて頂ければそれだけで幸せだ今でも本当におもって…」
「まぁだ、そんな事をいってるのか!」とティムンが言葉を言い終える前にアークフィル公爵が口を挟んだ。
「お前は、もう既に私の息子でルミアーナの弟だ!ほら!これを見ろ!」と三枚の書状を開いた。
そこには三枚それぞれにジャニカ皇国、皇王からとラフィリル国、国王の署名と印の入った養子縁組の内容が記されていた。
「まぁ!お父様、相変わらず仕事がはやいですわね!」とルミアーナが絶賛する。
「そうよ!お父様はこういう事はなんでも早いのよ!ルミアーナのお見合いの時もそうだったでしょう?」と母ルミネが誇らしげに言う。
そうだった!とルミアーナは思い返した。
あの時も、その日のうちに王城に早馬を走らせて国王陛下の承諾をもぎ取ったのである。
娘と妻からの賛辞に気を良くした父アークフィル公は、ティムンの頭をぐりぐり撫でていう。
「この書類はジャニカ皇国、ラフィリル王国をまたいでの正式な書類だ!我が家で一枚、ラフィリアード家で一枚、そしてもう一枚はティムン本人が持つものだ。この養子縁組は、この三者のうちの一人でも異を唱えたのならば解消出来ない神聖なものである!」
「まぁ、幸い私の兄弟の娘たち、つまりルミアーナやお前と従妹になる娘たちだが十三歳が一番上で下は七歳までで三人もいるからな…お互い好きになれそうな相手を選ぶと良い」と三人の絵姿を見せてくれた。
「どうだ?ルミアーナほどではないものの、中々可愛らしいだろう?」
「す…好きにって…僕、そんなの分かりません」
「まぁまぁ、お父様、さすがにまだ十歳の初恋すらまだの少年に未来の花嫁を自分で決めろ!なんて難しいわ!」
「そうよ、あなた。それだったらいっその事、私達親が決めたほうがまだましじゃなくて?」
「でも、血筋を残すのってそんなに大事?」と、ルミアーナが訪ねる。
「それは、そうだ!血族を残していけば、お前の様な月の石の主がいずれまた何百年後かに現れ、世界を浄化に導く月の石もその時生まれるだろうて」
「な、なるほど、血を残すって全ては始祖からの血族を切らさないためだったのね。そう言えば、ルーク王子も王家は特にそれを気をつけているって言ってたような…」
「そういう事だ。王家と公爵家はあくまでも近親婚にはならないようにだが、特にそこを重視している。とにかく途切れさせないことが重要なのだ。」
「そうだわ!あなた、そんなに無理に今から婚約者を決めなくてもルミアーナ達に娘が生まれたらその子をティムンのお嫁さんにしたら良いのではなくて?」
「えええっ!」とティムンとルミアーナも真っ赤になって驚く。
「ああ、それはいい!それはいいな!」
「そういうことなら、今から婚約者を決めてしまうのは、やめておこう」
「とりあえず、ティムン、お前はルミアーナの!ひいては、わたしアークフィル公爵の眼鏡にかなったのだ!観念せよ!」
「それですよ!それが不思議でしょうがないんです!なんで僕なんですか?僕なんて、たまたま魔物から助けられただけの人間なのに…そんなのおかしいでしょう?」
ティムンの当然ともいえるその質問にアークフィル公爵はにやっと笑った。
「おまえな、ルミアーナはともかく私が、お前を公爵家跡継ぎと認めたのは保護したいとか可愛いとか、それだけじゃないぞ?」
「は?」とティムンは訳がわからないという表情をした。
「魔物が喰らおうとするのは、とびきり極上の魂の人間だけだ。中途半端な人間は操って利用しようとするだけだからな。極上の魂は喰らって身の内に取り込んでしまおうとするんだ。つまりお前の魂は神殿の祭司たちにも劣らない高貴なものだという事だ」
「まぁ、そうだったの?」とルミアーナが感心する。
「そうよ、ルミアーナっては本ばかり読んでいたのに、そんな事も知らずにティムンを引きとると言ったの?」と母に呆れられる。
「そっか、いやに、すんなり認めてもらえるなぁ~?とは思っていたのよね」てへっと笑ってごまかすルミアーナである。
「まぁ、ルミアーナってば」と、ほほほ、うふふと笑い合う母娘である。
「しかも魔物に飲み混まれていたというのに、魂が消滅していなかったというではないか?つまり魂の強さも立証済みという事だ。いくらルミアーナが月の石で浄化したといっても魂が消滅した後なら浄化もできなかっただろうしな!フォーリーからお前の伝言でティムンの事を聞いた瞬間から、我がアークフィル家で養子にしようと思っていたわ!わはははは」と公爵は豪快に笑いとばした。
「なるほど!さすが、お父様!尊敬ですわ!」とルミアーナが相槌をうちティムンはあとずさる。
「ティムン、魔物は側にいたジャニカ皇国の皇子ではなくお前を喰らったのだろう?」
「そ、それは、僕がアルフォンゾ様を庇おうと前に立ったから…」と遠慮がちにティムンがいうと
「前にいたって邪魔なら殺して排除するだけだ。魔物は極上の者以外は口にしない。我が国の大神殿で魔物に取り込まれたのが神殿長や、選ばれし高位の神官達だけだった事からもわかる。つまり、お前は皇国の皇子よりも美しく気高い魂を持っていたという事だ!」
「そ…そんな、買い被りです。アルフォンゾ様よりもなんて、恐れ多い…」と、うつむく。
「おまけに、わずか十歳にして謙虚さまで併せ持つとは、ますます喜ばしい!」
「本当に!ルミアーナはよくもまぁ、こんな良い子を連れ帰ったものです」とルミネも満足そうな微笑みでティムンを引き寄せ頭をなでる。
「まぁ、お母様ずるいですわ!私もティムンを可愛がりたい」とルミアーナまでティムンの頭をわさわさとなでまわす。
「か!堪忍してくださぁ~い!」とティムンは真っ赤になりながら母と姉から逃れて公爵の陰に隠れた。
「まぁ、ルミネとルミアーナは単に可愛いからみたいだが、とにかく私はお前には並々ならぬ大貴族たる資質があると確信している。自分が信じられんのならこの父を信じろ。お前が嫌がってももう、お前は私の息子なのだ」と胸をたたいた。
「そうよ、そして私が母よ」とルミネが言う。
「そうよ、そして私がお姉さまなんだからね」とルミアーナがウィンクした。
テイムンは感極まって暫く言葉を失いうつむいたが、覚悟をきめたように顔をあげた。
「僕…僕、がんばります。父上や母上、そして姉さまに恥をかかせないように!」その瞳はうっすらと涙でうるみ、でもキッと前を見据えて力強く言い切った。
「おう!がんばれ!」と父、アークフィル公爵もティムンの頭をなでた。
「じゃあ、とにかく学校での専攻学科選びね!」
「でも、僕。自分が何に向いているのかってまだ良く分からなくて…」
「そうか、そうだなぁ…魔物に狙われるって事は実は魔力の素養もあるかもしれないし、一度ルーク王子にもみてもらって相談してみてはどうかと思うんだが…ダルタス将軍の意見も聞きたいしな…」
「それなら、ちょうど午後からダルタス様の訓練の時に差し入れを持ってお城に行こうと思っていたから、ついでにルーク王子のとこにもよってみようかしら?お父様もいく?」
「うむ、そうだな。大事な跡取り息子のことだしな。よし、行こう」
そしてアークフィル公爵とルミアーナ、ティムンの三人は、その日の午後、王城へ向かう事となった。
「新婚旅行にすら行けなくてすまない」とダルタスは謝ったが、ルミアーナは明るく笑い飛ばした。
「あら、ダルタス様、全然大丈夫よ!数日とはいえ、(駆け落ちした)隣の国での丸太小屋生活も楽しかったし、普通の新婚旅行よりよほど思い出に残る旅になったわ!お仕事がんばって!私は実家に行ってティムンの学校の事とか相談してくるから」
「そうか、ちょっとくらい寂しがってほしい気もするが…まぁ、お前も忙しいんなら、かえって良かったのか…」
「ふふふっ!午後の訓練の時間にはティムンと一緒に見学にいってもいいかしら?近衛騎士団ウルバ隊の方にも顔をだしたいし!」
「大歓迎だ!じゃあ、必死で仕事を片付けなきゃだな」とダルタスは笑った。
ダルタスはルミアーナと結婚してからよく笑うようになった。
昔の知り合いや部下がが見たら、さぞかし驚くことだろう。
「良かった、じゃあ、後でね?いってらっしゃい!私もお婆様に朝のご挨拶だけしたら出るわね」とダルタスのほっぺにキスして見送り、ルミアーナは実家に向かうのだった。
***
ラフィリルの学校の制度は、一般的には、富裕層や貴族に対するものだが、専攻する学科によってさまざまである。
基本的に読み書きなどは最低限十歳までに各家庭で習得してからの入学である。
家人から教わったり、余裕のある家庭では家庭教師などから学ぶことがほとんどである。
学士学科ではいわゆる歴史や地理、語学や化学といったようなお勉強をする。
日本でいうところの普通科のような感じである。
魔法学科などは特殊で、もともとの素養が必須である。
許容値以上の素養が早く見つかった子供はその時点で神殿預かりとなり、入学までの何年かをすごすことになる。
その場合、七~八才からの早期入学の制度がとられる事が多い。
魔法力の強い子供はその力を制御できるようになるまでは実家に帰ることすら出来ず神殿から通う事になる。
これは、王族ですら従わなければならない決まり事である。
それ故に生まれつき豊富な魔法力の素養が見られたルーク王子も幼児期から神殿預かりとなり、王城で暮らすようになったのは学校を卒業した十五歳の春頃からだった。
これは、身に余る魔力が暴走したり邪気に取り付かれ利用されるのを防ぐための措置である。
そして騎士学科では剣技、弓技、馬術、体技等を鍛え、兵法を学ぶ。
どの学科も一番最初の一年間は基礎学習から始まるが、専攻授業がありそれぞれの特性を生かしていくことを目指す。
「さて、大体、学校の説明は、こんな感じだ。どれにする?」と、父となったアークフィル公爵が、ティムンに聞いた。
「あら?お父様、お父様の跡継ぎならば騎士学科に行くのでは?」とルミアーナが、疑問におもって聞いた。
「いや?公爵家さえ継いでくれるのなら別に騎士でなくてもよかろう。本人の希望が一番だしな。ただ血筋は残さなければならないので、できれば私の親族の娘たちの誰かと婚約してほしいと言うのはあるがな…」
「えええっ?もう婚約者?ティムンはまだ十歳よ?」
「いやいや、お前だって小さい頃から王太子の妃候補だったし、珍しい事じゃないぞ?お前、本当に記憶がいろんなところで抜けたままなんだな?可哀想に…」と父が眉をひそめる。
「いえ、お父様、大丈夫です。今、とっても幸せですから…でもティムンはそれでいいの?」と改めてティムンに向き合う。
「あ、え~と…貴族間の結婚のほとんどが親が決めたものになることは、僕もわかってはいますが…僕はむしろ、僕なんかと婚約させられるご令嬢が、お気の毒です。そもそも僕に公爵家の跡継ぎなんて…召使として置いて頂ければそれだけで幸せだ今でも本当におもって…」
「まぁだ、そんな事をいってるのか!」とティムンが言葉を言い終える前にアークフィル公爵が口を挟んだ。
「お前は、もう既に私の息子でルミアーナの弟だ!ほら!これを見ろ!」と三枚の書状を開いた。
そこには三枚それぞれにジャニカ皇国、皇王からとラフィリル国、国王の署名と印の入った養子縁組の内容が記されていた。
「まぁ!お父様、相変わらず仕事がはやいですわね!」とルミアーナが絶賛する。
「そうよ!お父様はこういう事はなんでも早いのよ!ルミアーナのお見合いの時もそうだったでしょう?」と母ルミネが誇らしげに言う。
そうだった!とルミアーナは思い返した。
あの時も、その日のうちに王城に早馬を走らせて国王陛下の承諾をもぎ取ったのである。
娘と妻からの賛辞に気を良くした父アークフィル公は、ティムンの頭をぐりぐり撫でていう。
「この書類はジャニカ皇国、ラフィリル王国をまたいでの正式な書類だ!我が家で一枚、ラフィリアード家で一枚、そしてもう一枚はティムン本人が持つものだ。この養子縁組は、この三者のうちの一人でも異を唱えたのならば解消出来ない神聖なものである!」
「まぁ、幸い私の兄弟の娘たち、つまりルミアーナやお前と従妹になる娘たちだが十三歳が一番上で下は七歳までで三人もいるからな…お互い好きになれそうな相手を選ぶと良い」と三人の絵姿を見せてくれた。
「どうだ?ルミアーナほどではないものの、中々可愛らしいだろう?」
「す…好きにって…僕、そんなの分かりません」
「まぁまぁ、お父様、さすがにまだ十歳の初恋すらまだの少年に未来の花嫁を自分で決めろ!なんて難しいわ!」
「そうよ、あなた。それだったらいっその事、私達親が決めたほうがまだましじゃなくて?」
「でも、血筋を残すのってそんなに大事?」と、ルミアーナが訪ねる。
「それは、そうだ!血族を残していけば、お前の様な月の石の主がいずれまた何百年後かに現れ、世界を浄化に導く月の石もその時生まれるだろうて」
「な、なるほど、血を残すって全ては始祖からの血族を切らさないためだったのね。そう言えば、ルーク王子も王家は特にそれを気をつけているって言ってたような…」
「そういう事だ。王家と公爵家はあくまでも近親婚にはならないようにだが、特にそこを重視している。とにかく途切れさせないことが重要なのだ。」
「そうだわ!あなた、そんなに無理に今から婚約者を決めなくてもルミアーナ達に娘が生まれたらその子をティムンのお嫁さんにしたら良いのではなくて?」
「えええっ!」とティムンとルミアーナも真っ赤になって驚く。
「ああ、それはいい!それはいいな!」
「そういうことなら、今から婚約者を決めてしまうのは、やめておこう」
「とりあえず、ティムン、お前はルミアーナの!ひいては、わたしアークフィル公爵の眼鏡にかなったのだ!観念せよ!」
「それですよ!それが不思議でしょうがないんです!なんで僕なんですか?僕なんて、たまたま魔物から助けられただけの人間なのに…そんなのおかしいでしょう?」
ティムンの当然ともいえるその質問にアークフィル公爵はにやっと笑った。
「おまえな、ルミアーナはともかく私が、お前を公爵家跡継ぎと認めたのは保護したいとか可愛いとか、それだけじゃないぞ?」
「は?」とティムンは訳がわからないという表情をした。
「魔物が喰らおうとするのは、とびきり極上の魂の人間だけだ。中途半端な人間は操って利用しようとするだけだからな。極上の魂は喰らって身の内に取り込んでしまおうとするんだ。つまりお前の魂は神殿の祭司たちにも劣らない高貴なものだという事だ」
「まぁ、そうだったの?」とルミアーナが感心する。
「そうよ、ルミアーナっては本ばかり読んでいたのに、そんな事も知らずにティムンを引きとると言ったの?」と母に呆れられる。
「そっか、いやに、すんなり認めてもらえるなぁ~?とは思っていたのよね」てへっと笑ってごまかすルミアーナである。
「まぁ、ルミアーナってば」と、ほほほ、うふふと笑い合う母娘である。
「しかも魔物に飲み混まれていたというのに、魂が消滅していなかったというではないか?つまり魂の強さも立証済みという事だ。いくらルミアーナが月の石で浄化したといっても魂が消滅した後なら浄化もできなかっただろうしな!フォーリーからお前の伝言でティムンの事を聞いた瞬間から、我がアークフィル家で養子にしようと思っていたわ!わはははは」と公爵は豪快に笑いとばした。
「なるほど!さすが、お父様!尊敬ですわ!」とルミアーナが相槌をうちティムンはあとずさる。
「ティムン、魔物は側にいたジャニカ皇国の皇子ではなくお前を喰らったのだろう?」
「そ、それは、僕がアルフォンゾ様を庇おうと前に立ったから…」と遠慮がちにティムンがいうと
「前にいたって邪魔なら殺して排除するだけだ。魔物は極上の者以外は口にしない。我が国の大神殿で魔物に取り込まれたのが神殿長や、選ばれし高位の神官達だけだった事からもわかる。つまり、お前は皇国の皇子よりも美しく気高い魂を持っていたという事だ!」
「そ…そんな、買い被りです。アルフォンゾ様よりもなんて、恐れ多い…」と、うつむく。
「おまけに、わずか十歳にして謙虚さまで併せ持つとは、ますます喜ばしい!」
「本当に!ルミアーナはよくもまぁ、こんな良い子を連れ帰ったものです」とルミネも満足そうな微笑みでティムンを引き寄せ頭をなでる。
「まぁ、お母様ずるいですわ!私もティムンを可愛がりたい」とルミアーナまでティムンの頭をわさわさとなでまわす。
「か!堪忍してくださぁ~い!」とティムンは真っ赤になりながら母と姉から逃れて公爵の陰に隠れた。
「まぁ、ルミネとルミアーナは単に可愛いからみたいだが、とにかく私はお前には並々ならぬ大貴族たる資質があると確信している。自分が信じられんのならこの父を信じろ。お前が嫌がってももう、お前は私の息子なのだ」と胸をたたいた。
「そうよ、そして私が母よ」とルミネが言う。
「そうよ、そして私がお姉さまなんだからね」とルミアーナがウィンクした。
テイムンは感極まって暫く言葉を失いうつむいたが、覚悟をきめたように顔をあげた。
「僕…僕、がんばります。父上や母上、そして姉さまに恥をかかせないように!」その瞳はうっすらと涙でうるみ、でもキッと前を見据えて力強く言い切った。
「おう!がんばれ!」と父、アークフィル公爵もティムンの頭をなでた。
「じゃあ、とにかく学校での専攻学科選びね!」
「でも、僕。自分が何に向いているのかってまだ良く分からなくて…」
「そうか、そうだなぁ…魔物に狙われるって事は実は魔力の素養もあるかもしれないし、一度ルーク王子にもみてもらって相談してみてはどうかと思うんだが…ダルタス将軍の意見も聞きたいしな…」
「それなら、ちょうど午後からダルタス様の訓練の時に差し入れを持ってお城に行こうと思っていたから、ついでにルーク王子のとこにもよってみようかしら?お父様もいく?」
「うむ、そうだな。大事な跡取り息子のことだしな。よし、行こう」
そしてアークフィル公爵とルミアーナ、ティムンの三人は、その日の午後、王城へ向かう事となった。
23
お気に入りに追加
2,776
あなたにおすすめの小説
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる