目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿

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ところ変われば姫!時々、騎士見習い!

77.その頃、王城は?

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 次の日の朝、二人は宿を後にし国境を越えた。

 "駆け落ち"と事情を知るポーラが宿屋の亭主にこっそり頼んでくれていたので、亭主の伝手で通行手形をもつ行商の一向に紛れ込む事ができた。

 警備の薄い山越えも考えていたが、楽にすんで良かったとダルタスは思った。
 いきなり飛び込みで入った店の店員までもが、ルミアーナには心を許し助けになろうと心を尽くす。
 全く、規格外な人タラシな婚約者に思わず苦笑してしまうダルタスだった。

 ***

 一方、そのとき、王城では王妃のみならずこの国の要でもあるアルフ将軍やカーク将軍にまで、今回のルミアーナの気持ちを無視した結婚取止めの宣言にダメ出しされて国王は項垂れていた。
 何せ、味方だと思っていたディムトリア老師までもが皆の意見に賛同したのである。

 ラフィリルの王は、重臣たちの意見を聞かぬ様な愚かな王ではなかった。
(ちょっとばかり、迂闊なところがあるだけである)

 直ちに自分の浅慮せんりょを認め、二人の結婚を祝福するとその場にいた全員に宣言したが、ダルタスは飛び出していった後である。

「取りあえず、ルミアーナに王が二人の結婚に賛成してくれた事を伝えたいんだけど…どんだけ呼びかけても月の石での通信が、つながらないんだよね…」とルーク王子が困り顔で言うと

「あら、それは当たり前よ!あれだけ大好きでたまらない恋人が自分をさらいに来たのよ?もう今はルミアーナはきっと夢心地でダルタスの事しか頭になくってよ?」と王妃がいう。

「全くですわ!あのすごい勢いでルミアーナをさらいに来たダルタス将軍は、なかなかのものでしたわ!さすがは娘が愛する方ですわ!恋人にあんなふうに男らしく浚われてときめかぬ娘はおりませんでしょうよ?」と母親のルミネが満足そうに言う。

「まぁ、まぁルミネ様!そのように言ってもらえるなんて、ありがたいですわ!本当にあんな息子で宜しいのですか?」ダルタスの母であるネルデアは嬉しく思いながらも恐縮した。

「何をおっしゃるか!娘はダルタス殿一筋ですぞ!ダルタス殿は我ら武将が尊敬崇拝するお方ですからな!我が娘は本当に見る目がある賢き娘で!」と、もう娘をほめてるんだかダルタスをほめてるんだかわからないアークフィル公爵まで会話に入ってきて皆が二人の逃避行をはやし立てている。

「いやぁ~、帰って来たら孫がいたりしてな!」
「まぁっ!楽しみですわね~」とはしゃいでいる。
(婿のダルタスはルミアーナの名誉を重んじて拷問のようなお預け状態を我慢しているというのに、全くもって親たちは、お気楽なものである)

「え~、こほん。皆さま落ち着いて下さりませ。ルミアーナ様とダルタス将軍は今、結婚を許されないと思いこみ逃避行してらっしゃるのですよ?」と騎士リゼラが冷静に皆に意見した。

「愛の逃避行ね!きゃっ、素敵」と王妃はうきうきである。

「母上!ちゃかさない!」とアクルス王太子が言う。

「こほん!王太子殿下。冷静なご意見ありがとうございます。皆様!問題はお二人に、この状況をどうやってお伝えするのか!ですわ。このままではお二人はとっとと国外逃亡してしまい二度とこの国には戻ってまいりませんわよ?」とリゼラが言うと皆が「「「「うっ!」」」」」と固まった。

陛下あなたのせいですわよ!どういたしますのっ!」と王妃が国王にむかって叫ぶ。
(王の尊厳などこの件で地に落ちまくりである)

「き、妃よ!落ち着け。わかった!私が悪かった!そ、そうだ。国中にふれを出そう!二人の結婚を王家が祝福すると!」

「だぁ~かぁ~らぁ~!国中っていったって、二人はもう、とっとと国を出ちゃってるのかもしれないのょぅぅぅ!」と王妃がヒステリックに叫ぶ。

「はいはい、落ち着いて落ち着いて!母上、父上、大丈夫です。二人の性格からいってまず、心中とかはありえないし、時間はかかるかも知れませんが、ルミアーナも多少冷静になってくれば月の石からの呼びかけに気づくでしょう。僕やリゼラとフォーリーで日に何度か呼びかければ、そのうち気づきますって…まぁ、それまでにどっかの小さな教会とかで結婚式とかはすませちゃってるかもしれないですけどね…」と一番冷静なルークが言った。

「あああ~、じゃあルミアーナの月の石を生み出す力は…」と国王がついこぼすと

「貴方は、まだそんな事を~」と王妃が怒りの声をあげながら王の首をしめた。

「ま、まぁまぁ、国王陛下。結婚したからといって御力みちからがなくなると決まったものではないし、仮にもし無くなっても既に嬢ちゃんは、これほどの量の月の石を生み出して下さっていますから、各神殿に配布されれば宜しかろう?」と、アルフ将軍は”月の小石達”をどさっと円卓の上に置いた。

 ネルデアの庭でルミアーナに生み出され、とりあえずかき集められたそれは、大きな大きな両手で持つのがやっとなくらい大きな袋にパンパンに詰められていた。

「「「なっ…なんと!」」」

 その量に王もディムトリア老師もルーク王子も驚いた!
(ネルデア邸にいた者達はもう既に驚き済みである)

 ル…ルミアーナ…恐るべし…!である。

「ああ、そうだ。まだ拾いきれなかったのが、いっぱい落ちてましたよ…」と、カーク将軍が楽しそうに言葉をつけたす。

 王も老師もルークも思わず言葉をなくしたが、しばらくしてルークがふりしぼるように言葉をはいた。

「あ…あと三百年くらい邪気に煩わされることはなくなりそうだね…ははは」

 何だろう、もうみんなちょっと魂が抜け落ちかけているような感じである。

「は…ははは…。そうだな…二人の結婚式は…国を挙げて祝おう…まぁ二人だけで挙げてても、もう一回すればいいだろう…」と、王が言った。

 王太子は微妙な表情だ。笑うに笑えない感じでおし黙っている。
 ルークも苦笑いしたまま固まっている。

 ところが、どっこい、女達は強かった!

「あらっ!陛下!そうですわね…それがいいわ!じゃあ、ルーク!リゼラ!フォーリーはあの二人が気づくまで交代で日に三度は呼びかけてね!私たちは式の準備をしながら二人の帰りを待ちましょう!」と王妃が明るい声で言い放つと女達はもうそっちに気持ちが集中したようである。

「それは良い案ですわ!」とルミネもネルデアも大乗り気である。
 リゼラとフォーリーも手を合わせてきゃあっと歓喜の声をあげてとびあがって喜んだ。

 そうして、王城では、皆が全力で二人を迎えるべく準備を始めるのであった。
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