102 / 107
四の巻~平成美女は平安(ぽい?)世界で~
102.御仏の手のひらで…(壱)By扶久子
しおりを挟む
それは、少しばかり時をさかのぼり、この隠れ屋敷に来たばかりの頃の事。
私、扶久子は自分ばかりが幸せなことが気がかりだった。
自分の事が好きで好きでたまらない亜里沙。
もちろん自分だって亜里沙の事が大好きである。
小さいころから親友で血のつながった姉妹以上に仲良く幼稚園も小学校も中学校も習い事からクラブ活動に至るまで共に過ごしてきた。
互いの家も仲良くお互いの家にもよく泊まりに行ったものだった。
奇麗で優しくて勝気な亜里沙が親友な事が自慢で誇らしかった。
だからこそ思う。
このまま、私だけが幸せでいい筈がない。
亜里沙にも素敵な人と出会って恋をして幸せになってほしいと思う。
けれど、亜里沙は、これまで異性には目もくれず私にばかり好意を示し自分に尽くしてくれた。
それはもはや友情なんてものは越えていて、前世からの因縁でもあるのではなかろうかと思うほどに…。
そう、実際のところ前世からの因縁がありまくりなのだが、この時の私はまだそれに気づいていなかった。
それは、隆が現れた夜だった。
その日、私は夢を見たのだ。
それは、自分がこの平安の世の女東宮で、自分に仕える尚侍がなんと亜里沙だという夢だった。
亜里沙は若槻の尚侍…そう呼ばれていた。
明るく賢く勝気な若槻の尚侍は、いつも自分を支え心から尽くしてくれていた。
私はその若槻の尚侍を姉のように慕っていた。
そして…それは突然の事だった。
柔らかな日差しも心地よいそんな春の日だった。
いきなり空がかき曇り雷が建屋を襲ったのだ!
突然の稲光に私は驚きのあまり動くこともままならなかったのに尚侍は女東宮である自分を庇おうとして一緒にその閃光を身に受けたのだ。
私は思った。
嫌!なぜ私たちが、命を落とさねばならないのか!
閃光に包まれた瞬間、私は御仏に願った。
どうか尚侍だけでも助けてほしい!
それが叶わぬのならせめて生まれ変わったら私の従者などではなく幸せになってほしい。
大好きな尚侍に誰よりも幸せになってほしいと心の底から願ったのだ。
そして、次の瞬間、真っ白な世界に私は一人立っていた。
「ここは…一体…はっ!若槻の尚侍はっ?尚侍っ!どこ?無事なの?」
私は、必死で叫んだ。
すると、誰かが心の中に語りかけてきた。
『願いは聞き届けた。二人は生まれ変わり再び友として出会い今度こそ幸せな一生を送れるでしょう』
「誰?まさか御仏?神様?」そう心の中でつぶやくとまたその声は私の中に響いてきた。
『そう…我は人間の輪廻を司りしもの…仏と呼ぶものもおれば神と呼ぶものもおる』
「っ!御仏さま、生まれ変わる…ということは、やはり私たちは死んだのですね?突然の光と衝撃!あれは雷ですね?何故、私たちがそのような目に合うのでしょう?私たちは信心も深く日々、お経を唱え御仏を敬って生きてまいりました。それなのに何故このような罰をお与えになられたのでしょう」
私は恐れ多くも御仏に対し恨みがましい気持ちでそう問うてしまった。
「なぜ?」そんな気持ちを心の内で隠すことなどできなかったのである。
『罰などではない。其方らの死は不幸な事故であった。しかし、其方の言う通り其方らは信心深く常に仏を敬い清き心で生きてきた。そして死の瞬間、其方たち二人は互いに自分の事ではなく相手の事を心から案じていた。そこで我は其方たちの願いをひとつずつ叶えることにしたのだ』
「まぁ、それは、一体…?はっ!そうです。若槻の尚侍は?尚侍はどこに?」
『あのものは既に輪廻の輪に入った。あの者の願いは生まれ変わっても其方の側で其方の幸せの為に尽くしたいというものであった故、其方が生まれ変わるときに同じ時期に生まれるよう計らった』
「ああ…尚侍はそんなにまでして私を心配して…」
『そして其方は、あの者が従者などではなく自分に縛られることなく幸せになってほしいと願った』
「そう!そうです。私は尚侍には今度こそ従者などではなく一人の人間として幸せになってほしいのです」私は万感の思いを込めてそう叫んだ。
『そう、もちろん其方の願いも聞き届けよう。二人は生まれ変わり、仲の良い幼馴染として今度こそ幸せな縁を紡いで次の世に送ろう…さあ、目を閉じて…』
御仏に言われるがまま私は目を閉じた。
そして私の魂は御仏の手によって輪廻転生の輪に導かれたのだった。
私、扶久子は自分ばかりが幸せなことが気がかりだった。
自分の事が好きで好きでたまらない亜里沙。
もちろん自分だって亜里沙の事が大好きである。
小さいころから親友で血のつながった姉妹以上に仲良く幼稚園も小学校も中学校も習い事からクラブ活動に至るまで共に過ごしてきた。
互いの家も仲良くお互いの家にもよく泊まりに行ったものだった。
奇麗で優しくて勝気な亜里沙が親友な事が自慢で誇らしかった。
だからこそ思う。
このまま、私だけが幸せでいい筈がない。
亜里沙にも素敵な人と出会って恋をして幸せになってほしいと思う。
けれど、亜里沙は、これまで異性には目もくれず私にばかり好意を示し自分に尽くしてくれた。
それはもはや友情なんてものは越えていて、前世からの因縁でもあるのではなかろうかと思うほどに…。
そう、実際のところ前世からの因縁がありまくりなのだが、この時の私はまだそれに気づいていなかった。
それは、隆が現れた夜だった。
その日、私は夢を見たのだ。
それは、自分がこの平安の世の女東宮で、自分に仕える尚侍がなんと亜里沙だという夢だった。
亜里沙は若槻の尚侍…そう呼ばれていた。
明るく賢く勝気な若槻の尚侍は、いつも自分を支え心から尽くしてくれていた。
私はその若槻の尚侍を姉のように慕っていた。
そして…それは突然の事だった。
柔らかな日差しも心地よいそんな春の日だった。
いきなり空がかき曇り雷が建屋を襲ったのだ!
突然の稲光に私は驚きのあまり動くこともままならなかったのに尚侍は女東宮である自分を庇おうとして一緒にその閃光を身に受けたのだ。
私は思った。
嫌!なぜ私たちが、命を落とさねばならないのか!
閃光に包まれた瞬間、私は御仏に願った。
どうか尚侍だけでも助けてほしい!
それが叶わぬのならせめて生まれ変わったら私の従者などではなく幸せになってほしい。
大好きな尚侍に誰よりも幸せになってほしいと心の底から願ったのだ。
そして、次の瞬間、真っ白な世界に私は一人立っていた。
「ここは…一体…はっ!若槻の尚侍はっ?尚侍っ!どこ?無事なの?」
私は、必死で叫んだ。
すると、誰かが心の中に語りかけてきた。
『願いは聞き届けた。二人は生まれ変わり再び友として出会い今度こそ幸せな一生を送れるでしょう』
「誰?まさか御仏?神様?」そう心の中でつぶやくとまたその声は私の中に響いてきた。
『そう…我は人間の輪廻を司りしもの…仏と呼ぶものもおれば神と呼ぶものもおる』
「っ!御仏さま、生まれ変わる…ということは、やはり私たちは死んだのですね?突然の光と衝撃!あれは雷ですね?何故、私たちがそのような目に合うのでしょう?私たちは信心も深く日々、お経を唱え御仏を敬って生きてまいりました。それなのに何故このような罰をお与えになられたのでしょう」
私は恐れ多くも御仏に対し恨みがましい気持ちでそう問うてしまった。
「なぜ?」そんな気持ちを心の内で隠すことなどできなかったのである。
『罰などではない。其方らの死は不幸な事故であった。しかし、其方の言う通り其方らは信心深く常に仏を敬い清き心で生きてきた。そして死の瞬間、其方たち二人は互いに自分の事ではなく相手の事を心から案じていた。そこで我は其方たちの願いをひとつずつ叶えることにしたのだ』
「まぁ、それは、一体…?はっ!そうです。若槻の尚侍は?尚侍はどこに?」
『あのものは既に輪廻の輪に入った。あの者の願いは生まれ変わっても其方の側で其方の幸せの為に尽くしたいというものであった故、其方が生まれ変わるときに同じ時期に生まれるよう計らった』
「ああ…尚侍はそんなにまでして私を心配して…」
『そして其方は、あの者が従者などではなく自分に縛られることなく幸せになってほしいと願った』
「そう!そうです。私は尚侍には今度こそ従者などではなく一人の人間として幸せになってほしいのです」私は万感の思いを込めてそう叫んだ。
『そう、もちろん其方の願いも聞き届けよう。二人は生まれ変わり、仲の良い幼馴染として今度こそ幸せな縁を紡いで次の世に送ろう…さあ、目を閉じて…』
御仏に言われるがまま私は目を閉じた。
そして私の魂は御仏の手によって輪廻転生の輪に導かれたのだった。
1
お気に入りに追加
334
あなたにおすすめの小説
ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人
花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。
そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。
森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。
孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。
初投稿です。よろしくお願いします。
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる