89 / 107
四の巻~平成美女は平安(ぽい?)世界で~
89.定近の心情 By定近
しおりを挟む
儂の耳が耄碌したのでなければ、亜里沙殿は、儂の事が嫌いではないらしい。
その口調や表情をみても嘘だとは思えない感じだ。
これがもしも、嘘なら大した悪女で詐欺師なのだが、この数日扶久姫に誠実に使える亜里沙殿をみても、彼女が清廉潔白で主思いの賢くも優しい(しかも料理上手の気配り上手)女性なのは間違いないと思う。
自分は他者から、この見た目故に侮られてきたからこそ、人の本質や考えを読むことに長けている…と自負している。
彼女が主人である扶久姫を見るまなざしはまるで親や姉のように慈しみがこもっていて見ていてとても微笑ましい。
今だって主人が所望という松茸を危険な山の中、愚痴ひとつ言うでなく一心不乱に松茸を採っている。
普通、貴族に使える侍女などは、それなりの家柄をもち気位も高く山でキノコ狩りなど下女にでも命じて採ってこさせるのが普通だ。
今、この屋敷には下女はいないが惟信にでも頼めばよいものを自ら…。
そんな所もとても好印象だった。
何よりもう隠居の身であり隠棲同然の暮らしをしている儂に対しても一目置いた上で、非常に人懐っこい笑顔を向けてくる。
本人は自分は醜女などというが、内から溢れるような輝きを自分では全く感じていないらしい。
たしかに宮中で美女とはやしたてられるような見た目ではないかもしれない。
色白で若干ぽっちゃり目がもてはやされる貴族間の流行り?とは違うかもしれないが…。
華奢でも健康そうではつらつとしている亜里沙殿は儂から見たら充分すぎるほどに魅力的だと思う。
短いとは言え髪は艶やかで光沢があり、これだけでも美女といっても差し支えないのではないかとさえ思う。(髪の美しさは重要だと乳母から聞いたことがあるのだ)
ただ、いつも一緒にいる扶久姫があまりにも貴族たちの思う美女に当てはまりすぎるから、それと比べると…と言ったところではないだろうか?
瞳には知性の輝きを感じるし、実際にその賢さは惟信や義鷹からも聞き及んでいる。
そして、屈託のない笑顔!この破壊力は凄まじい!
身内以外からそんな笑顔を向けられたことなどついぞなかった儂からしたらもうそれだけで、夢見心地なのだ。
正直、あまりにも好意的な言葉の数々にも胸が跳ね上がるような思いがした。
儂は、浅ましくも大きな期待を込めて聞いてみた。
「その…真だろうか?」
「は?」と聞き替えず亜里沙殿…くぅっ!その顔も可愛いぞ!
「儂のことを醜いとは思っていないというのは…」
そう、それが真実なら、儂は…儂は、亜里沙殿に伝えたい…。
「当たり前です!醜いどころか尊敬申し上げております」
とたんに、自分の思いを伝えたいと思う気持ちは期待に満ちたわずかながらの自信は失墜した。
それはもう急降下だ。
『尊敬』
尊び敬うと書いて『尊敬』
そうか…尊敬…か。
あくまでも義鷹の祖父としての自分を敬ってくれるのだなと、膨らんだ期待は一気にしぼんだ。
危うく妻乞いなどしそうになった自分に呆れた。
良かった…言わなくて。
どちらにしても嫌われていないのは幸せなことだ。
そう自分に言い聞かせた。
そして冷静になった頭で考える。
亜里沙殿にとっては、もしかしたら自分は『おっさん』を通り越して『おじいちゃん』といってもいい位の感じなのかもしれない。
実際は義鷹の父、園近の従兄であり、年も祖父という年齢ではないにせよ家督を譲るために園近を養子とした事で義鷹は孫となり義鷹も儂を『お祖父様』と呼んでいる。
扶久姫はもちろんの事、亜里沙殿とて儂を『義鷹の祖父』として見ているのだろう。
そう思うと今までの亜里沙の親しみの籠った眼差しにもようやく説明がついたような気すらした。
扶久姫は間違いなく義鷹の祖父、身内としての親愛の情をもって接してくれている。
亜里沙殿もそんな主人の思いと連動しての事なのだろうな…。
しかも、自分はおっさんである。
二十も年が違うのだ。
貴族社会では珍しくもないとは言え、自分はもう家督も譲り渡した隠居の身、貴族としての身分は低くはないが、実権もとうに手放した自分に嫁いだところで亜里沙殿のなんの得にもならないじゃないか…。
そんな考えが頭に浮かび、一瞬、浮かれて頭に上った血が下がってきた。
そして気づくと亜里沙殿の決して小さくはない竹の籠にはみっちりぎっちりと松茸がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
そして…『あ…いかん』
手伝うつもりが、一人で採らせてしまったと後悔した。
***
(義鷹と扶久子もそうであったが、亜里沙と定近もたいがい似た者同士であった)
その口調や表情をみても嘘だとは思えない感じだ。
これがもしも、嘘なら大した悪女で詐欺師なのだが、この数日扶久姫に誠実に使える亜里沙殿をみても、彼女が清廉潔白で主思いの賢くも優しい(しかも料理上手の気配り上手)女性なのは間違いないと思う。
自分は他者から、この見た目故に侮られてきたからこそ、人の本質や考えを読むことに長けている…と自負している。
彼女が主人である扶久姫を見るまなざしはまるで親や姉のように慈しみがこもっていて見ていてとても微笑ましい。
今だって主人が所望という松茸を危険な山の中、愚痴ひとつ言うでなく一心不乱に松茸を採っている。
普通、貴族に使える侍女などは、それなりの家柄をもち気位も高く山でキノコ狩りなど下女にでも命じて採ってこさせるのが普通だ。
今、この屋敷には下女はいないが惟信にでも頼めばよいものを自ら…。
そんな所もとても好印象だった。
何よりもう隠居の身であり隠棲同然の暮らしをしている儂に対しても一目置いた上で、非常に人懐っこい笑顔を向けてくる。
本人は自分は醜女などというが、内から溢れるような輝きを自分では全く感じていないらしい。
たしかに宮中で美女とはやしたてられるような見た目ではないかもしれない。
色白で若干ぽっちゃり目がもてはやされる貴族間の流行り?とは違うかもしれないが…。
華奢でも健康そうではつらつとしている亜里沙殿は儂から見たら充分すぎるほどに魅力的だと思う。
短いとは言え髪は艶やかで光沢があり、これだけでも美女といっても差し支えないのではないかとさえ思う。(髪の美しさは重要だと乳母から聞いたことがあるのだ)
ただ、いつも一緒にいる扶久姫があまりにも貴族たちの思う美女に当てはまりすぎるから、それと比べると…と言ったところではないだろうか?
瞳には知性の輝きを感じるし、実際にその賢さは惟信や義鷹からも聞き及んでいる。
そして、屈託のない笑顔!この破壊力は凄まじい!
身内以外からそんな笑顔を向けられたことなどついぞなかった儂からしたらもうそれだけで、夢見心地なのだ。
正直、あまりにも好意的な言葉の数々にも胸が跳ね上がるような思いがした。
儂は、浅ましくも大きな期待を込めて聞いてみた。
「その…真だろうか?」
「は?」と聞き替えず亜里沙殿…くぅっ!その顔も可愛いぞ!
「儂のことを醜いとは思っていないというのは…」
そう、それが真実なら、儂は…儂は、亜里沙殿に伝えたい…。
「当たり前です!醜いどころか尊敬申し上げております」
とたんに、自分の思いを伝えたいと思う気持ちは期待に満ちたわずかながらの自信は失墜した。
それはもう急降下だ。
『尊敬』
尊び敬うと書いて『尊敬』
そうか…尊敬…か。
あくまでも義鷹の祖父としての自分を敬ってくれるのだなと、膨らんだ期待は一気にしぼんだ。
危うく妻乞いなどしそうになった自分に呆れた。
良かった…言わなくて。
どちらにしても嫌われていないのは幸せなことだ。
そう自分に言い聞かせた。
そして冷静になった頭で考える。
亜里沙殿にとっては、もしかしたら自分は『おっさん』を通り越して『おじいちゃん』といってもいい位の感じなのかもしれない。
実際は義鷹の父、園近の従兄であり、年も祖父という年齢ではないにせよ家督を譲るために園近を養子とした事で義鷹は孫となり義鷹も儂を『お祖父様』と呼んでいる。
扶久姫はもちろんの事、亜里沙殿とて儂を『義鷹の祖父』として見ているのだろう。
そう思うと今までの亜里沙の親しみの籠った眼差しにもようやく説明がついたような気すらした。
扶久姫は間違いなく義鷹の祖父、身内としての親愛の情をもって接してくれている。
亜里沙殿もそんな主人の思いと連動しての事なのだろうな…。
しかも、自分はおっさんである。
二十も年が違うのだ。
貴族社会では珍しくもないとは言え、自分はもう家督も譲り渡した隠居の身、貴族としての身分は低くはないが、実権もとうに手放した自分に嫁いだところで亜里沙殿のなんの得にもならないじゃないか…。
そんな考えが頭に浮かび、一瞬、浮かれて頭に上った血が下がってきた。
そして気づくと亜里沙殿の決して小さくはない竹の籠にはみっちりぎっちりと松茸がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
そして…『あ…いかん』
手伝うつもりが、一人で採らせてしまったと後悔した。
***
(義鷹と扶久子もそうであったが、亜里沙と定近もたいがい似た者同士であった)
1
お気に入りに追加
334
あなたにおすすめの小説
ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人
花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。
そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。
森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。
孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。
初投稿です。よろしくお願いします。
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる