ときめき恋々物語 ～平安美人／平成美人～

参の巻～平安美女と平成美男の恋話～

㉝事成れり Ｂｙ亜里沙

　扶久姫の幸せを只ひたすらに願う私。
　そうです。亜里沙です。

　ふ…ふふふふふ。
　じれったかったわぁ～！
　両想いなのは周り（自分や芙蓉の方や楓や紅葉）から見たら分かり過ぎるぐらいだったのに、あの二人と来たらお互い自分が不細工だと思いこんでいるものだから、まぁ中々進まないったら！

　へたれ…いや、恋心に慎重な義鷹様はようやく扶久姫の御心を受け取り、求婚の言葉を贈った。

　そして、その夜、義鷹様は扶久姫の部屋に泊まっていかれたのだった。
　二人の想いが通じ合った事を確認した私は、頃合いを見はかり几帳きちょうの陰から、明り取りの明かりを消し、そっと部屋をた。

　まわりの兵達には、今宵は義鷹様が別室で宿直をされると含・み・を・込・め・て・伝え、主に離れに入りこめそうな塀沿いそ警備するように指示し、義鷹様の側近の是延これのぶさんには、明日と明後日もこの配置で警護するように伝え扶久姫の部屋からは距離をとらせた。（外が騒がしいのは、ちょっとね～）
　察しの良い是延これのぶさんは、それだけで主人である義鷹様の初恋が実ったのだと理解し瞳を潤ませ喜んだ。（中々、忠義な若者だ！）

　（義鷹様には今日を含む三夜は、こちらへお通い頂かなくては！）と意を決する。

　お通い頂く、通う…と言うのは、いわゆる「夜這い」と呼ばれる、夜に女性の元へ恋をしかけに訪れる行為だが、この時代はこの行為自体が求婚プロポーズなのである。
　そうこの平安の世界での結婚は三夜、通い続け三日目に「三日の餅」と呼ばれるものを食べて正式な結婚が成立することになるのだ。

　本来は男の方から文を贈り、それに女性が応え文を返し、その後、占いによって出た吉日の夜に女性の部屋に忍び込み契ちぎりを結ぶことになるのだが、そんな形式はこの際、この二人の場合は、すっとばしていい事にする！（私が許す！）
　お互い自分に自信がなさ過ぎて想いをしたためた和歌を贈ったところでその和歌の意味を控えめに曲解して、ちっとも前に進まないのは分かりきっている。

　この結婚を正式なものとし正妻と成す為、私は画策する。（扶久姫にも、ちんたら和歌なんぞ読み聞かせるより百回好きだとストレートに伝えた方が良いと助言済みだ！）

　そして私の命より大事な扶久姫のお立場は『正妻』以外にはあり得ない！いわゆる妾などにする訳にはいかない！

　前世で叶わなかった姫の女としての最高の幸せを応援するのは私の最たる望みだ。
　若い身空で尼となり生涯を終えた姫！今生こそは幸せに！

　え？私はって？
　私のことは良いのだ。
　姫の幸せが私の幸せ！
　扶久姫以上に大切なものなんて私にはないのだから！無問題ノープロブレムだ！

　幸い義鷹様は扶久姫只一人を生涯愛すると誓われた！
　上手に和歌などしたためられずとも、そんな事はどうでも良いと私は思った。
　満点を差し上げたいような心のこもった良き求婚のお言葉だった。

　そう思うのも平安の記憶を持ちながらも平・成・の時代を過ごした記憶の賜物だろう。
　平安世界の感覚のままでなら正直、私とて義鷹様の見た目では納得はし得なかった。

　様々な経験と記憶、知識は本当に大事だと思う。
　所詮、見た目なんぞ皮一枚の事よ！あたら自分に自信を持ちすぎた者なぞ碌な者では無い。

　なまじ和歌など得意満面のしたり顔で堂々とあちこちの姫君にちょっかいを出し食い散らかすような公達では平成育ちの扶久子姫を幸せに出来る筈も無い！

　扶久姫の育った平成の時代は一夫多妻の平安世界とは違い、一夫一妻制だったのだから！
　旦那様をよその姫君方と共有シェアするなど、言語道断である！

　この一夫多妻が当たり前の世界で、敢・え・て・自らの意思で生涯、扶・久・姫・只・一・人・を愛するという言葉はなかなかに感動的なお言葉だったと思う。

　私は、早速、芙蓉の方に二人の想いが通じ合った事をご報告し、結婚を正式なものとするよう協力を仰いだのだった。