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弐の巻~そこは平安時代だった~
⑧美しき姫 By義鷹
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昨日の事だった。
朝廷への出仕が非番だった私は、最近『気鬱の病』で伏せっているという母の為に近くの朱鷺羽神社に平癒祈願に行った。
そこで突如起きた落雷!
その落雷により神社の境内にある建屋が崩れたのである。
そしてその崩かけた建屋から一人の美しい姫君が現れたのだ。
それも物語から抜け出てきたかのような絶世の美女だ。
涼やかな目元(一重の瞳)
ふくよかで白い肌(ぽっちゃり色白)
頬から顎に至るまでのふっくらとした美しい顔(いわゆる下膨れ)
一分の隙も無い仕立てのよい身なり(泡沫夢幻堂の体験用のレンタルのなんちゃって十二単)
(解説:そう、平安時代の美人の定義とは、一重瞼の下膨れ色白ぽっちゃり!つまり扶久子そのものなのだった!)
そのたたずまいに私は一瞬、時が止まったかのように息を飲んだ。
私は生まれてこの方、こんなにも美しい姫を見た事がなかった。
…と、いっても貴族の姫君たちは皆、屋敷の奥にこもっているものだから、お見掛けしたことがあるのは宮中に出仕している方々や、行事等で、遠目からお見かけする上様の女御(奥)様方くらいなのだが…。
それとて扇でほぼ顔は隠されていらっしゃるので、ご尊顔を拝するのなんてほんの一瞬あるやなしやである。
それでも、ほんの一目垣間見る機会はあった。
そう、より抜きの美女たる上様の女御(奥)様方とてあのように美しい方はいなかった。
舞の技量だけではなく美しさでも選ばれる『五節の舞姫』とてあの扶久子姫には及ばないだろう。
あまりの美しさに息を飲み時を忘れそうになった私だったが、建物が崩れ落ちる危険に気づき、慌てて姫を抱きあげ建屋から離れた。
危機一髪だった。
聞けば遠い海の向こうの讃岐(現在の香川県)と言う地方からわざわざ京まで詣でに来られたらしい。
余程思いつめた祈願があったのだろうか?海を越えてこの京の都までの道のりなどもはや命がけの旅路だろう。
そこは何かやんごとなき事情があるやもしれぬと敢えてこちらから尋ねる事はしなかったが、身なりから見ても高貴な家の姫君である事は一目瞭然だ。
(実際のところ、しつこいようだが撮影用のレンタルのなんちゃって十二単なのだが)
供の者ともはぐれた様で私は、そんな姫をお守りしようと我が家で保護する為にお招きした。
するとどうだろう!
平癒祈願が早くも叶ったのか、かれこれ半月は寝込んでいた母が姫の力になりたいと病の床から起き上がり準備万端で待ちかまえていた。
母が途端に元気になったのも姫が、我が家に身を寄せてくれたお陰で間違いない。
あの扶久子姫は実は福神様の化身ではないかと思うくらいだ!
そして姫の美しさ愛らしさにすっかり虜になったのか母は、いつまで居ても構わないからと姫を引き止めた。
その言葉に安堵したのか、それまで気丈に振る舞っていた姫の目から美しい涙がぽろぽろとあふれ出し私や母に礼を言った。
その姿は美しくて可愛らしくて何が何でもお守りしなくてはと胸が締め付けられた。
気づけば自分の小袖で姫の涙をぬぐっていた。
そして姫はそんな私に申し訳なさそうにしながらも嫌そうにはしなかった。
そう!私のような『大きく、しかも醜い男』に嫌な顔ひとつぜず心からお礼を言ってくれたのだ。
それだけでも私は嬉しくてありがたくて心踊る思いだった。
無論、我が家の者は皆、私を恐れたり厭うたりはしないが、自分のこの見てくれのせいで身分のさほど高くもない他家の女房や下女に至るまで目を背けるように避けられるのが普通だった私には扶久子姫がまるで菩薩様のように思える。
(※解説:この時代の人の平均身長は男の人でも百六十センチ位が多かった中、義鷹は百八十センチ近くの高身長だったので、鬼だの天狗だのと恐れられていた)
何と心根の優しき姫君なのかと私は心から感動していた。
そしてそんな姫君に憧れ、厚かましくも恋い慕ってしまう。
そんな私の気持ちが、その場にいた母や女房には見透かされていたらしい。
姫の涙を拭おうとする私を生暖かい目で見ていた事を私は背後に感じつつも無視した。
無論、あのように美しい姫が自分のような大きく醜い男に心寄せる事などあり得ないとは重々承知している。
姫とて単に助けてくれた相手に感謝してくれているだけに過ぎない。
わかっている!わかっているとも!
高望みなどしない。
ただ、姫の供の者達が見つかる間だけでもこの屋敷に姫がいてくれる。
それだけで私は夢のように嬉しかったのだ。
朝廷への出仕が非番だった私は、最近『気鬱の病』で伏せっているという母の為に近くの朱鷺羽神社に平癒祈願に行った。
そこで突如起きた落雷!
その落雷により神社の境内にある建屋が崩れたのである。
そしてその崩かけた建屋から一人の美しい姫君が現れたのだ。
それも物語から抜け出てきたかのような絶世の美女だ。
涼やかな目元(一重の瞳)
ふくよかで白い肌(ぽっちゃり色白)
頬から顎に至るまでのふっくらとした美しい顔(いわゆる下膨れ)
一分の隙も無い仕立てのよい身なり(泡沫夢幻堂の体験用のレンタルのなんちゃって十二単)
(解説:そう、平安時代の美人の定義とは、一重瞼の下膨れ色白ぽっちゃり!つまり扶久子そのものなのだった!)
そのたたずまいに私は一瞬、時が止まったかのように息を飲んだ。
私は生まれてこの方、こんなにも美しい姫を見た事がなかった。
…と、いっても貴族の姫君たちは皆、屋敷の奥にこもっているものだから、お見掛けしたことがあるのは宮中に出仕している方々や、行事等で、遠目からお見かけする上様の女御(奥)様方くらいなのだが…。
それとて扇でほぼ顔は隠されていらっしゃるので、ご尊顔を拝するのなんてほんの一瞬あるやなしやである。
それでも、ほんの一目垣間見る機会はあった。
そう、より抜きの美女たる上様の女御(奥)様方とてあのように美しい方はいなかった。
舞の技量だけではなく美しさでも選ばれる『五節の舞姫』とてあの扶久子姫には及ばないだろう。
あまりの美しさに息を飲み時を忘れそうになった私だったが、建物が崩れ落ちる危険に気づき、慌てて姫を抱きあげ建屋から離れた。
危機一髪だった。
聞けば遠い海の向こうの讃岐(現在の香川県)と言う地方からわざわざ京まで詣でに来られたらしい。
余程思いつめた祈願があったのだろうか?海を越えてこの京の都までの道のりなどもはや命がけの旅路だろう。
そこは何かやんごとなき事情があるやもしれぬと敢えてこちらから尋ねる事はしなかったが、身なりから見ても高貴な家の姫君である事は一目瞭然だ。
(実際のところ、しつこいようだが撮影用のレンタルのなんちゃって十二単なのだが)
供の者ともはぐれた様で私は、そんな姫をお守りしようと我が家で保護する為にお招きした。
するとどうだろう!
平癒祈願が早くも叶ったのか、かれこれ半月は寝込んでいた母が姫の力になりたいと病の床から起き上がり準備万端で待ちかまえていた。
母が途端に元気になったのも姫が、我が家に身を寄せてくれたお陰で間違いない。
あの扶久子姫は実は福神様の化身ではないかと思うくらいだ!
そして姫の美しさ愛らしさにすっかり虜になったのか母は、いつまで居ても構わないからと姫を引き止めた。
その言葉に安堵したのか、それまで気丈に振る舞っていた姫の目から美しい涙がぽろぽろとあふれ出し私や母に礼を言った。
その姿は美しくて可愛らしくて何が何でもお守りしなくてはと胸が締め付けられた。
気づけば自分の小袖で姫の涙をぬぐっていた。
そして姫はそんな私に申し訳なさそうにしながらも嫌そうにはしなかった。
そう!私のような『大きく、しかも醜い男』に嫌な顔ひとつぜず心からお礼を言ってくれたのだ。
それだけでも私は嬉しくてありがたくて心踊る思いだった。
無論、我が家の者は皆、私を恐れたり厭うたりはしないが、自分のこの見てくれのせいで身分のさほど高くもない他家の女房や下女に至るまで目を背けるように避けられるのが普通だった私には扶久子姫がまるで菩薩様のように思える。
(※解説:この時代の人の平均身長は男の人でも百六十センチ位が多かった中、義鷹は百八十センチ近くの高身長だったので、鬼だの天狗だのと恐れられていた)
何と心根の優しき姫君なのかと私は心から感動していた。
そしてそんな姫君に憧れ、厚かましくも恋い慕ってしまう。
そんな私の気持ちが、その場にいた母や女房には見透かされていたらしい。
姫の涙を拭おうとする私を生暖かい目で見ていた事を私は背後に感じつつも無視した。
無論、あのように美しい姫が自分のような大きく醜い男に心寄せる事などあり得ないとは重々承知している。
姫とて単に助けてくれた相手に感謝してくれているだけに過ぎない。
わかっている!わかっているとも!
高望みなどしない。
ただ、姫の供の者達が見つかる間だけでもこの屋敷に姫がいてくれる。
それだけで私は夢のように嬉しかったのだ。
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