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あのお茶会の一件以降マロリーとは言葉を交わすことがないまま学園は夏休みに入った。そして夏休み明け、マロリーは学校から姿を消していた。隣国へ留学へ行ったらしい。お茶会でのあの言葉はマロリーからの決別だったようだ。

留学に気づいた私は、声もかけずに出国したマロリーにショックを受け、そして、ショックを受けてる自分にびっくりした。ダビネと出会って以降マロリーへ冷たい態度をとり続けていたのだから当然だと思いながらも、マロリーが私を見限る時など来ないとどこかで思っていたらしい。

ダビネと出会ってからマロリーとの時間を取らなかったとはいえ、ガネス家には訪問していたし、学園では同じ教室に通っていた。マロリーは常に私のそばにいたのだ。

マロリーが留学に出てもうすぐ1年。こんなにも長く存在を感じないのはじめての事だった。

ラベンダーの香りがすればラベンダー畑を見に行ったこと、積もった雪を見れば一緒に雪だるまを作ったこと、とある曲が聞こえてくれば公爵邸でダンスを練習したこと、マーガレットを見れば詩を朗読しあったこと、日常を送っているとふとマロリーとの思い出が浮かぶのだ。

一国の王として働き私的な時間など少ない父、気性が激しくて父と折り合いが悪く私には命令するばかりの母、年が離れもう自分の家庭を持っている長兄、王妃と折り合いの悪い側妃を母に持つために交流の薄い次兄、そんな家族達より余程マロリーと過ごした時間が多かったのだと気付く。

私はなぜあんなにもマロリーとの時間を軽んじていたのだろう。

大人しい性質で、同い年とはまるで思えないあの小さい身体のマロリーがひとり隣国へ行ったのだと思うとさすがに心配だが、マロリーはもう私からの心配など必要とはしていないのだろうな。

ダビネと私はまだ婚約していない。

あのお茶会のすぐ後、父上に許可を取りに行った。父上は「1年後にまだ婚約したいと思っていたのなら認める。なぜ私が1年待つのか理由を考えて欲しい」と言い、婚約は1年保留となった。
父上の言葉を、一時的な恋愛感情では無いと証明するためと解釈し、婚約は1年待って欲しいとダビネへ伝えてからもうすぐ1年がたつ。

マロリーが留学しダビネだけになったガネス家の別邸はこの1年ですっかりスカイラーが掌握している。母方の従兄弟であるスカイラーは私がガネス家に婿入りしたらガネス家の家令になる予定で動いているのだ。マロリーの留学と共にいなくなった家令や使用人もいるが、スカイラーが領地や別荘にでも移動させたのだろう。

正直、ダビネへの情熱はすでに冷めている。それでもマロリーと決別した今、ガネス公爵家に婿入りするにはダビネと婚約するしかない。気持ちが冷めていることをダビネへ気づかれないように関係を続けている。

陰気な幼子にしか見えないマロリーとは違い、輝くような美貌で天真爛漫なダビネ。マロリーが去り、ダビネだけと正面から向き合えば、すぐにその天真爛漫さはただの傍若無人だと気づいた。夢見がちで思い込みが激しく一旦思い込むと考えを改めない。そんなダビネが段々と疎ましく感じるようになっていった。

マロリーと結婚するしかない哀れな自分の前に現れた運命の相手だと思ってたというのに。

「コニー様は私の王子様なのだから」

これはダビネの考える王子様像から外れた時に出る言葉。「王子様はココアを飲まない」「王子様は行列に並ばない」「王子様はカフェを貸切にしないといけない」「王子様はプレゼントの値段など気にしない」ダビネの思う王子様像を押し付けられる度にダビネへの思いがすり減っていく。

その上、最近、ダビネは出会った当初の際立った美しさが無くなった。今でも美人ではあるが、容姿が整っているものが多い貴族の中では際立って美人とはもう言えないだろう。

出会った頃は子供と大人の間のアンバランスさの中で絶世の美しさを誇っていたが、その美しさは成長途中の短期間限定だったようだ。この1年で顎ががっしりと成長し面長になってしまった。ダビネの母親は平民。何代も美人の血を取り込んできた貴族と平民では顎や歯、骨格が違うのだろうか。

そして、ダビネの赤い瞳はこの1年で赤茶まで退色した。

ガネス公爵と同じ赤い瞳とはもう言えなくなったダビネ、婚約を1年保留した父上、ドレスや宝飾品を買い与える以外ダビネとの接点が見えない公爵。

もうすぐ父上との約束の1年。ひどく嫌な予感がする。
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