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番外 イベント編 2018年

バレンタインデー🍫

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「ちょっこれぇとー、ちょっこれぇとー」

そう、今日はバレンタイン当日!!
これからチョコレートを作る。
チョコレート好きの僕にとっては、チョコレートの日と言っても過言ではないこの日が、待ち遠しくて仕方なかった。
そしてついに待ちわびた今日この日がやってきてテンションあげあげなのだ。

だからちょっとぐらいいつもと違っておかしくても、気にしない気にしない。

では、さらにもう一度言おう。
今日はバレンタイン当日だ。

僕のことだから、前日にせっせとチョコレート作りにいそしんで、当日に静先輩にちゃんと渡せるようにすると思ってた。
事実、ついこの間までそのつもりで計画立ててたし。

しかし、今日はバレンタイン当日。
そしてチョコレートは今から作ろうとしている。

どういうことかというと、なんと静先輩と一緒に作ることになったのだ!!
昨日チョコレートを作ろうと材料を調べていたらタイミングよく静先輩から電話がかかってきて、一緒に作らないかとお誘いをいただいたのだ。

そんなことを誘われて僕に断るという選択肢はない。
静先輩とチョコレート、どっちも僕にはなくてはならないものだ。
断る理由がない。

で、今は二人で買い出しに来た帰りなのだ。
静先輩もチョコレートが好きだから、よくいろんなのを買っては一緒に食べたりするけど、手作りっていうのは初めてで昨日から楽しみで仕方ない。

「嬉しいのはわかったから、少しは落ち着けよ」
「だってほんとに楽しみなんだもん」

帰る時もこんな感じだったけど、家に着いてからも全然落ち着く気にはなれなかった。
それも相まってなのか、肝心のチョコレート作りのほうはひどいことになってしまった。

今じゃやらせてくれないのをいいことにすっかり任せっきりになっている料理だけど、一人暮らしを始めたばかりの頃は自分で作っていたから多少なりとも出来るって思ってタカをくくっていたところがあったのは認める。
でも、こうもお菓子作りが料理と違うとは全然思っていなかった。
こんなことになろうとは。

「じゃあ、弥桜はこっちな。刻んで湯煎にかけて溶かして」
「はーい」
今回はミルクチョコだけじゃなくて、ホワイトチョコのバージョンも作ることにして、僕は今そっちの作業を任された。
とりあえず板チョコを買ってきたからそれを刻んで、湯煎ってやつにかければいいんだよね。

自炊してたから包丁は人並みに使えるんだよ。
んー、そこまではいいんだけど、湯煎って何?
初っ端わかんない・・・けどさっき意気込んで大丈夫とか言っちゃったし、聞けない。。。

ゆせんって多分湯煎って書くよな。
お湯で煎る・・・。
ま、なんとかなるだろ。
水はちょっとでいいかな。
よーし、点火!!

おー、いい感じに溶けてきたー・・・ぁ?
なんか固まってきた・・・。
「なんでこんな固いの・・・」

「何やって・・・、ちょっと待て、ストップストップ」
何かまずいことをしたらしい。
火を止められ、鍋ごと奪われてしまった。

「悪い、よく確認しなかったから。湯煎ってのはな、お湯を張ったボールにチョコだけ入れた別のボールを浸しながら溶かすことなんだ。間違ってもお湯とチョコを一緒にしちゃダメなんだよ」

はぁー、なるほど。
そーやるのか。

「どーせ、大丈夫って言っちゃったからわかんないけど聞くに聞けなくて、名前的にこんなんだろうと思ってやってみた、そんなとこか」

すごーい。
「まさにその通り」

「はぁ、変な意地張ってないでわからないことはわからないって、次からはちゃんと言えよ」
「うん」

「ん。じゃ、これは使えないから、後で片付けるとして。今度は一緒にやろうか」

使えないチョコを脇に置いて、今度はさっきまで静先輩が切ってたミルクチョコを持ってくる。

「お湯は鍋に半分くらい入れて、その上にチョコの入ったボールを入れる。それから、お湯が入らないようにゆっくり混ぜて」

言われた通り、ゆっくりかき混ぜて・・・。
おーー!!
今度はちゃんと溶けてる。
これだけ溶ければいいんじゃない?

「出来た」
「よし。じゃ、今度はそれを氷水につけて冷やして」

ふむふむ。
28℃まで下がればいいらしい。

で、それが出来たらいよいよ型に流し込むっと。
流し込むのは綺麗にできたかな。

これを冷蔵庫に入れて2時間ぐらい置いておけば完成だって。

「はあぁぁぁ、思ったより大変だった。チョコレートってこんなに作るの難しんだ」
「そーだな。次からはよく調べてから作ろうな」

とりあえず、固まるまでの2時間。
使った道具を片付けて、静先輩とごろごろ・・・。

「あっ、そうだ。いつもお世話になってるし、結永先輩にも上げる」
「結永か。そうだな、呼ぶか」

目の前のことに必死すぎて、すっかり忘れてた。
当初の予定では結永先輩にもあげるって決めてたんだ。
思い出せてよかった。

まだまだ固まるまで時間はあるし、ゆっくり来てね、と電話してまた静先輩とだらだら。

こうやって何もせずくっついてだらだら、時にはお昼寝とかもするんだけど、こういうの大好き。

ただ、何が困るって。
いっつも迷うんだよね。

足の間に体ごとすっぽり収まるか、膝枕してもらうか。
体ごとすっぽり、言わずもがな全身で静先輩を感じられる。
一方で、膝枕すると頭撫でてもらえる。

どっちも大好きだからいつも選べなくて両方するんだ。

そうやって迷ってるうちにどんどん時間がすぎて、ゆっくり来てと言った結永先輩が到着した。

「ちわーっす。暑いな、今日」
そう言って上着を脱ぎながら、当然のように合鍵で入ってきた。

2月にしては今日は比較的暖かかった。
もう夜とはいえ、今日ダウンコートは暑いと思う。

「お前ら、暑くないのかよ。そんな厚着でくっついてて」
いくら今日が暖かいとはいえ、動かず部屋の中にいたらそこそこ冷える。
かと言って暖房を入れるとチョコ作りに影響が出るから、自分たちがあったかい格好をするしかないのだ。

で、そのままくっついてるから、今まさに動いて来た結永先輩からしてみたら、見てるだけで暑苦しいらしい。

「んー、ちょっと暑いかも?」
「じゃあ、離れろよ」
当たり前の返しに、しかし即答するのであった。
「やだー」

「聞いといてなんだけど、なんかアホらしくなってきたな」
「ふっ」
「静てめぇ、鼻で笑いやがったな。あーもういいや。それよりどうよ、いい感じに出来た?」

そう言えば、そろそろ2時間立つ頃だ。
どーかな。

冷蔵庫から取り出してみると、固まり具合は良さそうなのが出てきた。
あとは、型から出して。
「綺麗に出来てるな」

ひとつ食べてみる。
「味も問題なし」

もう一粒とって。
「はい、静先輩」
隣にいる静先輩の口の中にぽいっと放り込む。
「うん、そうだな。味に関しちゃ、俺らなんもしてねぇからな。自分たちで作るのもたまにはいいかも」

「それでも、初めてにしちゃ上出来だろ。・・・あれ、そっちのはどうしたんだ?」
片付け忘れてたホワイトチョコ。
「あー、あれはちょっと失敗しちゃって」

「こりゃ、湯煎の時チョコに水入れただろ。初心者はよくやるんだよな、俺も昔やったよ。こーゆーのはな」

なんだかどんどん僕が失敗したチョコの形が変わっていく。
「ほら、チョコレートドリンク。これは俺からのバレンタインってことにしようかな。ホワイトチョコでやるのは初めてだけど、まあまあ悪くないと思うよ」
ものの十数分であの失敗したチョコからドリンクが二杯分出来てしまった。

「お前、昔からこういうの得意だったよな」
「まあね。昔はパティシエが夢だったから」
確かにいつもチューバチャップス食べてるし、甘いもの好きなイメージある。
ふむふむ、いいこと聞いた!!
「へー、じゃ今度チョコのお菓子作って!!」
「ああ、いいよ」
二つ返事であっさりOKしてもらえて、何を作ってもらうか今から楽しみでしょうがない。

そうやって昔話に花を咲かせていると、ちらりと時計を見た静先輩が、財布と携帯をとって玄関に向かい始めた。
「もうこんな時間か。俺ちょっと用事あって出るから、弥桜のことよろしく頼む」
そう言って頭を撫でてくれた。
「ああ、分かった」
「行ってらっしゃい」
本当は行って欲しくないけど、何か用事があるなら仕方ない。
わがままばかりは言ってられない。
大人しく静先輩が出ていくのを見送る。

「今日は随分と素直じゃん」
「だってわがままばっか言うって嫌われたくないもん」
「そんなんであいつは弥桜くんのこと嫌いになったりしないさ」
そうだけど、やっぱり僕だったらこんなわがままばっかのやつなんて嫌だもん。

「じゃ、これからどうしようか」
「雅兄呼ぶ。チョコあげる」
「マジで?」
今じゃ静先輩ばっかりだけど、昔は雅兄ばっかりだったからその時の癖かな。
寂しいと雅兄に隣にいてもらうんだ。

それにしても、この前は電話ってだけでもあんなに焦ってたのに。
今日は少し嬉しそうな顔してる。
じゃあ、結永先輩のためにも早く来てもらおう。

結永先輩の隣にぴったりくっついて座って電話をかける。
「もしもし、雅兄。このあと暇? チョコ作ったんだ。食べに来ない?」
この時間ならちょうど仕事終わりってとこかな。

「うん、うん。・・・わかった。じゃあね。すぐ来てくれるって」
すぐって言っても、会社から電車だから最速でも30分はかかるけどね。

せっかく結永先輩と二人きりだから、この前聞こうと思ったこと聞こうかな。
「結永先輩って雅兄のこと好きなんですか?」
いきなりの質問で、少し驚いた表情はしてる。
「・・・うん。一目惚れなんだよね。あんなかっこよく仕事してる人初めて見た」
けど、変に隠すこともせず、あっさりと教えてくれた。

「仕事してるとこは見たことないけど、昔から雅兄は優しくて頼りになるし、いっぱい遊んでくれたんだ。自慢のお兄ちゃんだよ。だから、結永先輩が好きになるのもよくわかるなぁ」
「まだまだ若いのに社長ってすごいよ」
本気で雅兄のことが好きみたいだ。

雅兄と結永先輩、お似合いだと思うけどな。
「雅兄、仕事ばっかりでそーゆー話全然したがらないから、結永先輩が捕まえてよ。来年30だから、さっさと結婚すればいいのにって思ってたんだ」
「っ、ほんとにそう思う?」
「うん」

そんな話をしていると、インターホンがなって雅兄が到着したことを告げる。
それには結永先輩が出てくれた。
「こんばんわ。結永くんもいたんだ」
「お邪魔してます」

「雅兄!!」
久しぶりに会うから嬉しくて勢いよく飛びつく。
「久しぶり。ようやく弥桜に会えると思って急いで来たよ」
「年末はごめんね、帰れなくて。今日は静先輩とチョコ作ったから、雅兄にもあげようと思ったんだ」

「静先輩と・・・」

「ん? 雅兄、なんか言った?」
「いや、何でもないよ」

なんか言ってた気がしたんだけどな。
雅兄がなんでもないって言うなら、なんでもない、のかなぁ・・・・・・。
少し気にはなるものの、あまり追求することはしない。

その代わり、このチョコレートを。
「はい、これ」

雅兄にも静先輩と同じように口にぽいっと入れてあげる。
「溶かして固めただけだから、味とかは普通に美味しいと思うけど」
「弥桜がくれたってだけでとっても嬉しいよ。ありがとう」

僕からの分はこれで満足だから、次は結永先輩の分も上げなきゃ。
「雅兄、あのね、このチョコレートドリンク、結永先輩が作ってくれたんだ。僕が失敗したチョコを使ってあっという間に作ってくれたんだよ」
二杯あるうちの、まだ口をつけていない方のコップを手渡す。
「ホワイトチョコだけど、雅兄でも飲めると思う」
「へぇ、結永くんお菓子作りなんて出来るんだ。あ、本当だ。ホワイトチョコなのに美味しい」

「雅貴さん、ホワイトチョコ苦手なんですか?」
「うーん、なんというか、あの味があんまり好きじゃないんだよね」
雅兄もチョコ自体は好きなんだけど、僕と違ってホワイトチョコは少し苦手みたい。
だから、このプレゼントは結構好感度高いと思う。
「良かったね、喜んでくれて」
「うん」

こちらも満足したところで、もう時計は10時過ぎを指していた。
「もうこんな時間か。俺、明日も朝から会社だからそろそろ帰るな」
「あ、俺、送りますよ」
「本当? じゃあ結永くんに頼もうかな。弥桜、またね」
そう言ってぎゅっと抱きしめてくれる。
静先輩が出ていってから少し不安だったから、昔のように雅兄に抱きしめてもらえるととても落ち着く。

それから、静先輩に電話をして結永先輩は雅兄を送りに出ていった。

一人で部屋にいて落ち着かないのもほんの僅かで、すぐに静先輩が帰ってきてくれる。

「ただいま。ちゃんと渡せたか?」
「うん、喜んでくれた。それに結永先輩のチョコレートドリンクも、好評だったんだよ。雅兄、ホワイトチョコ苦手なのに美味しいって」

今日一日、ちょっとしたトラブルはあったものの、それも結果的にいい思い出になってすっごくいい日だった。
その全てを共有したくて、静先輩がいなかった時のこともたくさん言葉にする。

「来年も一緒にチョコ作ろう!!」
「ああ、そうだな」

初めてみんなで過ごしたバレンタインデー、とっても楽しかった!!

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