僕とあなたの地獄-しあわせ-

薔 薇埜(みずたで らの)

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番外 イベント編 2018年

弥桜と雅貴、夏の幼物語

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「弥桜、こんにちは~」
「いらっしゃい、雅兄!」

夏休みど真ん中のある日。
ここ最近ずっと静先輩と二人で引き篭もってばかりで何もない日々を過ごしていたけど、今日は久しぶりに雅兄がうちに遊びにくることになっていた。

「どうも、雅貴さん」
「・・・・・・はぁ、何、夏休みはずっとここに居るんだって?」
「ええ、弥桜との休みを満喫させてもらってますよ」
「・・・・・・羨ましぃ」
「何か言いました?」
「っ、ほんと君のそういう所が好かないよ」
もちろんこの休みは静先輩がうちに居るから、今日も一緒に雅兄を出迎えたわけだけど、来てすぐ二人で話し込んでいる。

「どうした、弥桜。そんなにやにやして」
「ふふ、やっぱり二人とも仲良しだなって。楽しそう」
「「はぁ? そんなわけないだろう‼︎」」
「ほら、息ぴったり」

そんな二人のやり取りを聞きながら、でも僕の意識は雅兄の手元に釘付けだった。
「ねぇ雅兄、それってお土産?」
「ああそうそう。来る途中でいいの見つけたから、みんなで食べようと思って」
そう言いながら見せてくれたスイカは、確かに色も形もすごく良さそうだった。

「一人じゃ一玉なんて食べ切れないから久しぶりだよ、丸いやつ」
家を出る前は家族みんな好きだし一玉買って食べることも多かったけど、1人になってからは切り売りされてるやつばかりだった。
だから丸々一玉うちにあることにちょっとテンションが上がってるかも。

「冷蔵庫、入るかな」
「今食べる分を切れば入るだろう」
そう言って雅兄から受け取ったスイカを早速静先輩が切り分けてくれる。
「中もしっかりいい色してるな」
その言葉通り端っこまで真っ赤に色づいてるスイカを見ると、更にわくわくしてくる。

「そういえば昔、海でスイカ割りしたことあったよな」
雅兄もこのスイカを前にしてちょっと気分が上がってるみたいで、そんな懐かしい話までし始めた。
「そうそう、僕がまだ小学生の時だったよね」


「まさにぃ、見て見て! 海だよ、海‼︎」
「弥桜、待ってって! 準備運動して、日焼け止め塗ったの?」

まだ僕が小さかった頃は夏休みになると、うちの所有してる別荘の中から山か海か選んで家族4人で遊びに行ってた。
その年はプライベートビーチのある海辺の別荘に来ていた。

「さぁ、しっかり準備して目一杯楽しみましょう。見て見て、今年はいいスイカが手に入ったのよ」
うちは家族の行事とかみんな大好きだから、母さんも父さんもガッツリ気合いを入れて準備してくる。

毎年何かしらの目玉を用意してくれるんだけど、それがこの年はスイカ割りだった。
「これっ! スイカ割りしていいの⁉︎」
「ふふふ、もちろんよ。準備は万端なんだから」
そう言いながら母さんは目隠し用の手拭いといかにもな木刀を、何が入ってるのかと思っていた荷物の中から取り出して、僕に装着してくれた。

「よし、スイカも準備出来たぞ」
離れた所から聞こえる父さんの声を合図に、雅兄と母さんがあっちでもないこっちでもないって言いながら、僕をスイカまで導いてくれた。

「そのまま真っすぐだよ!」
「違う違う、もう少し右よ、弥桜」
「いやいや少し行き過ぎだ。左に修正だ」
「え~、もうどこいけばいいのー‼︎」

結局そのままスイカには辿り着けず、かなり的外れな所に振り下ろして僕の番は大失敗に終わってしまった。
でもその後にやった雅兄が上手いこと命中させて、綺麗にパックリ割れたんだ。

そのスイカを食べた後も、海に入ったりビーチボールで遊んだり砂のお城を作ったりと、目一杯遊び尽くした。
案の定その日は夕食を食べながら寝てしまうぐらい遊び果てたのだった。


「ほんと今も可愛いけど、あの頃の弥桜は天使だったよね」
「いいですね。俺も見てみたかった」
「うちにあの頃の写真あると思うよ。あ、雅兄僕の写真いっぱい持ってたよね? 携帯に入ってるでしょ」
あの頃を知らない静先輩はスイカを齧りながら、僕たちの話に思いを馳せていた。

そんな静先輩に、渋る雅兄から携帯を借りてフォルダを漁って写真を見せる。
特に昔はみんな写真が好きで僕ばかり撮っていたから、うちのアルバムはもちろんそれぞれの携帯にも大量に僕の写真が入ってる。

「うわ、弥桜、かわっ、いい」
「でしょでしょ! 本当にこの時の弥桜はまじ天使。今でさえこんなに可愛いんだから、弥桜の可愛さは一生不滅だよね」
「ほんとに」
なんかいつの間にかスイカの話から僕の話に変わってて、僕を置いて二人で盛り上がっていた。

まあでもこんな夏休みのいいよね、といつまで経っても盛り上がったままの二人を眺めながら、まだ純粋だったあの頃に思いを馳せるのだった。

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