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終章 経営惨憺
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しおりを挟む「こんなところで会うなんて偶然だね」
「ぁ・・・え、と・・・・・・」
目の前の人が怖い。
知らない人じゃないけど、上手く受け答えが出来る気がしなかった。
「大丈夫? 顔、真っ青だよ」
こんなところで誰かに話しかけられるなんて思ってなかったから、頭が真っ白で何も考えられない。
声も遠くの方に聞こえる気がする。
自分の心臓の音がうるさくてあまりよく聞こえない。
「そういえば、今日は1人かい? いつも一緒にいる彼は今日はいないのかな」
それでもなんとか耳の端に聞こえる声に首を振って返す。
「そうか、それは良くないね。君を1人にするなんて」
「ひっ・・・・・・」
目の前の佐条さんは優しそうな笑顔だけど、なにか嫌な感じがした。
持っていたショルダーバッグの紐をぎゅっと握って俯いたままゆっくり後退る。
すると さんも一歩近づいてきて、大袈裟なほどびくりと全身を震わせてしまった。
「本当に大丈夫? うちすぐそこなんだけど、休んでいきなよ」
そう言いながら差し出される手に、ひゅっと喉が鳴って息が詰まる。
もう心臓も身体もガチガチだった。
「・・・ぁ、っ・・・・・・」
そんな状態で声が出るはずもなく、頑張って会釈だけして固まってる体を無理にでも動かして来た道を戻ろうと、背を向けて歩き出そうとした時だった。
「待って、どこ行くの? 僕の家はそっちじゃないよ」
またもや肩を掴まれて、今度は早く戻りたくて急いでた分さっきよりバランスを崩してしまった。
後ろに倒れるところをどうしてもこの人に触れたくなくて無理に体を捻ったから、受け身なんか取れるわけもなく思い切り地面に倒れ込んでしまった。
「ご、ごめんっ、でも君が急に逃げようとするから・・・・・・。大丈夫?」
変な体勢で倒れたからどこか怪我をしたかもしれないし、ぶつけた衝撃で痛いのかもしれないけど、そんなことは今の僕には分からない。
それよりも今の自分が倒れたりなんかして大丈夫なのか。
もう自分一人の身体じゃないんだ。
お腹の子に、影響は無いだろうか。
そればかりが不安で、倒れる時咄嗟にお腹を抱え込んだ腕にぎゅっと力を入れる。
「どうしたの? お腹痛いの?」
守らなきゃと強く意識したせいで、問いかけられる声につい口をついて言ってしまった。
「・・・っあの人の子供が・・・・・・」
こんなことを言ったら余計に煽ることは分かっていたのに、本能が止められなかった。
「・・・こんな状態の君を1人にするなんて。やっぱりあんな男に君は任せられないよ。綺麗で儚くて今にも消えてしまいそうな君は、僕が守ってあげなくてはと常々思っていたんだ」
今までの優しい言葉は消え現れた本性が、もう今にも気を失いそうなほど怖かった。
「他の男の子供なんか必要ないよね。そんな汚らわしい存在は早くなくしてあげなくちゃ」
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