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第5章 落穽下石
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しおりを挟む家から出る時はこうして毎回ぎゅうぎゅうに抱きしめてくれるようになった。
特に一人で出かける時は殊更強く長い時間くっついてからようやく離される。
僕としては嬉しいから何時間でもやってくれて構わないけど、前に結永先輩が来た時やりすぎだって言って静先輩と話してた。
実家にいた時もみんなしてくれてたから、それが当たり前なんだと思ってたけど、どうやら何かおかしいらしい。
でもやっぱり嬉しいからこの時間は出かける時のちょっとした自分へのご褒美だった。
「ほら、これでもう大丈夫だろ。一緒に出よ」
ぱぱっと身支度を整えて連れ立って家を出る。
商店街までの道のりはあっという間で、ちょっと話してるうちにすぐお別れの時間だ。
「じゃあな、また明日。皆さんくれぐれも弥桜のこと、よろしくお願いします」
「任せときな。この商店街の中ならどこにいたって大丈夫さ‼︎」
肉屋のおばちゃんとか魚屋のおじさんとかみんな出てきては、口々に任せとけ、大丈夫だからって言いながら駅に向かう静先輩を一緒に見送った。
「弥桜ちゃん、今日は何がいるの?」
「えっと・・・・・・」
買い物はみんながあれこれしてくれて問題なく終わって、帰りは早上がりだったていう武蔵さんと一緒に帰ってきた。
「じゃあね、弥桜くん」
「はい、ありがとうございます。さよなら」
隣の部屋の武蔵さんと玄関で別れて部屋に入る。
誰もいない真っ暗な部屋。
つい半年前までは当たり前だった光景。
今じゃ明日までこのままだっていうだけで、何か恐ろしいものに取り憑かれたように怖くなってくる。
「大丈夫、明日には静先輩がちゃんと来てくれるから」
自分を鼓舞するように呟いて部屋に上がった。
翌日やっぱりちゃんと静先輩が来てくれてようやく気が抜けたみたいにほっとした。
「大丈夫だっただろ」
「大丈夫だった」
本当はすごくすごく怖かったけど、静先輩には知られたくなくて何にもなかったよと平気な顔して返す。
「そういえば今日結永先輩が家に来るって言ってた。話があるって。話ってなんだろ」
「弥桜に言うってことは、俺じゃなくて弥桜に話があるってことだろ」
本当はなんとなく話の内容に想像がついてた。
静先輩に心当たりのない僕たち二人だけの話といったら選択肢はほとんどなかった。
あのことだったら絶対に静先輩に聞かれるわけにはいかない。
「ふふ、二人だけの秘密話だから、静先輩は聞いちゃダメだよ。だから今日は結永先輩が来たら帰ってもらって大丈夫です」
本当は怖いからずっと隣にいて欲しいけど、それ以上に聞かれたくないからわざと戯けて悟られないように自然に帰ってもらうように促す。
そんなやりとりをしてる時だった。
インターホンのなる音が聞こえた。
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