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第5章 落穽下石
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しおりを挟むこんなんじゃいつまで経っても平行線だ。
考えろって言われてももう考えたんだから、本当にどうすればいいかわかんなかった。
「んーじゃあ、代わりにこれやるよ」
そう言って渡されたのはいつも静先輩の耳で光ってるシンプルな形の赤いピアスだった。
なんで今こんなもの渡してくるのかもわかんないし、しかもピアスとかつけないから穴とか空いてなくて渡されてもどうしようもなかった。
「これ、父方の祖母の形見なんだ。片方弥桜が持っててくれ」
物で機嫌取りしようとしてもその手には引っかからないぞ、と突っ返そうとするより早く、大事な物だから弥桜に持ってて欲しいんだよ、とぎゅっと手を握られる。
そんな静先輩の言葉に、手の中にあるこれが一気に輝いて見えた。
そんな大事なものを渡してくれたことが、嬉しかった。
さっきまで反抗していた気持ちはどこへやら、なんだか綺麗に丸め込まれてしまったような気がすることは引っかかるけど、今はこれで十分だった。
「大事にする」
そう言ってもう一回ぎゅっと握り込む。
根本的な解決にはなってないけど、これは静先輩が僕を信じてくれてる証だから。
これがあれば常に静先輩を感じられる。
そんな気がするから、しばらくはこれで大丈夫だろうと思った。
「おう。じゃあ明日の帰りにでも開けに行こうか」
当然つけるとなれば穴を開けなきゃいけないわけで、病院に行こうってなるのはごく自然なんだけど。
「静先輩に開けて欲しい」
静先輩の袖を握る。
他人の手が触れるって考えただけで、体が強張って変な汗をかきそうだった。
今は出来るだけ静先輩以外の人に触られたくない。
「ちゃんと病院でやってもらったほうが綺麗だし安全だぞ」
「ううん、静先輩がいい」
「そこまで言うならまあ別にいいけど。失敗しても文句言うなよ」
「分かってる」
静先輩が心配してくれてるのはわかるけど、体中いろんな傷だらけで今更一つ増えようが大したことじゃなかった。
静先輩ならなんだって大丈夫。
何回考えてもやっぱり、僕にとっては他の人に触られることの方がよっぽど気色悪いことだった。
「じゃあ明日、帰りに商店街のドラッグストア寄って道具買って帰ろ」
「うん」
気づかないうちに明日の大学からは意識を逸らされ、話は気分良く綺麗にまとめられて終わっていた。
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