僕とあなたの地獄-しあわせ-

薔 薇埜(みずたで らの)

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第5章 落穽下石

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「弥桜、家まではっ、我慢してくれ」
目の前にいるはずの静先輩の声が、すごく遠くの方で聞こえる。

早く触ってほしい。
もっと触れたい。

どれだけ時間が経とうとも、落ち着けと我慢しろと言われても、頭の中が触れて欲しいという欲に侵されていて逃げ場がない。
もう発散するまで自分でも止められない。
「弥桜、いい子だから、ちょっと落ち・・・んんっ」

「んふっ・・・はぁ、はむ・・・・・・んぁ・・・」
目の前にある静先輩の瞳には、さっきまで滲んでいた否定の色はほとんどなくなっていて、あと少し押せば完全に落ちる。
首に手を回して密着し、さらに口づけを深める。

火傷しそうなほど熱を持っているのが、僕の舌か静先輩の舌かもわからなくなるほど、どろどろに溶け合って境目がなくなるほど混ざり合う。
ずっとこのままこうしていたい。

「おい静、着いたぞ」
静先輩の腕から力が抜けた直後、結永先輩の声に二人とも意識を現実に引き戻された。
「っ、あ、ああ、助かった」
唇を離し顔を背けられ口寂しさに耐えられないのを、静先輩の首筋に顔を埋めてがしがし齧ることでなんとかやり過ごそうとした。

あと少しで部屋だから。

一回引き戻された意識がまた徐々に濁っていくのを抑えるのに必死になっているうちに、もういいよと静先輩の声が聞こえて、ここが自分の部屋でもう結永先輩も帰った二人きりの状態だということに気づいた。
もう誰に見られることも無い、知らない人もいない、静先輩のそばにいるんだ、と思ったら、頑張って我慢して張り続けていた気が全身から抜けていく。

「しずかせんぱいっ、こわかった・・・・・・、さわって、いっぱい・・・さわって」
恐怖か、安心か、それとも発情か、ぼろぼろと溢れ出してくる涙を止めようとすることもなく、とにかく静先輩の手を欲する。
「弥桜、大丈夫か? ・・・・・・ほんとに大丈夫か?」

全く頭が働かない。
静先輩の言葉の意味さえ理解出来なくて、それを聞き流しながらあちこち確かめるように触られる手の感覚を一つも逃すまいと感じようとする。

触られた場所全部が気持ちい。
こんなに安心する。
もう絶対に、絶対にこの手を離したりしない。
一緒に居ちゃダメだとか、そんなことどうでもいい。
少し、ほんの少し離れただけで、何があるかわかったものじゃない。
だから、何があってもこの手は離さないと決めた。

「しずかせんぱい、だいて、おねがい・・・・・・くび、かんで」

もう知らない人の手で感じたくない。
静先輩だけがいい。
ずっと、ずっと・・・・・・。

「・・・・・・弥桜、それは出来ない。今それをしてしまうと、多分お前が辛くなるから。それに弥桜、発情だけじゃなくて熱もあるだろ。今そんな無理はさせられない」

静先輩が何を言ってるのか、全然わからなかった。
頭が働かないとか、そんなことじゃなくて。

拒否されるなんて、1ミリも考えてなかったから。

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