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第4章 同甘共苦
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しおりを挟むものすごく気まずい。
どうしても静先輩と会うことに気が進まなくてうだうだしながら支度をしていたら、迎えに来てくれていた結永先輩に喝を入れられて家を出てきた。
それからは車に突っ込まれてあれよあれよと言うまに心の準備も何も出来る前に大学に着いてしまい、今静先輩の目の前に二日ぶりに引き摺り出されている状況である。
風邪を引いてたって嘘をついたこともそうだけど、僕の中で考えることを放棄したあの女性について。
静先輩は断ったって言ってるけど、あの人じゃなくても女性でも男性でもαでもΩでも、もっと他にいい人がいるんじゃないか。
僕じゃない誰かが静先輩の隣にいる想像が消えてくれない。
僕の中では何ひとつ解決していなかった。
「おはよ、弥桜。風邪治ったって聞いたけど、本当に大丈夫か?」
「・・・・・・お、はよう、ございます。大丈夫です、元気です」
体調自体はあれだけ寝ていれば体力有り余ってて元気も元気なものだった。
だから元気なことに偽りはないのだけれど、とにかく勝手に逸れていく視線を不自然にならないようにすることで精一杯で返事はままならなかった。
この日は僕が告白のことを知っていること、気にしていることをとにかく気づかれないようにと出来るだけ自然な状態でいようとした。
上手く出来ていた自信はないけれど、とにかく少しでも時間が欲しかった。
これから静先輩とのことをどうしていくのか。
静先輩も結永先輩も僕が気にする必要はないって思ってると思うけど、どうしても自分が静先輩の隣にいる未来が、これからが見えないんだ。
αとかΩとか関係なくても僕が静先輩の隣にいることが、いいことだとは思えない。
「弥桜、この後はもう帰るんだろ? 今日は俺も一緒に・・・・・・」
「あ、あのっ。今日は用事があって。だから家にいないっていうか」
「ああ、用事なら仕方ないか。病み上がりなんだからあんま無理すんなよ」
「うん」
帰りはかなり久しぶりに一人で電車に乗って帰った。
この3ヶ月でいろんなことがあって、静先輩に出会って結永先輩とも仲良くなって、ずっと車で送り迎えをしてもらっていた。
けど、本当は予定なんかないのにあるなんて言っちゃったし離れるかもしれないなんて選択肢が自分の中にある状態でまだ送ってもらうなんてことは関係をずるずると引きずることになる。
そう思って一人で帰ることを選んだけど、やっぱり死ぬほど怖かった。
静先輩の声が聞こえない、手を伸ばしても静先輩には届かない。
そんな状況で大勢の人の視線の中に入るのは足が竦むほど怖かった。
それでもなんとかして家までたどり着いた瞬間、全身の緊張が切れて足元から崩れ落ちた。
もう一歩も歩けなかった。
真冬でもないのに、足が震えて指先は白く冷たくなって、その場から何時間も動けなかった。
静先輩がいないだけでこんな状態なのに、この先静先輩と離れて生きていける気がしなかった。
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