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第4章 同甘共苦
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しおりを挟むいつものように車に乗せてもらった帰路も、いつものような話し声がすることはなかった。
今までのこととか僕の変化とかをだいたいは知ってるから、今回のことがどれだけ僕に響いているのか分かっているのだろう。
流石の結永先輩でも、話しかけてくることはなかった。
「ほら、着いたよ」
長らく静かだったところにいきなり響いた声に、思考を放置して遠のいていた意識が少しだけ現実に引き戻される。
それでも車をおりて部屋に向かう途中で既にまた現実逃避をはじめ、足元もフラフラと覚束なくなっていた。
「・・・・・・」
僕が階段を踏み外さないように結永先輩が支えてくれる。
何か言いたげな空気を感じたが、そんなことに気を回していられる余裕は今の僕にはない。
手も震えて家の鍵を取り出すにも時間が掛かる。
なんとか鍵を開けて家に入っても一歩も動けずにいる僕に、結永先輩が優しく背中を押してくれる。
かばんも上着も床に落としてベッドに潜り込む。
とにかく今は何もしたくなかった。
自分の中で整理のつかない気持ちがぐるぐる暴れている。
こういう時一人で抱え込むことしか出来なくて辛い。
辛いのに、どうしたらいいのかわからない。
静先輩に助けてって言いたいのに、この気持ちの原因に助けを求めることなんて出来ない。
「っ・・・・・・」
完全に自分の殻に閉じこもる直前、何を言うでもなく結永先輩が優しく頭を撫でてくれた。
その手の優しさにいつも静先輩がしてくれていることを思い出して、さらに辛くなる。
「しずかせんぱい・・・・・・」
「本当に静に会わなくていいの?」
「ん。・・・・・・今は一人になりたい。静先輩には親からの急用だって言って」
結永先輩が黙っててくれるなんて思えないけど、今の僕はどうやっても静先輩と会える状態じゃない。
会いたくないっていう意地だけが今の僕を形造っていた。
「わかった。静にはそう言っておくよ。明日はどうする?」
「体調不良でお休みです。看病もいらないって」
「じゃあ今日明日はゆっくり休みな。明日は俺が一人で来るよ」
それだけ言い残して結永先輩は帰っていった。
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