僕とあなたの地獄-しあわせ-

薔 薇埜(みずたで らの)

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第4章 同甘共苦

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静先輩が理学部物理学科なのはこの前聞いた時に少し教えてくれた。
生まれも育ちもここからそう遠くないところだとか、誕生日が2月4日だとか、A型だとか、一人っ子だとか。

静先輩のことはなんでも嬉しいけど、あの時はそんな表面的なことぐらいしか聞けなかった。
大学はなんでこの学科に入ったのかとか少しでも突っ込んだ話はひとつも聞けなかった。

「うちの学科いくつか専攻が分かれてるんだけど、その中でも俺は第2性専攻なんだ」
特に深く考えずにこの話題を選んだけど、第2性と聞いてどきりとした。
僕が今まで対峙してきた一番大きな問題。

「つい最近まで基本的には俺もそこらの連中とそんなに考え方とか違うわけじゃなかったから、αとかΩとかそれなりの目で見てた。ただ他と違ったのは、それが当たり前だとは思ってなかったことだな。こいつと幼馴染だったのがでかいんだと思う。実家が病院だから普段から、βもΩも見る機会が多かった。あとはうちのお袋がαにしてはかなりゆるい性格だったてのもあるだろうけどな」
結永先輩の実家が病院っていうのも初めて聞いたけど、静先輩も第2性について少し違うことを感じていたのか。
僕に対してあれだけズレたことが言えるんだから、そりゃ少しは違う考え方をしていたって不思議じゃないけど。

「ただ俺の場合は純粋な興味だったな、最初は。弥桜みたいに強く何かを思ってたわけじゃない。単純に世間と病院との違いを見て第2性って何が違うんだって気になっただけだった」
気になっただけって静先輩は言うけど、むしろそこが気になる感性を持っていること自体が既に他の人とは違ったのだろうと思う。
そういう意味では元から静先輩も世間とはかなりズレていたのだろう。

でも、と静先輩は話を続ける。
「弥桜と出会ってからは考え方がかなり変わったからな。Ωの生態についてちゃんと知らなきゃいけないって思ったし、弥桜がかなりそこのところ気にしてるってのもあるから、確実に前よりよっぽど深く考えるようにはなったよな」
「僕のせい?」
「せいって言うのは違うと思うけど、まぁ弥桜と出会って変わったことは大きいよ」

「静はほんとに変わったよねぇ。俺なんかよりよっぽど医者の息子感あるし。最近は真面目に考えるようになって一層そんな雰囲気出てるよね、親父がたまに俺よりお前の方が息子に欲しかったとか言ってるし」
静先輩の話に結永先輩がそれなぁって頷いてるけど、俺なんかよりってことは結永先輩も何かあるのだろうか。
「結永先輩はお医者さんにならないんですか?」

「俺も最近事情が変わって実家のことちゃんとやろうかなって思い直したんだけど、それまでは家のことは兄貴に任せて全然違うことしようと思ってたんだよね。だから俺、経営学科入ったんだし。まぁみんな医者の知識しかないから結果無駄にはならないだろうけど。元々俺、性別とか興味なかったし男女でさえ見た目の違いくらいにしか思ってないからね。他のこともだけど医者に興味なかったから」
二人の話を聞いてると本当に静先輩の方がお医者さんっぽく聞こえてくる。
「俺たち生まれた場所も時間も育った環境も性別も全部同じなのにこうも違ってくるとはな。むしろここまで同じだからこそ余計静の方がうちの遺伝子持ってそう」

静先輩と結永先輩の以外なほどの共通点に、もしかしたら今日一番驚いたかもしれなかった。

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