僕とあなたの地獄-しあわせ-

薔 薇埜(みずたで らの)

文字の大きさ
67 / 152
第4章 同甘共苦

63

しおりを挟む

結局断りきれなくて行くことになってしまった今日は、まさかの雨模様。
起きた時には既に雨が降っていて、天気予報も今日は一日雨だって言ってた。

人の多いところにはまだ行きたくなくて、でもどうせ連れて行かれるなら雨なんか降ってない方が少しは楽かなと思ってたんだけど。
「準備出来たか?」
「・・・・・・うん」
出掛けること自体はもう変えようがないから、だったら今度こそちゃんとあちこち隠していこう、とマフラーも巻いて上着も着て気持ちを落ち着けた。

傘も差したしこれならなんとかなるだろう、と家を出たとこまでは良かった。
「やっぱまだ怖いか?」
「っ、静先輩が大丈夫って言ったから、大丈夫だと思うようにしたんだけど・・・・・・」

どうやら駅までの道すがら商店街を通り過ぎた後からは、誰かとすれ違う度に一々ぴくりと反応して無意識に静先輩に寄っていたらしい。
らしいって言うか、その度に傘がぶつかるから自分でも気づいてはいたんだけど。

「ほら、傘貸して」

結局目的地に着いてからは静先輩の傘に入れてもらった。
出来るだけ歩きにくくならないように気をつけながらも、ぴったりくっつく感じで歩いてる。

僕の家から電車で数駅、今日のお出かけ先は大学の最寄り駅の街だ。
最近は結永先輩の車で大学に行くことが多かったから、駅方面に来る必要もなくて久しぶりな感じがする。

「どこか行きたいとこあるか?」
「んー、ちょっと喉乾いたから、冷たくて甘いやつが飲みたいです」

今日のお出かけは駅ビルにある家具屋に布団を買いに来ることが目的だった。
けど、元々ものが増えることがいやで、ましてやいいものを買おうなんて気にはまだまだなれなくて、目的の買い物は全然時間が掛からず終わった。
かなり早く終わったからこのまま帰るのも味気ない、と街に出てどこか寄ってこうということになった。

「ちょうどそこに、スタパがあるだろ」

自然な流れで聞かれたからつい答えてしまって、僕も街に出てみたいと思っているみたいになってるけど、だから人の多いところはまだ怖いんだって。

僕が素直に答えたことに気を良くしたんだろう。
ノリノリな静先輩に抵抗するも虚しく、連れていかれた先は『STARPUCKS COFFEE』だった。

「ここならコーヒーもチョコレートもあるから丁度いいな」

何となく甘いもの飲みたいって言ったけど、そもそも僕はチョコレート以外の甘いものってあんまり得意じゃないんだった。
ただ、チョコレートだけは好きで、好きな食べ物は? って聞かれたら一番最初に出てくるぐらいには好きだ。

「今日の記念に写真でも撮るか」
ここ数週間、色々あったり静先輩が僕の食事を管理してたりしたこともあって久しぶりのチョコレートに、うきうきしながら飲もうとしたら、静先輩がこっちおいで、と僕の肩を抱いてスマホを取り出した。

静先輩もそういうことするんだ。
てっきりそういうの興味ないと思ってた。

静先輩と同じように肩に手を回そうとして一瞬躊躇い、でもやっぱりちゃんとくっつきたくて手を置く。

写真に残る。

そう思ったら静先輩に触れていいのか、一瞬わかんなくなった。
まだちょっと怖かった。
今この楽しいという瞬間が形になって残るんだと思ったら、それはいけないんじゃないかって思えてきて。

でもそうしようって静先輩が言ってくれたから。
もう楽しんでもいいんだって、自分はそうするしかないって思うから。
ちゃんと静先輩の肩に触れる。

「ほら、撮るぞ」
フラッシュの光とともにパシャリと音がした。
「み、見せて!」

うん、ちゃんと笑えてる。
よかった、大丈夫。

「これ、僕にもください」
「もちろん」
トークアプリにピロンと滅多に聞かない着信音を鳴らして写真が届いた。
しっかり保存して待ち受け画面に設定するのも忘れない。
「大事にします、これ」

不安のある中来たお出かけだったけど、特に何かあるわけでもなく、静先輩との思い出もこうやって形に残って普通に過ごせている。
来るまではあんなに怖かった人混みに、今はそこまでの恐怖を感じてはいなかった。

外が見える席で流れるような人混みを眺めながらゆっくり飲み干すと、次の目的地を目ざして店を出た。
まあ行くとこが決まってるわけじゃないけどね。



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

籠中の鳥と陽の差す国〜訳アリ王子の受難〜

むらくも
BL
氷の国アルブレアの第三王子グラキエは、太陽の国ネヴァルストの第五王子ラズリウの婚約者。 長い冬が明け、いよいよ二人はラズリウの祖国へ婚約の報告に向かう事になった。 初めて国外へ出るグラキエのテンションは最高潮。 しかし見知らぬ男に目をつけられ、不覚にも誘拐されてしまう。 そこに婚約者を探し回っていたラズリウが飛び込んできて── ……王への謁見どころじゃないんだが? 君は、必ず守るから。 無防備なおのぼりα王子×婚約者が心配なΩ王子の ゆるあまオメガバース&ファンタジーBL ※「籠中の鳥と陽色の君〜訳アリ王子の婚約お試し期間〜」の続きのお話です。

処理中です...