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第3章 火宅之境
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しおりを挟む「昨日までΩだって隠してたんだって」
「もう3月だぞ。そこまで寒くないのにマフラーなんかして。番避けでもつけてるんじゃないだろうな」
「今まで隠してきてΩの苦労なんて知らないんだろうな」
「同級生に差別の目を向けられるのがどれだけ辛いか」
「そんな奴が番を選ぼうなんて、そんなこと許されるわけないでしょ」
「しかもあいつ、あの桐生製薬のところの坊ちゃんらしいぞ」
「はぁ? あの桐生製薬!? あり得ないだろう、あそこαの両親とβの兄貴に次男が・・・・・・、あれ」
「そうそう、次男だけ何も公表されてないんだよ。でも仲良し家族で有名だろ。だから違うと思ったんだけど」
「昨日、夫妻を見た奴がいたらしくて、あいつと話してたって」
「まじかよ。あの家、家族の愚痴なんか聞いたことないぞ。むしろ、3人とも次男の自慢話結構多いよな」
「隠してただけじゃなくて家での扱いもよかったのか」
「うちは父さんがΩだからお父さんとは別々に住んでる分、まだマシだったけど」
「親父もお袋もβだし、弟なんかαだから、もう家には帰りたくない」
「何よりも、両親に侮蔑の目を向けられるのが一番きつい」
「同じΩのくせに、あんなに辛いことを知らないのか」
「差別、凌辱、侮蔑・・・・・・。Ωに向けられるのなんて、いつもそんな視線だけだ」
「大事にされることなんて、あり得ないんだよ」
この場にいるすべてのΩは僕のことを仲間だとは思っていない。
「そりゃそうだろ。Ωなんて楽しく遊ぶためだけにいるようなもんなんだから」
「そんな役立たずの恥さらしにいい顔するやつなんかいねぇよな」
「Ωの身体にほぼハズレはないからな」
「特に俺たちβにとっちゃ番とか関係ねぇから遊ぶのにはもってこいだしな」
「男のΩとか珍しいからみんな一度は味わってみたいと思ってるし」
「珍しいから特段に具合が良いって噂じゃねぇか」
この場にいるすべてのαとβが僕を奇異の目で見てくる。
この場にいるすべての人が自分を見ているなんて、普通に考えればどれだけ自意識過剰であり得ないことかぐらいわかるはずだが、今の僕にそんなことがわかるはずもなく。
「なぁ、お前その男のΩなんだってな。今から俺たちと一緒に遊ぼうぜ」
ようやく北棟の出口までたどり着いたところで、今まで腫れ物扱いのように視線を向けてくるだけだった人たちの中から数人の男たちが目の前に立ち塞がって来た。
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