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第3章 火宅之境

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「ちょっ、静先輩」
何がどうしてこんなことになったのかさっぱり理解出来なくて困惑するばかりの僕を、静先輩は恐ろしいほど静かな表情で見下ろしているだけで何も言わない。
あ、でもなんか少し頬が紅い気がしなくも・・・・・・。

「ひゃう・・・な、なに」
僕の腕を押えていない方の手が、シャツの中に入り込んできて素肌に直接触れた。
いきなりの感覚に変な声が自分の口から漏れて一気に恥ずかしくなる。

「静先輩・・・・・・?」
状況についていけなくて必死に視線で訴えるけれど、なんだか静先輩の目はどこかうつらうつらとしているようで、上手く視線が合わない。
その間も手は腹部を撫でまわし続け、それだけじゃなく静先輩の顔がゆっくりと近づいてくる。

「えっ、あっと、静先輩!! ・・・・・・んっふ」
腕を拘束されているからいくら身を捩ってもびくともせず、近づいてきた顔が、唇が、僕のそれと重なる。

いきなりのことに思考が全然まとまらない。

「ん、・・・・・・っんん、、」
ゆっくり角度を変えて何度も唇を食まれては舐められ、随分してから開けろと言われていることに気づいて恐る恐る固く閉ざしていた唇を開いた。
それは静先輩の空気に充てられて、拒否するという選択肢が存在しない、完全に無意識下での行動だった。

その瞬間漏れる吐息と同時に口内へぬるりと、熱を帯びた舌が入り込んできた。
それは歯列を割って、驚いて引っ込んでいた僕の舌に触れると、口内を縦横無尽に動いては、余すことなく暴いていく。
歯肉をなぞり頬粘膜を右も左も弄り、最後に舌を絡め取る。

「んん・・・っん・・・んふぅは・・・っ・・・・・・」
状況にも行為の激しさにも全くついていけず、パニック状態の頭では呼吸の一つも上手く出来ない。

されるがまま与えられるがままの感覚が、体中を駆け回るのをどうすればいいのかも分からず、全身の震えを抑えられない。
静先輩は時折口蓋を掠める感覚にもぴくりと震える肩に気づいているのか、わざとらしくそこに当たるような動きに変えてきた。

「はぁ・・・・・・っやぁ・・・め・・・も、ぅ・・・・・・むぅり」

二回目のキス。
初めてじゃないけど、あの時は意識も怪しかったし、何よりも発情期も真っただ中でキスだけでもすごく気持ちよかったのを覚えている。
逆にそのせいでちゃんと静先輩を感じられていなかった。

それが今は頭は全く追い付いていないけれど、意識ははっきりしている。
しかも発情期の時のような暴力的な快感もないから、より静先輩の存在を感じられていた。

舌が、熱い。
あの時もそうだったけれど、あの時より熱く感じる。

息が出来ない。
苦しい。

腕が、体が、動かせない。
辛い。

熱い、苦しい、辛い。
こんな、やめてって言ってるのに、やめてくれない。
無理やり力任せに押さえつけられて、口の中を無遠慮に犯されてる。

なのに、それを嫌だと感じない。

それは、静先輩だから?

それとも・・・・・・。

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