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第3章 火宅之境

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「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」

出てきたものはしっかり完食し満足したあと、片付けは僕がすることになった。
食材の準備から料理までしてもらったのに、片付けまでしてもらうわけにはいかない。
せっせこお皿を下げて流し台の前でスポンジを構える。

結局あの後静先輩の言葉に何も言えなくて、そこでこの話はお終いとなった。

僕と家族。
今まで僕の中にはこの二つしかなかった。

自分の在り方と家族との関係。
いくら自分の抱えているものと相反しても、どんなに納得できなくても。
全部家族だから。
家族は大事だから。
あの人たちが本当に大切だから。
それだけで成り立たせてきたのだ。

そこにいきなり静先輩が入ってきた。
そのせいで一気にバランスが崩れた。
『家族』は僕の中で唯一無二の特別で、家族とそれ以外は扱いが全く違う。
家族には許せることでも、他人には許されないこと。
僕をΩだと知ってもなお変わらずに、それどころか一層過保護に大事にされるなんて。

そんなこと絶対にあってはいけないことなのに、静先輩はそれをさも当たり前のようにしてくる。
それどころか大事だとか好きだとか平気で言ってくるし。

でも。
それでも。
何よりも一番わけが分からないのは。

それを受け入れたいと、一緒にいられるようになりたいと、思っている自分がいることだった。

散々静先輩とは一緒にいられないとか、静先輩が勝手にくっついてきてるだけだとか、言い訳をしてきた。
早く離れなきゃと、結永先輩と言い争いまでした。

たった一日かそこらで、と思う。
Ωだとわかってからもう何年も抱えてきたことで、こんな簡単に変えられる程度のものじゃないはずなんだ。

洗い終わった食器を片付けながら、ちらりと静先輩の方へ視線を向ける。
ベッドに腰掛けて大学の課題だろうか、レポートに目を通している静先輩は、この狭い家でさえかっこよく見える。
どんな場所でもどんな時でも、かっこいい静先輩。

「・・・・・・ん、どうした?」
「っ、いや、何でもない」

こっそり見ていたところを見つかって、咄嗟に視線を逸らしてしまう。

「弥桜、片付け終わったか?」
「ん、うん」
「じゃあちょっとこっちおいで」

なんだろう、と言われた通り静先輩の前に行くと、いきなりむにっとほっぺを摘ままれてむにむにと弄られる。
「ふぇ・・・はにふるんへすは」
「お前、なんか無駄に深刻な顔して考え込んでるだろ。変に考え込まなくても大丈夫だからな。ほら、全部俺が勝手にやりたくてやってることだから」

そうやってすぐ気にしてることに気づいてくれて、僕のことなんか全部お見通しだというように声を掛けてくれる。
そんな静先輩の隣になら、一緒にいたいなって思うんだ。

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