僕とあなたの地獄-しあわせ-

第3章 火宅之境

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｢あ、えっと･･････｣
咄嗟の言い訳も出てこなくて口籠ってしまう。

｢冷えるからさっさと洗ってお湯に浸かれ｣
そう言って頭からシャワーを掛けられて一気にずぶ濡れにされてしまった。
するとさっきまで少しきついくらいに締め付けていた番避けが、ふにゃふにゃになって手が入るくらいには緩くなった。

｢おおお｣
｢濡らせばこうやって緩くなるから洗う分には問題ないだろ。ただここまで緩くなると番避けとしての機能は全くないから、簡単に噛める。何があっても人前で濡らすなよ｣
｢はーい｣

ちゃんと返事はするものの、実際のところ話半分に聞いていた。
だってそもそも番避けとか本当は全然着けたくないし、それで事故があったとしてもそんなことはどうでもいいことだった。
わざわざ言いふらしたりはしないけれど、特に隠そうという気もなかった。
｢ほんとにわかってんのか･･････｣

静先輩の漏らした声を聞こえなかったことにして、言われた通り手早く全身洗いつくして先にお湯に浸かる。
ちなみに僕を洗おうとした静先輩の手は丁重にお断りした。
それでも隙あらば狙ってこようとする気満々な視線は絶えず感じていたけど。

｢･･････ほ｣
｢あーあ、しっかり逃げやがって｣
一時的にでも魔の手から抜け出せたことにほっと一息ついたら、あからさまに残念そうな声が聞こえてきた。

心底がっかりしている様子に、つい何言ってんだと突っ込んでしまう。
｢どの口が言ってるんですか。入る前に変なことしないって言ったじゃないですか｣
｢だってそれはあれだろ、ああ言っとけば少しはましかなって。好きな子と一緒に風呂なんか入って何もするなって方が酷な話じゃない?｣
堂々と認めた静先輩の言葉に、どきりと心臓が大きな音を立てて一気に顔が熱くなるのを感じた。

い、いいいいいいいいいま、す･･･す、き･･････な子って言った!!
いきなり思いもよらない言葉が出てきて、この瞬間完全に思考がフリーズしてしまった。

この人はほんとに変な人だ。
αがΩに対して一緒にいたいだとか大切だとか言うし。
挙句の果てには、す、きだとか言ってくる。
何を考えてるのかわからなくて、調子を狂わされっぱなしだ。

それでもαとΩの間に対等な関係なんてものは存在しないんだから、こんな言葉は真に受けちゃだめだ。
冗談かなんかに決まってる。

｢そっ、それより、静先輩のそれはなんで･･････｣
数秒かけて復活した頭でも結局どう返していいか分からずに、無理やり話を変えた。
さっきからちらちら気になっていたお腹に目立つ大きな痣。

｢ああ、これか･･････。昔喧嘩した時にな｣

静先輩からは全く想像の付かない理由だった。
言いにくそうにしてるから、話したくないことなのだろう。
無理に聞く気もないと口を閉じると同時に、静先輩も洗い終わったようでシャワーの音も止まって、雫が落ちる音だけが響いていた。